20.新たな怪物
「だーっはっはっはっ! 勇者がそんなわけわかんねーモンスターに手籠めにされかけたってか!」
「もう! 笑い過ぎだよクーラン!」
「いやだってよ。お前が触手に絡まってるところとか、想像できなくてよ。無理やり想像したらヘンテコで笑っちまった」
「ヘンテコって何さ! 大変だったんだからね!」
ピンチになった話をしたら、クーランは爆笑し、アナリスはプンプン怒っている。
新種、異形のモンスターの存在はすでにディレンさんにも伝達済みだ。
今のところ情報はない。
新種のモンスターが発見されたのは、ここ数年では初めてことだった。
「まっ、そのモンスターの正体が悪魔関係なら、アナリスが苦戦した理由もわかるけどよ」
「魔力は悪魔に近いらしいよ。プラト」
「うん。似てたよー」
「じゃあ悪魔の実験体かしら? 前にもモンスターを作る実験をしてた悪魔がいたわよね。確か幹部にも」
「あいつは倒したろ。それこそ俺らの目の前でアナリスがな」
「うん! モンスターをいっぱい出して街の人を襲ってた悪い悪魔だよ!」
かつて旅の途中、街の人々を全てモンスターに変貌させる実験をしていた悪魔がいた。
魔王軍幹部の一柱、狂気のグラーノ。
いかれた性格で、仲間すら研究のための材料だと思っていた奴だ。
俺たちが戦い、最後はアナリスの聖剣で倒した。
「あいつ以外にもいるかもしれねーな。いかれた実験してる奴が」
「だとしたら放っておけないわね」
「安眠の邪魔はしてほしくないよねー」
「うん! もしも悪魔がまた悪さしてるなら、私たちが何とかしよう!」
「そうだな」
困っている人を放っておけず、悪を決して許さない。
その意思や姿勢は、十年経っても変わらない。
今、この瞬間だけ、魔王と戦った頃の俺たちに戻った気がする。
◇◇◇
某日、王都周辺で事件が起こる。
それは噂から始まる。
異形の怪物が旅人を食らい、旅人に化けて新たに人を襲う。
時に盗賊が餌食になり、何の罪もない行商人も食われてしまった。
騎士団が派遣されたが、今のところ異常は確認されていない。
ただのモンスターに襲われた不運、として処理されていた。
だが、事実は違う。
「なんだよ……なんなんだよこれ!」
噂は事実なり。
異形の怪物は存在していた。
自在に形を変え、人間を捕食する新たなモンスターが。
「嘘だろ……まだ一分も経ってないのに」
全滅していた。
王都から街へと帰還していたダインズたちは、彼一人を残して全員が捕食された。
周囲には大量の血痕と、食い残しの腕や足が落ちている。
仲間たちは悲鳴を上げ、いつしかその声も聞こえなくなった。
夜の闇に紛れた怪物の影は、徐々にダインズへと向かう。
「こんなところで……」
「死にたくありませんか?」
「――!」
男の声が響く。
モンスターの傍らに、赤い瞳の男が立っていた。
ダインズは悟る。
その男が人間ではないことを。
だが恐怖が勝っていたダインズは、その問いに素直に答えてしまう。
「あ、当たり前だ! 死にたくない! こんなところで死ぬなんて、せめてあのおっさんを見返して……」
「ほどよい恨み、憎しみを感じますね」
人ではない男は歩み寄る。
姿は月明かりを背にして逆光になり、よく見えない。
しかし人ではない。
それだけはわかっている。
「その恨み、私が晴らさせてあげましょう」
「ほ、本当か?」
「はい。力を与えます。この力で好きに生きてください」
「好きに……」
男の声は心地よく、ダインズの心に易々と踏み入った。
「そうです。嫌いな相手は殺せばいい。好きな相手は支配すればいい。あなたの思うがままに生きなさい」
「いいのか? そんな最高な人生で」
「ええ、その代わり、連れてきてほしい人間がいます」
「誰だ? 誰を連れてくればいい?」
「――勇者アナリス、彼女をここへ、私の元へ連れてきなさい。さぁ、もうあなたは弱さを知らない。真の強者になるのですよ」
ダインズの胸に、男は触れた。
感情と共にあふれ出る魔力に、ダインズの身体は崩壊し、再構築される。
彼は死んだ。
そして、生まれ変わった。
新たな怪物として。
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