25.君が最強だと知っている
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未確認モンスターは現在も街に向けて進行中。
森の生物を捕食し、速度を落とすことはない。
最短で十五分後、街へ到達する。
急ピッチで手の空いている冒険者を招集し、複数のパーティーで防衛線を張る。
その最前線にいるのはもちろん、俺たちのパーティーだ。
「あれがそうか? 思ったよりでかいな」
「それに黒い。形状も見たことないわね」
「普通のモンスターじゃなさそうだねー。どこかで見おぼえがるようなぁ」
俺たちの視界にもモンスターが確認できる距離になる。
森の木々を軽く超える全長に、狼のような顔、胴体は丸く太ったネズミに似ている。
いびつで不気味な複数の動物の集合体。
そして漆黒。
「ライカ、あれって」
「この間見たモンスターに少し似てるな」
俺とアナリス、プラトが相対した新種のモンスター。
形状こそ同じじゃないが、雰囲気や威圧感がそっくりだ。
プラトに確認してもらったが、あの時と同じように悪魔に似た魔力を感じるらしい。
立て続けに現れた新種。
やはり悪魔が関与しているのだろうか?
「考えるのは後にしやがれ」
「そろそろ行くわよ」
「ああ、行こう!」
俺たちが先陣を切り、モンスターに向かっていく。
それを見て後続のパーティーも追いかける。
街に到着されては罪のない一般市民が犠牲になる。
そうはさせない。
この距離なら、周囲への被害も気にしなくていい。
まずは挨拶代わりの一発。
「プラト!」
「――天を割る雷鳴」
上空に巨大な魔法陣を生成、放たれた雷はモンスターにヒットする。
が、モンスターは移動を止めない。
「あれを食らって平気かよ!」
「魔法、効果が薄いかもしれないよー」
「だったら俺らの出番だな!」
クーランが槍を構え、モンスターに突進する。
彼が持つ魔槍ダートは、あらゆる障害を突破するという効果を持つ。
故に彼の刺突は、どんな防御も無意味である。
クーランの刺突でモンスターの腹に大穴が空く。
「どうだこら! ――!」
超速再生?
空いた風穴は瞬時に修復し、モンスターの身体から黒い触手が無数に伸びる。
触手の先端は鋭利、岩をも砕く。
クーランは四方から迫る攻撃を全て避けていた。
彼の第一スキル『獣直感』は、一言で表すなら感覚の鋭敏化。
肌で、音で、匂いで、眼で……五感が何倍も研ぎ澄まされ、あらゆる敵意を感知する。
全身で危険を察知し、持ち前の反射神経で攻撃を躱す。
その隙にシルフィーが矢で触手を射抜き数を減らす。
「うねうねと気持ち悪いわね」
彼女は遠く離れた場所から正確に、細い触手まで射抜いていた。
矢は着弾の瞬間に破裂する。
彼女の矢はエルフの技術で作られた特別製。
魔力を吸収することで、矢先に高密度の魔力を溜め、破裂させることで威力を増す。
加えて彼女の第一スキル『千里眼』は、遠くの対象だけでなく、数秒先の未来を見る。
故に、彼女の矢は必ず当たる。
「すげぇ……あれが勇者パーティーの戦いかよ」
「俺らと次元が違う」
「これ、俺たちいらないんじゃ……!」
気を抜いていた冒険者たちの前に、新たなモンスターが出現する。
漆黒の獣たち。
それは一種ではなく、森に生息していたモンスターと同じ形状をしていた。
「なんだこいつら?」
「新手? いや、あのモンスターが出したのか!?」
漆黒のモンスターたちが襲い掛かる。
油断していた冒険者たちは行動がワンテンポ遅れてしまう。
「う、うわああああああ……あれ?」
「なんで俺たち……別の場所に?」
「気を抜くな! ここはもう戦場なんだ!」
若い冒険者に俺は叫んだ。
スキルとは天から授かりし才能。
持って生まれる個人の技能。
努力や経験で後天的に得られることはまずない。
第一スキル、第二スキル、第三スキル……俺たちの最大数である三つ目のスキルまで全員が持っているパーティーは稀だ。
そう、こんな俺でも、三つ目のスキルを持っている。
今使ったのは第二スキル『軍事領域』。
俺を中心とした一定領域内の味方を任意の場所に転移させる。
転移範囲は半径二百メートル。
このスキルは、上下にも有効だ。
「ライカ! 私を上へ!」
「ああ!」
俺のスキルでモンスターの頭上にアナリスを転移させる。
転移直後、彼女は聖剣を上段に構えて振り下ろす。
刃先から光の斬撃を放ち、モンスターの頭部を斬り裂く。
「あのおっさん、こんなこともできたのかよ」
「勇者の一撃もすげぇな。でもまた再生するんじゃ……」
「――いや」
再生が明らかに遅い。
やはり聖剣の攻撃は一番効果が高いらしい。
アナリスを中心に攻めるのがよさそうだ。
他に弱点はないか?
