24.緊急招集!
「なぁお前ら、夜な夜な二人で何してんだ?」
「「え?」」
夜の特訓を二人で始めるようになって二日後の朝。
唐突にクーランが俺たちに尋ねてきた。
俺もアナリスも、思わず固まる。
「夜になるとお前ら二人でどっか出かけるよな?」
「え、そうだったの?」
「知らなかったー。二人でお出かけ?」
三人とも起こさないよう静かに出かけているつもりだったが、どうやら普通にバレてしまっていたらしい。
とはいえ、まだ内容まではバレていない。
二人の秘密、というよりアナリスの秘密を守るためにも誤魔化すとしよう。
「で、何やってんだ? アナリス」
「べ、別に何もしてないよ?」
ここで問題になるのは、アナリスが嘘が下手すぎるということだった。
クーランも知っているから、当然のように俺ではなく彼女に質問している。
あからさまに目が泳ぎ、誤魔化しているのが丸わかりだ。
「何もしてねーわけないだろ」
「怪しいわね。夜に二人きりで?」
「エッチなことしてる?」
「ち、違うよ! そんなことしてないから!」
アナリスが慌てて否定する。
顔を真っ赤にしながら手をぶんぶん振って。
「そうだよな。するなら部屋でするもんな」
「それもそうね」
「そうだよ! だから違――そういうことでもないから!」
クーランとシスティーにからかわれ、アナリスは余計に顔を赤くする。
今にも沸騰しそうだ。
クーランが俺に視線を向ける。
「実際どうなんだ?」
「内緒だよ。心配することはない」
「そうか。んじゃ言える時になったら教えろよ」
「わかった」
「え? それだけでいいの?」
あっさり引き下がるクーランに、キョトンとするアナリス。
クーランは小さくため息をこぼし、アナリスに言う。
「秘密の一つくらい誰でもあるからな。あぶねーことしてるんなら止めなきゃだが、ライカが一緒ならまぁ大丈夫だろ」
「そうね。ライカの言うことはちゃんと聞きなさいよ」
「迷子になったら大変だよー」
「わ、私のこと子供だと思ってない?」
全員が目を逸らした。
「ちょっとぉ!」
「かっはっはっ! 実際子供みて―なもんだろ。この中じゃ一番な」
「プラトのほうがちっちゃいしよく寝てるよ!」
「そういう種族だから仕方がないよ~」
プラトは大きな欠伸をして、今すぐにでも眠ってしまいそうだ。
一人だけ納得がいかないアナリスは、プンプン怒りながら俺に視線を向ける。
「ライカも私のこと子供みたいって思ってる?」
「え、いやーどうかな? アナリスは今のままで十分魅力的だと思うけど」
「逃げやがったな」
「逃げたわね」
「にげたねー」
うるさいなこいつら!
誰のせいでこんな話になったと思っているのやら。
おかげでちょっと恥ずかしいセリフを言う羽目になった。
ん?
アナリスが顔を赤くしている?
「そ、そう? 魅力的かぁ~」
「チョロいな」
「チョロいわね」
「チョロチョロだねー」
「お前ら、これ以上余計なことを言わないでくれ」
他愛ない日常のやり取り。
急かす使命もなく、急ぐ理由もない。
楽しい。
今、こうしていられるだけで幸せだった。
こんなに楽しいのは十年ぶりだ。
ギルドを作ってよかったと、心から思える。
こんな穏やかな日々が、平穏がずっと続けばいいのに。
そんなことを思う時は、いつだって何かが起こる前触れだった。
突然、街中に鐘の音が鳴り響く。
カーンカーンと、部屋の中にまで聞こえてくる音は――
「な、何これ?」
「これは……非常事態を知らせるベルだ」
「非常事態だって? 何かあったのか?」
「行って確かめましょう。ほら、プラトも起きなさい」
「うー、仕方ないなぁ~」
大欠伸をするプラトを起こし、俺たちは急いでホームから出る。
街の人たちも慌てている様子だった。
事態を把握するために向かうのは、ベルを管理している冒険者組合の建物だ。
俺たちは急いで組合に向かうと、すでに冒険者が集まっている。
中心にはディレンさんの姿があった。
ディレンさんが俺たちに気付く。
「お待ちしておりました、皆様」
「勇者パーティーだ」
「すげぇ」
「でもおっさんだけ場違いだろ」
相変わらず俺への評価は微妙だな。
俺は気にせずディレンさんに尋ねる。
「何があったんです?」
「未確認のモンスターが出現しました。街の南西、森の生物たちを蹂躙しながらこちらに向かっています」
「未確認? どんなモンスターなんです?」
「正確な情報はわかっておりません。偵察に向かった冒険者の方は……」
戻っていない、と、ディレンさんは唇を噛みしめる。
ディレンさん曰く、モンスターの進路にはこの街がある。
残り二十分もすれば街に到着するだろうと。
「その前に倒せってか」
「やるしかないわね。ここは私たちの街でもあるわ」
「早く終わらせてゆっくり寝たいなー」
「うん! 私たちが倒そう!」
「お願いできますか? 皆様」
ディレンさんの真剣な視線が俺に向けられる。
アナリスたちの言葉が、すでに答えだ。
街の危機を放っておくような人間は、ここにはいない。
俺たちは――
「やってみます」
勇者パーティーだ。






