10.共に旅を
俺たちはクーランに案内されて、エルフの里へと足を踏み入れる。
本来ならば他種族は踏み入ることができない。
エルフは元々閉鎖的な種族で、特に人間とは関わりを持ちたがらない。
過去にあった大戦の影響らしい。
クーランは魔王との戦いの後、故郷に戻るという彼女に同行して、そのまま一緒にいる。
手紙でそのことは聞いていたから、ここへ来れば二人に会えると思った。
「普段は門番か。お前らしいな」
「やることもなかったんでね。タダ飯ってのも性に合わねぇし、食わしてもらってる分、働いてんだよ」
「そうか。楽しいか?」
「まぁまぁだな」
クーランがそういう時は、大抵が退屈している時だ。
十年間、彼はこの里でずっと暮らしていたのだろうか。
アナリスに負けず劣らず活発だった彼にとって、この里での生活は窮屈だったのかもしれない。
それでもここにいるのは、彼女の存在が大きい。
「客を連れてきたぜ」
「お客さん? こんな場所に誰――アナリス!?」
「久しぶり! シルフィー!」
二人は顔を会わせると走り出し、互いに抱きしめ合う。
十年ぶりの感動の再会だ。
「目が覚めたのね、アナリス」
「うん! 遅くなってごめんね?」
「本当よ! 心配したんだから」
抱きしめる彼女の瞳は、嬉しさの涙で滲んでいた。
勇者パーティー時代、二人は本物の姉妹みたいに仲がよくて、無鉄砲なアナリスをよく心配していたのがシルフィーだ。
彼女は俺にも気づく。
「ライカも久しぶりね。ずいぶんと老けたわ」
「仕方ないだろ。十年も経ったんだ」
「そうだったわね。十年も経てばライカも立派なおっさんになるわね」
「ストレートに言うなよ」
「かっはっはっはっ! 実際おっさんだからな」
「クーランも笑うな」
この二人は相変わらずだな。
シルフィーはエルフだから、人間と違って寿命が長い。
彼女にとって十年は、一年よりも短い期間のはずだ。
それでも遅いと感じるほどに、アナリスの目覚めが待ち遠しかったのだろう。
俺とアナリスは別の部屋に案内され、テーブルを挟んで腰を下ろす。
向かい側にクーランとシルフィーが座り、俺たちは改めて顔を合わせる。
「本当に目が覚めてよかったわ。もう呪いはいいの?」
「えーっと、一応?」
「ちょっと、大丈夫なの?」
「えへへへ」
誤魔化して笑うアナリス。
ムスッとした顔で、シルフィーは俺に視線を向ける。
あなたは知っているでしょ、と言いたげだ。
「呪いは完全に解呪されたわけじゃないみたいだ。現に彼女の身体は呪いで弱体化している」
「それって大丈夫なの?」
「弱体化ってどの程度だ?」
「生活には問題ない程度だ。戦闘はまぁ、俺がサポートすれば昔と同等の動きはできる。アナリス、あれを見せてあげて」
「うん」
彼女は意図を察し、冒険者カードを見せる。
隣に俺のカードも並べれば、ステータスの差で彼女の弱体化がわかるだろう。
「アナリスも冒険者になったの?」
「うん! ライカと一緒にギルドを作るんだ!」
「ギルドか。いいじゃねーか」
「そう思うなら一緒に来ないか? クーラン、シルフィー」
自然な流れで二人を誘う。
二人とも、俺の誘いにわずかに反応しただけで、大きくは驚かなかった。
アナリスが続けて後押しする。
「今日は二人を誘いに来たんだよ! また一緒に冒険をしようよ!」
「アナリス……」
「お前なぁ、十年も寝ぼけてんじゃねーか?」
「え……もしかして……嫌?」
不安そうな表情を見せるアナリス。
俺は一切不安なんて感じない。
わかっているから。
二人が今、どんな気持ちなのかは――
「んなもん、行くに決まってんじゃねーか!」
「待たせ過ぎなのよ。アナリス!」
「――! みんな……」
「そうだよな」
断るはずがない。
二人だってずっとこの時を待っていたはずだ。
彼女が目覚め、俺たちを引っ張ってくれる。
あの頃のように。
俺にとって勇者パーティーの一年間は宝物だった。
それはきっと、二人にとっても同じことだと思っている。
「そうと決まりゃ、里長に報告しねーとな」
「そうね。まぁ反対はされないと思うけど、おじいちゃんは寂しがり屋だから」
そういえば、シルフィーは里長の孫娘だったな。
以前に一度だけ会ったことがある。
顔は怖いけど優しくて、というより彼女に対して過保護だ。
「二人は十年一緒にいたんだよね?」
「ん? ああ」
「そうよ!」
「やっぱり! 二人はずっと仲良しだね!」
アナリスは無邪気に笑う。
確かにその通りだが、二人に話題をすると決まって……。
「別にそんなことねーよ。やることなくて暇だからここにいるだけだっての」
「私だってそうよ。暇そうにしてるから仕方なく居候させてあげてるんだから! 感謝しなさい!」
「は? ちゃんと働いてるだろうが!」
「何よ! 働けてるのも私のおかげでしょ!」
と、言う感じに照れて否定して、そのまま喧嘩に発展するんだ。
こういうところもあの頃のままで、少し呆れる。
「また賑やかになりそうだな」
「そうだね!」
懐かしさも感じて、悪くない気分だ。
彼らにとってもこの十年は退屈で、時間が止まっているような感覚だったのだろう。
色あせていた世界が、再び色を帯びる。
そんな鮮やかな景色を共にこれから見て行ける。
あと一人。
勇者パーティーが全員揃うのも、もうすぐだ。
彼女は今頃どうしているだろう?
きっと……寝ているだろうな。
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本日ラストの更新です!!
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