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2.昔の話ですよ

 翌朝。

 頭痛で目覚めてうなされる。

 

「ぅ……飲み過ぎたか」


 二日酔いだ。

 昨日の夜はギルドを追い出され、ちょっとイラついていたから、普段よりも多めに酒を飲んだ。

 元々酒は強いほうだけど、限度を超えると翌日がきつい。

 そうじゃなくても、少し落ち込む。

 怒りが治まり冷静になるほど、ギルドを追い出されたという現実を重く受け止める。

 初めての体験ではない。

 これまでにも何度か、同じような経験をしてきた。

 それでも……。


「慣れないなぁ」


 ため息をこぼす。

 何度経験しても、仲間だと思っていた人たちに拒絶されるのは心にくる。

 たとえ短い期間だったとしても、共に戦いを潜り抜けた記憶は鮮明に残っているから。

 

 しばらくベッドでぼーっとして、時計を確認する。

 そろそろ彼らも冒険に出発した時間だろう。

 今なら冒険者組合に顔を出しても、鉢合わせる心配もない。

 俺は手早く着替えて準備をする。


「いつまでも落ち込んでいられないからな」


 と、自分に言い聞かせる。

 生きるためにはお金が必要で、お金を稼ぐためには働くしかない。

 生まれてこの方、冒険者以外の仕事をしたこともない俺にとって、何年経とうと他の職業に変えるという選択肢は浮かばなかった。

 何度ギルドを追放されようとも、俺は冒険者として働くしかない。

 それだけが……今の俺にできること。

 何者でもなくなり、ただの中年冒険者になってしまった俺には、これくらいしかやることがなかった。

  

  ◇◇◇


 冒険者組合。

 全ての冒険者が加盟している世界最大の商業組合であり、様々なクエストが各地から集められ、冒険者たちに斡旋する。

 冒険者になりたいなら、まず組合で登録を済ませる必要がある。

 登録すると等級が割り振られ、最初は一番低いF級からスタートし、一番上はS級まで存在する。

 それから自分のレベルにあったクエストに参加したり、誰かとパーティーを組んだり、気の合う仲間でギルドを立ち上げたりする。

 今の俺はフリーで活動するB級冒険者だ。

 ほとんど冒険者は固定でパーティーを組んだり、どこかのギルドに所属している者だが、生憎俺には縁がなかった。

 というより、ギルドに所属する気にもなれなかった。

 そんな俺がどうして、半年間とは言え歳の離れた若い冒険者のギルドに加入していたのか?

 その理由は、冒険者組合から与えられた俺の役割にある。


 冒険者組合の建物に到着した俺は、受付嬢に声をかける。


「すみません。支部長に会いたいんですが。ライカが来たとお伝えいただければ伝わると思います」

「かしこまりました。少々お待ちください」


 手慣れた手つきで受付を済ませ、しばらく待っていると……。

 奥から髭を生やし、身なりの整った男性が姿を見せ、俺と視線を合わせる。


「お待ちしていましたよ、ライカ君。どうぞ中へ」

「ありがとうございます」


 俺は彼に案内され、組合の応接室へと通された。

 長細いテーブルを挟み、ソファーに腰かける。


「急なのに対応してもらってすみません、ディレンさん」

「いやいえ、ライカ君ならいつでも歓迎しますよ」


 彼はこの街の冒険者組合のトップ、支部長のディレンさんだ。

 俺よりも一回り年上で、ダンディーな雰囲気を醸し出すおじさんだが、昔は凄腕の冒険者だったらしい。

 ディレンさんとは昔馴染みで、よくお世話になっていた。

 いや、今もお世話になっている。


「君がここを訪れたということは、ギルドで何かありましたか?」

「ええ、実は……」


 俺は昨日会ったことをそのまま伝えた。

 ディレンさんは話を聞いて、難しく悲しそうな表情を見せる。


「そうでしたか。申し訳ありません」

「なんでディレンさんが謝るんですか? 悪いのは俺ですよ?」

「いえ、若い冒険者の指導をお願いしたのは私です。このような形になってしまったこと、深くお詫び申し上げます」

「……」


 反応に困る。

 実際、この仕事を依頼してくれたのはディレンさんだった。

 若手の冒険者ギルドに一年間という期限付きで加入し、彼らが一人前になるようサポートする。

 俺のスキルや経験は、若い人を育てるのに向いている。

 特にやることもなかった俺は、ディレンさんの話を受けることにした。


「やると決めたのは自分ですから。やっぱり悪いのは俺ですよ。実際、こんな冴えない中年冒険者の手なんて、本当は若い子たちも借りたくはないでしょう」

「何を言っているのですか? あなたほどの冒険者に指導してもらえる機会なんて普通ありえないことです。十年前、世界を魔王から救った伝説の勇者パーティー。その参謀だったあなたの」

「……昔の話ですよ」


 俺は視線を逸らし、窓の外を見つめる。

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