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16.英雄の箱庭

 街を出発して一か月。

 エルフの里、王都を回り、そして帰還する。

 たった一月離れていただけで、もう懐かしさを感じている。

 俺にとっては十年過ごした場所だから当たり前で、みんなにとってはこれから一緒に活動する新しい拠点という新鮮味を感じているだろう。

 街に戻って一番初めにすることは決まっていた。


「ただいま戻りました。ディレンさん」

「――お帰りなさい。皆さん」


 冒険者組合にいるディレンさんへの挨拶だ。

 組合に顔を出すと、まるでこの日だとわかっていたかのように、ディレンさんが出迎えてくれた。

 偶然だと彼は笑っていたけど、予兆があったのかもしれない。

 

「お久しぶりですね。クーラン君、システィーさん、プラトさん」

「おっちゃんもな!」

「ご無沙汰しています。ディレンさん」

「おじさんは髭が濃くなったぁ?」

「はっはっはっ、私もいい歳ですからね。皆様はまだまだお若いようで羨ましい限りです」

「一人はもうおっさんだけどな?」


 クーランがニヤっと笑みを浮かべて俺をチラ見する。

 からかっているが、お前もあと数年でこうなるんだぞ?

 と、心の中で思った。

 口に出しても、今の俺がおっさんだという事実は変わらないし、虚しいだけだ。

 ディレンさんが俺に視線を向ける。


「皆様がおそろいで戻られたということは、同意なされたのですね?」

「はい。俺たちはギルドを作ります」

「そうですか」


 感慨深く、嬉しそうに笑みをこぼすディレンさんに、俺も安心する。

 元々はギルドを建てるのもディレンさんの提案だった。

 あの時は否定的だったけど、今はそれが一番理想だと思える。

 彼女が目覚め、皆が揃ったから。


「では、残った三名の冒険者登録を済ませましょう」

「お願いします」


 アナリスの時と同じように、ディレンさんは冒険者カードを作成する魔導具を持ち出す。

 まだ冒険者登録をしていない三人がカードを作成する。

 当然、三人ともレベルはカンスト済み。

 ステータスも基本的に、カンストしてからは上昇しない。

 旅を終えた十年前と変わらぬ数値に、安心感を覚えるのはたぶん俺だけだろう。

 クーランができたてのカードを眺めながら呟く。


「なんかあれだな? 自分の数値って初めて見るな」

「そうね。普通は見えないもの。ライカは別だけど」

「数字見てると眠くなるよぉ~」

「お前は常にだろ。うわ、やっぱプラト、お前の魔力量はやばいな。この中でダントツだ」

「いいなー! 私なんて弱くなってるから恥ずかしいよー」


 アナリスも加わり、互いの冒険者カードを見比べながら会話を弾ませる。

 俺も昔、冒険者になりたての頃はそうだった。

 他人の数値が気になったり、自分と見比べてどこが高いとか考えたりしていたな。

 今はそういう気持ちも薄れてしまった。

 スキルの影響で見慣れた数値だからな、どれも。


「おいライカ! お前も見せろよ!」

「え? いいけど見てもつまらないと思うぞ」

「いいから見せろ! ほれ!」

「急かすなよ。はい」


 俺は自分の冒険者カードを四人にみせる。

 まじまじと見られるのは、なんだか自分の内側を覗かれているみたいで恥ずかしいな。


「普通だな」

「普通ね」

「ふつー」

「だから言ったじゃないか」


 そういう感想になるだろうとは思っていたよ。

 俺のステータスはどれも平均的だ。

 ステータスも個人差があり、戦闘スタイルや倒してきたモンスターの種類、武器や魔法の適正によって上がりやすい数値が異なる。

 魔法使いのプラトなら、魔力量と魔法攻撃力、魔法耐性が高い。

 槍手のクーランは、この中で一番移動速度は速い。

 このようにステータスには個人の特徴が出るのだが……俺は突出して高い項目がない。

 代わりに低い項目もない。


「ライカらしいね!」

「それは褒めてるのか?」

「もちろん! なんでも器用にこなせるのは、ライカの長所だよ!」

「長所、か」


 そんな風に言ってくれるのは、アナリスたちだけだろうな。

 俺は自分のことを器用貧乏だと思っている。

 彼らは英雄の器だ。

 他の誰にもできないことを、彼らは出来てしまう。

 俺は凡人で、一人だけじゃ英雄になんてなれないけれど、英雄たちを誰よりも近くで見てきたから知っている。

 彼らの存在が、凡人の俺を英雄にしてくれたことを。

 

「さて、これで皆さんの冒険者登録は完了しました。ギルドの設立も、この場で受理させていただきます」

「やったね! ライカ」

「ああ」

「その上で二点、確認いたします。まずは一点、ギルドのトップ、ギルドマスターはどなたですか?」


 ギルドの代表、ある意味顔役。

 ギルドマスターとはそういう存在だ。

 本来ならば、勇者であるアナリスが適任だろうと、俺は思っている。

 けれど、アナリスは、他のみんなの視線は俺に向けられていた。


「ライカだよ!」

「だな」

「そうね」

「いいと思う~」

「私もそれがいいと思いますよ」


 ディレンさんまで同意してしまったら、もはや否定するほうが空気を読めていない。

 俺なんかでいいのか、という気持ちはあるけれど。


「わかったよ」


 皆がそう言ってくれるなら、これが俺の役目なのだろう。


「ではギルドマスター、あなたのギルドの名前を教えてください」

「名前、もう決めた?」

「ああ」


 アナリスと共に旅立った日から、俺はずっと考えていたよ。

 俺はみんなを見つめながらゆっくり語る。


「俺たちの旅は、十年前に終わった。勇者パーティーとしての役目も、アナリスが目覚めたことで完全に全うしたと思っている」

「そうだな。もう、魔王もいねーんだ」

「そう。だから、これから始めるのは定められた旅路じゃない。人々のためでもなく、王国のためでもない。俺たち自身のための……新しい時間だ」


 かつて、俺たちは世界を救った。

 得たものも多いが、失ったものも多くある。

 たった一年の旅路は、俺たちを強くしてくれた。

 俺は知っている。

 彼らの頑張りを、誰より近くで見たからこそ理解している。


「だから、俺が作りたいのは安らげる居場所だ。みんなと一緒に楽しく、賑やかに、落ち着ける場所があってほしい」


 英雄たちが羽を休める場所。

 英雄たちが、英雄としての役目を忘れられる時間を作りたい。


 故に決めたその前は――


英雄の箱庭(ヒーローズ・ガーデン)

「いいと思うよ! 今の私たちにはピッタリだね!」


 どうやらお気に召してもらえたらしい。

 心からホッとする。

 と同時に喜びがあふれる。

 彼らと共に、再び旅ができることを。

 今度は、自分たちの意思で。


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[一言] 「新しい時間・・・ギルド名は『ニュータイム』だ!」 「あ、リーダー交代」
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