26.調子のいい連中
第二章開幕!
(予約投稿間違えてたので再投稿しました)
勇者の勝利で沸き上がる冒険者たち。
未知のモンスターは完全に消滅し、人々の心に安堵が与えられる。
その一方、彼らの様子を遠方から見つめる怪しい視線が一つ。
「――なるほど、実力は健在というわけですか」
元魔王軍幹部の一柱。
完全なる生命体を作ることを望み、あらゆる手段を尽くすことをいとわない。
魔王よりも狂った思考を持つ大悪魔。
狂気のグラーノ。
かつて勇者パーティーとの戦闘で敗北した彼は、先んじて用意していた保険によって生き延びた。
そのことを悟られず、勇者パーティーとの接触を避けて行動し、力の回復を待っていた。
「おかしいですね。私の予想では、魔王様の呪いで大幅に弱体しているはずですが……」
彼は知っている。
結末を。
元々彼に忠誠心などという前向きな思考は存在しない。
魔王の配下に降っていたのも、そのほうが安全かつ、研究に没頭できると考えたからである。
「呪いをすでに解呪している? いや……そうか。あの男のスキル。確かシェアリングという名前でしたね」
彼はこれまでの戦闘をデータとして保管している。
自分自身の体験だけではなく、部下や元仲間たちの戦闘記録も保管済みである。
故に、彼は勇者パーティーの実力と手の内を知り尽くしている。
ライカが持つ最強の支援スキルのことも。
そのスキルがあれば、弱体化したステータスを一時的に、全盛期のものへ戻すこともできることを。
「やはり効いている。勇者の肉体に魔王の呪い……ああ、面白い」
彼はニヤリと不気味な笑みを浮かべる。
その興味は常に、自身の目的のために向けられる。
「ほしい。あなたの肉体、その力も……いずれ必ず私の手に」
グラーノが見つめる先には、仲間たちと無邪気に笑い合うアナリスの姿があった。
◇◇◇
未確認モンスターとの戦闘は無事に終了し、街は守られた。
負傷者は数名出たが、死者はゼロ。
凶悪な能力を持つモンスターと戦い、死者を出さなかったのは奇跡だと多くの者たちが口にする。
否、奇跡ではない。
そうさせたのは誰なのか、薄々感じているようだった。
「あのおっさん、実はすごかったんだな」
「なんであんなのが勇者パーティーに紛れてんだって思ったけど、そういうことかよ」
「あーあ! こんなことならちゃんと指導受けときゃよかった!」
「え? お前も指導されたことあるのかよ」
「なんだ? お前もか。というか、この街の新人冒険者って大体一度は指導してもらってたよな」
「ああ、俺たちってかなり贅沢なことしてたんだなぁ」
周囲から聞こえてくる俺への評価も、徐々に変化し始めていた。
役に立たないおっさん冒険者から、勇者パーティーを指揮する熟練冒険者へと。
そこまで気にしていなかったけど、認められるのも悪い気分じゃないな。
「よかったね! ライカ」
隣を歩くアナリスが明るく微笑んでくれた。
俺は笑顔で返し、前を向く。
後ろにはもちろん、三人の仲間たちが一緒にいる。
「つーか相変わらず無茶なことするよな、お前って」
「そうね。体力ギリギリだったんでしょ?」
「心配したよー」
「大丈夫、あれくらい慣れてる」
戦闘中に俺の体力を分け与え、ダメージを間接的に肩代わりする。
昔から激しく厳しい戦闘ではよく使っていた方法だ。
体力はこの中で一番数値が高いし、負傷者の傷を瞬時に治せる効果的な手段。
加えて体力を削った俺自身も傷を負うわけじゃない。
それに伴う苦痛と、脳が負傷を感知して血を吐いたり、内臓が一部損傷する程度で済む。
「ダメだよ慣れちゃ! 私の代わりにライカが痛い思いをするのは嫌だよ! ごめんね……私が弱くなったせいで」
「気にするな、は無理か。でも、アナリスは今も戦ってくれているだろ?」
「え?」
「魔王と十年間、今もずっと戦い続けている。その身体で、一人で……俺たちよりずっと苦しい想いをしてきたはずだ。それに比べたら屁でもない」
「ライカ……」
「まぁそれに、おっさんになると身体の節々が痛むからな。何もしなくても慣れるんだよ」
「そ、それは違うんじゃないかな?」
こういう時、おっさんを理由にすると笑いに変えられるから楽でいい。
歳をとるのも悪いことばかりじゃないな。
アナリスが変に罪悪感を抱かないように、今後もフォローしていこう。
実際、彼女の聖剣がなければあのモンスターは倒せなかった。
この勝利は紛れもなく、彼女のお陰だ。
「おい、もうついたぜ」
「あ、ホントだ!」
危うく通り過ぎそうになった。
冒険者組合の建物。
今日はモンスター退治の一件で、ディレンさんに呼ばれている。
中に入ると注目を集めて、周囲から声が聞こえる。
「勇者パーティーだ!」
「やっぱオーラが違うな。あのおっさんも今思うと年季が違うっていうか、歴戦の猛者感がしてるしよ」
「調子のいい連中じゃねーか」
「いいんだよ。他人の評価なんてそんなもんだ」
誰なのか、も大事だけど。
何をした人なのかが一番大切なんだと思う。
これまでの俺は彼らにとって、小言をいう中年冒険者でしかなかった。
ただそれだけの差だ。
「お待ちしておりました。皆様」
「ディレンさん」
「おはようございます!」
「はい。どうぞこちらへ」
俺たちは憧れの視線を向けられながら、ディレンさんに連れられ応接室に向かった。
なんともむず痒い。
気にしていないと口では言ったが、注目されるのも昔より恥ずかしい気分だ。






