17.ライカに決めてもらおう!
ギルドは自らの拠点を決める。
街を選び、拠点となる建物、すなわちギルドホームを建設するのが、一つの目標となる。
一年や二年、長い場合は十年以上かけてお金を貯め、念願のホームを作る。
そういう楽しみからは、どうやら俺たちには無縁だったらしい。
「いきなりホームが手に入るとはな」
「ま、いいんじゃねーの? どうせ金なら余ってたんだしな」
「そうね。使い道なかったから、どうしようかと思っていたのよ」
「ボクどこでも、最高のベッドがあればいいですよー」
俺たちは魔王討伐後、王国から多額の金品を受け取っていた。
世界最高の功績を上げたのだから、相当の金額だ。
五人で等分にしても、一生遊んで暮らせる大金があったのだが……まさか、誰一人手を付けていないとは思わなかったよ。
アナリスやプラトはともかく、クーランたちも手付かずだった。
「使えばよかったじゃないか」
「そのセリフをそのまま返してやるよ」
「そうよ。ライカこそなんで使ってないの?」
「それはまぁ、大金過ぎて何に使うのが正解かわからなくて、ずっと放置してた」
人間、自分の懐から溢れる大金を手に入れると、使いづらさを感じてしまうらしい。
あとは俺なんかがこんな大金を使っていいのかと。
みんなにもっと還元すべきじゃないかと思ったりしていた。
「おんなじだぜ。俺らもな」
「私はエルフの里にいたから、使う機会が極端になかったのよ。プラトはずっと王城だったものね」
「そうですね~ ご飯は出て来たし、お金なくてもよかったですよ」
「つーかお前ら全員欲がねーな」
「欲ならあると思うよ。ただ、金がいらないってだけかな」
「違いねーな」
俺たちは知性があり、理性があり、それぞれに感情がある。
街を歩く人と何も変わらない。
欲のない生き物は存在しないと、俺は思う。
俺たちはかつて、王国や人々のために、使命を背負って戦った。
大きく重い使命から、今は解放されている。
だからこそ、俺たちは己の欲を満たすために、新たな冒険をしてもいいだろう。
「よっしゃ、暇だし身体動かしてーな。ライカ、アナリスちょっと付き合えよ」
「いいよー!」
「いいけどその前に、今後の方針だけ決めておこう」
「方針?」
俺は小さく頷く。
全員、ちょうどリビングに集まっていた。
少し大きめのテーブルを囲み、俺とクーラン以外は椅子に座っている。
「みんな冒険者になって、俺たちがギルドを作った。今後は組合からのクエストを受けていくことになる。そうやってお金を稼ぐんだけど、俺たちの場合は金じゃなくて楽しむためかな」
「そうだな。金ならまだほとんど残ってるしよ」
「相当頑張らないとこの大金は使い切れないわよ。いっそ国に返してもいいと思うわ」
「それは俺も考えたけど、陛下の厚意で一度貰ったものだからさ。返すのは陛下に失礼だし、たぶん返さなくていいって言われると思うぞ?」
「王様なら言いそうだね! 顔は怖いけど優しい人だから!」
みんな考えることは同じだ。
十年前の俺たちも、お金や名誉のために戦ったわけじゃない。
今もそれは変わらないらしい。
「俺たちの場合、目的が金や名誉以外になる。だから先に聞いておきたいんだ。みんなはどんなクエストを受けたいのか。どこへ行きたいのか。何をしたいのか」
我ながらギルドマスターらしいことをしている、と、ちょっぴりしんみりする。
最初に元気よく手を上げたのはアナリスだった。
「はいはい! まだ楽しいところがいい!」
「漠然とし過ぎだろ。俺はあれだな。手ごたえのある相手と戦えりゃーそれでいいぜ!」
「あんたは相変わらず戦闘狂よね。私は戦いより、自然豊かで空気が美味しい場所がいいわ」
「ボクはゆっくり寝れるベッドがあればどこでもいいですよー」
「……」
見事に全員バラバラで、呆れてしまう。
予想通りだった。
元々性格、趣味趣向も全員違うし、生まれた場所や種族すら異なる。
そんな俺たちが初対面にも関わらず、よく一年も一緒に冒険できたなと、改めて感心した。
今もさっそく主張のぶつけ合いが始まっているし。
思えば冒険を始めたばかりの頃は、よく意見が合わずに喧嘩していたっけ?
そして大抵、彼らだけでは意見がまとまらず、最後にどうなるかもお決まりだった。
彼らの視線が、一斉に俺へと向く。
「ライカに決めてもらおうよ!」
「そうだな」
「それが一番いいわね」
「ライカ、おねがーい」
「お前らなぁ……最後の最後でいつも俺に丸投げするなよ」
とか口では言いながら、俺もまんざらでもない気分だった。
だってそうだろう。
自分の意見を強く持ち、譲らない彼らが、俺が決めたことには従ってくれる。
俺が選んだものなら、それでいいと思ってくれる。
名だたる英雄たちがだぞ?
そんなの名誉以外の何ものでもない。






