15.おっさんから最後の助言
夜になり、ようやく落ち着きを見せる。
王都はお祭り状態だ。
露店が並び、多くの人々が仕事を忘れて遊んでいる。
今日くらいはいいだろう。
みんな、勇者が無事に生きていてくれたことに、喜びを感じているのだから。
「はぁ、疲れた」
「かっはっは! パレードみてた子供に、あのおじさん誰? って聞かれてるのは傑作だったな!」
「ちょっとクーラン、笑い過ぎよ。ふふ」
「お前らなぁー」
こうなるから嫌だったんだ。
パレードは終わり、ようやく解放された俺たちは、人通りが少ない道を選び王都の街を歩いていた。
明日の朝にはここを出る。
拠点とする街へは、寄り道せずに十日はかかる。
気軽に何度も訪れられない。
それに、ここまで賑やかな王都は、俺たちが帰還した日以来だろう。
この光景を遠くからでもいいから眺めていたかった。
「ふぁーあ」
「眠いか? アナリス」
「ちょっとね。プラトは寝ちゃった?」
「ああ」
俺の背中でぐっすり眠っている。
もう少し歩いて回ったら王城へ戻ろう。
そんな話をしている時だった。
「――見つけた」
「ん? その声は……」
俺たちの前に、男たち数人が立ちはだかる。
先頭に立っている若い男性は、俺が少し前まで指導していたギルドのトップ。
俺を追放した張本人――
「ダインズ?」
「知り合い?」
「……ああ、前に話しただろ? サポートで入っていたギルドの冒険者たちだ」
「どういうことだよ、おっさん! なんでおっさんが、勇者パーティーと一緒にいるんだよ」
見るからに彼は興奮していた。
怒っているようにも見える。
真実を伝えずにいたことを、今になって知って怒っているのか?
「すまなかったな。勇者パーティーのメンバーだったこと、黙っていたことは謝るよ」
「嘘つくんじゃねー! おっさんが勇者パーティー? そんなわけねーだろうが!」
「……」
彼の興奮は治まらない。
どうやら俺が正体を隠していたことに怒っている、というだけはなさそうだ。
勇者パーティーは若者の憧れ。
そんな人間たちの中に、俺のようなおっさんが入っていることが許せないのだろう。
気持ちは少しわかる。
確かに俺は、彼らと肩を並べるには不足だ。
でも……。
「おいおい、パレード見てたんだろ? だったら見たはずだぜ?」
「ライカは私たちの仲間よ? 勇者パーティの参謀、まとめ役だったんだから」
「そうだよ! ライカがいたから魔王を倒せたんだ! 君たちあれでしょ? ライカのこと追い出した子たちでしょ?」
「っ……それは、おっさんが役に立たないから、あんたらだって騙されているだけだ! おっさんは腹いせに、俺たちが弱くなる魔導具まで使ったんだぞ!」
「魔導具? 何の話だ?」
「惚けんじゃねーよ! 全部あんたのせいなんだろ?」
怒りを通り越して恨みの感情だ。
何を言っているのかさっぱりだが、勘違いしているのはわかった。
彼らは俺のスキルのことを知らない。
意図的に、彼ら自身で成長してほしくて隠していたから。
「なるほどな。つまりお前ら、ライカが弱いと思ってんのか?」
「そ、そうだろ? おっさんは戦闘中も指示出すだけで何もしてなかったんだぞ!」
「そう見えたのね、だったら試せばいいわ」
「いいこと言うな。俺も同じこと考えてたぜ」
クーランとシルフィーが意地悪な顔をしている。
よくないことを考えた顔だ。
こういう時は決まって、俺が何かさせられるわけだが……。
「この場で戦ってみろよ。ライカと、お前たち全員で」
「は?」
「おい、クーラン。さすがにそれは」
「大丈夫だ。プラトも起きたみたいだし、結界張ってもらえば平気だろ」
いつの間にか、俺の背で目をこすりながら彼女は目覚めていた。
話を途中から聞いていたようだ。
「結界張るよ。ライカ、頑張って」
「これで周りに迷惑はかからん。俺たちの力も勝手に使ってくれていいぜ」
「ええ」
「私のも使って!」
「お前ら……」
全員、俺に戦ってほしいようだ。
どうしてそこまで、と思いながら、彼らのことはよく知っている。
俺のためだと。
「俺らもムカついてるんだよ。お前、馬鹿にされたままでいいのかよ? そんな奴がギルドのトップなんて俺はごめんだぜ!」
「――わかったよ。そこまで言うなら。ダインズ!」
「――! 本気でやるのかよ。こっちは十人以上いるんだぜ?」
「関係ねーな。ライカなら、そうだな。十秒で十分だろ?」
「なっ……」
「また勝手に……はぁ、でも、それでいいよ」
確かに十秒もあれば十分だ。
俺一人なら無理だけど、みんなが力を貸してくれるなら。
「なめやがって! お前らやるぞ!」
「た、戦うのか?」
「いいから武器をとれ! ここであのおっさんをぶちのめしたら、俺たちが勇者パーティーに入れるかもなぁ!」
彼らは言われた通りに武器を取る。
そのほとんどが疑問を抱えたまま、言われるがままに。
「残念だけど、この場所を譲る気はない」
その時点で勝負はついていた。
たとえ人数差があろうとも、連携が取れないとわかっていれば、攻略はたやすい。
一人一人確実に倒せばいいのだから。
「行くぞ」
「――! ……は?」
十秒、かからなかった。
八秒時点で最後の一人、ダインズに剣を向けている。
「なんで……」
「乱戦では強力な魔法は使えない。スキルも同様に味方を巻き込む。剣術や体術がメインなら、一人ずつ間合いを測って倒せば数は関係ないんだよ」
「そうじゃねー! なんでおっさんがそれを、聖剣を使えるんだよ!」
俺が握っていたのは、アナリスが持つ聖剣。
誰もが知る形、光、力。
勇者だけが持つことを許された一振りを、俺のような凡人が使えるはずがない。
「本来なら、な」
「は?」
「俺の第一スキル、『シェアリング』はステータスを自由に操作できる。そこにはスキルも含まれる。今の俺は、『勇者の証』を所持しているんだよ」
「なっ……そんなこと……」
「俺は彼らとは違う。武器の適性はほとんどBだし、魔法適正も普通だった。スキルを除けば目立った長所のない凡人……それでも俺は、彼らと共にいる。俺は彼らを強くできる。そして彼らがいれば、凡人の俺でもここまで強くなれるんだよ」
俺の力はみんなのためにある。
そしてみんなは、凡人である俺に力を貸してくれる。
たとえ一人でも、俺は仲間たちと共に戦える。
彼らが一緒にいて、負ける気がしない。
「わかったか? こいつの強さが」
「私たちはこの力に、彼の機転になんども救われたわ」
「安心できるんだよ? ライカの言葉は」
「いいかい君たち! もう二度と、私たちの仲間を馬鹿にしちゃダメだよ!」
「……くっ、そ……」
多少、大人気なかったかもしれない。
しかしいい薬にはなっただろう。
これを機に、ダインズたちが自分たちの実力と向き合い、正しく成長してくれることを祈る。
俺に出来る最後の指導は、たった一言だけ。
「冒険者カードはこまめに見ておいたほうがいいぞ? レベルアップ後のステータス、意外と上がってないからな」
【作者からのお願い】
本日ラストの更新!!
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