18.お魚きらい
「ま、どうせ時間はあるんだ。それぞれ行きたい場所を順番に埋めていけばいいだろ」
「それなら聞く必要なかったんじゃねーか?」
「大事なことだ。みんなが何を思っているのか、お互いに知っておいて損はない」
「なるほどな。まっ、こうなるってわかってたけどよ。んじゃ最初はどうすんだ?」
「まずはお前たち、等級を上げないとな」
「あ、そうだったよ! 私たち一番下のF等級だよ!」
アナリスが思い出したように手を叩いて口に出す。
この場で俺を除く全員、冒険者としては新人に相当する。
受けられるクエストも限定されてしまう。
「別に等級なんていいじゃねーか。無視できねーのか?」
「ダメだよ! 私たちはもう冒険者なんだから!」
「そういう決まりか。めんどくせーけど、どうすりゃ上がるんだ?」
「実績を積むことだよ。受けられるクエストをたくさん受けて達成する。組合が俺たちの功績から等級を付与するんだ」
B級まではクエストの達成や、これまでの功績によって組合から勝手に付与される。
A級以降は功績の他に、本人の実力や人格、面談を受けたりもする。
以前にアナリスと約束した。
みんなでB級まで上がって、一緒にA級の審査を受けようと。
その話をみんなにすると、全員それがいいなと納得してくれた。
「ライカ一人だけB級ってのもな。どうせやるなら一番上の等級まで行こうぜ」
「いいわね。目標がないと張り合いがないもの」
「みんなに任せるよー」
「じゃあ決まり! まずは等級を頑張ってあげよう! で、何すればいいんだっけ?」
「さっき話したよ……」
アナリスはそうだっけ、とキョトンと首を傾げた。
他人の話を聞いていないのも彼女らしさだ。
目的を定めた俺たちは、さっそくクエストを受けるために組合へ足を運んだ。
組合には掲示板があり、そこにクエストが張り出されている。
クエストは等級ごとに分けられ、星マークで難易度がわかるようになっていた。
「これってさ? 俺らはF級しか受けられねーの?」
「俺が一緒ならB級までは受けられるよ。ただ、地道に一つずつ受けるのは効率が悪いから、手早く実績だけ稼ぐなら分担したほうがいいと思う」
「分担か。どんな感じに?」
「そうだな」
今日はギルドを出るのが遅かったから、ここにあるのは余り物のクエストだ。
FからB級まで、そこそこ数が残っている。
「じゃあ二つに分けよう。俺と一緒にB級のクエストを受ける面子と、F級のクエストを全部まとめて受ける面子だ」
「B級はそこそこ強いモンスターもいるのね。だったら無難に、F級のほうは私とクーランがいいわね」
「俺もそう思っている」
B級のクエストはほぼ全て討伐クエストだ。
モンスターの中にはそれなりに面倒な相手もいなくはない。
負けることはないが、安全を考えるなら前衛と後衛が揃っている面子が望ましい。
俺はクーランに確認する。
「それでもいいか?」
「別にいいぜ。見た感じ、俺が求めてる相手はいなさそーだしな」
クーランは戦いを好む性格だ。
F級のクエストは採取や弱いモンスターの討伐が多く、彼にとっては退屈だろう。
嫌がられるかと思ったが、すんなり受け入れた。
「大人になったな」
「大人しくなったわね」
「うるさいな、お前ら」
「やっぱり二人は一緒がいいんだね!」
「「そうじゃない!」」
「はははっ」
割り振りも決まった所で、俺たちはクエストを受注した。
F級は残っていた十三枚全て。
B級も同じく残っていた七枚を提出する。
本来、こんな一気にクエストを受注するのはマナー違反だが、時間帯的にもう新しく受ける冒険者はいないだろう。
どうせ余って明日に繰り越すくらいなら、俺たちが受けてしまって問題ない。
受付嬢はちょっぴり動揺していたが、ディレンさんから話が通っていたらしく、問題なく受理された。
特別扱いはしないと言っていたが、あの人も大概甘いな。
「さて、夕方までに全部終わらせるか」
「おう。こっちが終わったら合流するぜ」
「わかった。じゃあ、行こうか」
俺たちはクエストに出発する。
普通はもっと気合を入れたり、念入りに準備をしたりするものだ。
新人冒険者なら特に、油断すれば壊滅もありうる。
けれど、彼らと一緒にいると、なぜか何が相手でも負ける気がしなくなる。
いつもは慎重な俺が、何の対策もせずにクエストに向かったのは十年ぶりだった。
途中でクーランたちとは別れた。
俺たちは森に入り、さらに奥に進んで滝がある湖にたどり着く。
最初の討伐ターゲットは、湖の中に生息している人食い魚、ピラニクスだ。
アナリスが何の躊躇もなく湖に足を入れようとする。
「待て待て、入らなくていい」
「え? そうなの?」
「おびき出せばいい。あいつらは好戦的で刺激に敏感だ。テキトーに石でも投げ入れたら――」
ぽちゃんと石が湖に落ちて音が鳴る。
直後、一斉にピラニクスが湖から跳び上がり、俺たちに襲い掛かる。
「ホントだ!」
「暢気に感心してないで武器を構えろ」
俺とアナリスが剣を抜こうとする。
それよりも早く、雷撃が背後から撃たれ、ピラニクスの群れは黒焦げになってポトポトと落下していく。
振り返ると、右手人差し指から魔法を放ったプラトの姿があった。
プラトは不機嫌だった。
ふと、あることを思い出す。
「そういえばプラトって」
「魚が嫌いだったな」
「うん。お魚……嫌い」