そう考えた時、俺のスキルが反応する。
シェアリングには、一度でもつながった相手の情報が残る。
無意識に感知したのは、かつて仲間として認識した男の存在。
モンスターの中から聞こえる声。
――おっさん……殺してやる。
「ダインズ!?」
間違いない。
このモンスターの中にダインズがいる。
いや、このモンスターがダインズなのか?
人間をモンスターに変える……そんなことができたのは、魔王軍の幹部狂気のグラーノただ一人。
「……」
この件に悪魔が絡んでいるのは確定した。
と同時に、俺は決断しなければならない。
一度モンスターになった人間は殺す以外で助ける方法がないからだ。
「悪いな、ダインズ」
こんな形での再会は望んでいなかった。
それでも、街を守るために、俺たちはお前を倒すよ。
あの時のように、俺のステータスを一時的にアナリスへ移動させて――
「気を付けろ! 何かやべーぞ!」
「全体攻撃が来るわ!」
クーランの感覚と、シルフィーの千里眼が危険を察知する。
モンスターは形状を変え、球体のように変化する。
球体から無数の棘が生成され、四方八方を串刺しにする。
普通なら全滅……だが、俺たちは違う。
「プラト! 結界を頼む!」
「まかせてー」
全員を一か所に転移させ、プラトの結界で守護する。
クーランたちなら大丈夫だ。
この程度の攻撃は自分で対処を……!
戦いの中で、かつての戦闘を思い出していた。
あの頃のように戦っている。
故に、失念していた。
今の彼女が弱体化していることに。
「アナリス!」
彼女は空中で攻撃を受ける。
剣でさばききれないほどの攻撃が彼女を襲う――
「あれ? なんで……」
「ギリギリ……だったな」
「――! ライカ!」
俺は口から大量に血を吐き出す。
外傷はない。
しかしハッキリとダメージが残る。
シェアリングのスキルはステータスを共有する。
体力も移動可能。
つまり、仲間のダメージを肩代わりすることだってできる。
「私のダメージを……ごめん、ライカ」
「俺のミスだ。気にしなくていい。他人より体力は多いしこの程度じゃ死なないよ」
「……」
「ぼさっとしてんな! アナリス!」
「――クーラン」
彼らは戦っている。
今も尚、未知のモンスターを倒すために。
形状が変化し、固く閉ざされた外殻を、クーランの槍が砕く。
そこへプラトの雷撃と、シルフィーの矢が炸裂する。
「道は作ってあげたわよ!」
「あとはよろしくー」
「みんな……」
「行け。アナリス」
俺のステータスのほとんどを、彼女に付与する。
確かに彼女は弱くなった。
それでも尚、彼女が勇者である事実は揺るがない。
「お前は最強の勇者だってこと、俺たちは知っている」
「――!」
弱くなった?
そんなこと、俺たちが言わせない。
魔王の呪いなんて関係あるか!
「俺たちがいれば、お前は最強の勇者だ」
「はああああああああああああ!」
聖剣が光を放つ。
神々しく、猛々しく、その光はあらゆる悪を許さない。
あらゆる負を否定する。
最強にして最高の、人類を救った一撃。
「『聖光一刃』!」
光の斬撃がモンスターの核に届く。
聖剣の力は悪魔やモンスターにとっては特効を持っている。
俺たちの攻撃は届かなくとも、彼女なら倒せる。
「お前の勝ちだ。アナリス」
「勝てたよ! みんなのおかげで!」
この日、俺たちは音を聞く。
天からの祝福の音を。
この世界には勇者がいる……それを知らしめる鐘の音を。
【作者からのお願い】
新作投稿しました!
タイトルは――
『通販で買った妖刀がガチだった ~試し斬りしたら空間が裂けて異世界に飛ばされた挙句、伝説の勇者だと勘違いされて困っています~』
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