1.おっさんは追放される
ある日の夕暮れ。
今日も無事にクエストから生還し、酒場で祝勝会をしていた時のこと。
大事な話があると言われて、俺は身構えた。
「おっさん、悪いけどあんたにはギルドを抜けてもらうぜ」
「……」
ギルドマスターの青年が、俺を見下したような視線で言い放った。
俺は少し驚いたけど冷静に、理由を尋ねる。
「どうして? まだ契約期間は残っているけど」
「もう必要ないんだよ。おっさんがいなくても俺たちは十分にクエストをこなせるしな!」
「……」
俺は思った。
またこのパターンか、と。
このギルドに加入したのは半年ほど前のことだった。
俺は冒険者組合からの依頼で、新しくできたギルドのサポートを請け負っている。
その一環で、結成して間もない彼らのギルドに加入していたのだが……。
「自信が持てるようになったのはいいことだよ。でも、その油断が戦場では命取りになる。君たちは強くなったけど、まだまだ未熟な点もある」
「一丁前に説教かよ」
「何様のつもりよ。戦闘中偉そうに指示を出すだけで、ほとんど戦わない癖に」
周囲から文句が聞こえ始めていた。
ギルドマスターの青年の独断ではなく、俺を追い出すのはギルド全体の意思のようだ。
彼らは皆若い。
俺よりも一回り以上年下な子たちばかりだ。
生意気なところもあるが、年長者として放っておけない気持ちが湧く。
「とにかく、まだ契約期間は半年残ってる。最後までしっかりサポートはさせてもらうよ」
「だから! それが邪魔だって言ってんだよ!」
「ダインズ……」
ギルドマスターのダインズ。
出会った頃はとても丁寧で、気前のいい好青年だったのに。
最近は実力をつけ自信過剰になっているのか、態度も横柄でギルドの女性冒険者と夜の街を遊び歩いている。
たった半年でここまで性格が変わるだろうか。
元々そういう奴だったのだろう。
日に日に俺への当たりも強くなっていた。
それでも俺は年長者として、依頼された者としての責任を果たそうとする。
「おっさんのサポートなんざもう必要ない。確かに? 初めの頃は頼りになるなと思ったよ。けど俺たちはずっと強くなった! レベルだってもう50を超えたんだぜ?」
「友達の冒険者も言ってたけど、これってすごいペースよ? 私たちには才能があるの」
「おっさんはどうせ大して上がってねーだろ? 戦闘で得られる経験値は貢献度で変わるからなぁ。おっさん、うるさいだけで何もしてねーし!」
「おっさんのレベルなんてとっくに超えちまってんじゃねーのか? がっはははははは!」
仲間たちは言いたい放題で、若い冒険者はしきりに俺のことを笑っている。
レベルが急激に上がったことで、気持ちもハイになっているようだ。
レベルの向上によって様々なステータスが向上し、一時的な全能感を与える。
年齢とは異なる肉体の成長を感じられる。
俺も昔はそうだった。
レベルが一つ上がる度にテンションもあがったし、何でもできるって勘違いをした。
そうして痛い目を見て成長する。
とは言え、その痛い目がそのまま死に直結するのが冒険だ。
短い期間だが、共に過ごした仲間が、自ら破滅するような道を歩ませたくはない。
仕方ないな。
もう素直に告白するしかなさそうだ。
俺は小さくため息をこぼし、ずっと隠していた事実を語る。
「ダインズ、それからみんなも聞いてくれ。君たちのレベルが急激に上がっているのは、俺のスキルのおかげなんだ」
「……は?」
「俺のスキルは、自分を含めた一定領域内の味方に経験値を分配できる」
「何言ってるんだ?」
「信じられないかもしれないけど、俺のレベルはとっくにカンストしてたんだ。それでも経験値は得られるから、その分をみんなに分配していた。それだけじゃない。戦闘中はステータスを――」
「……ぷっ、かっははははははははははははは!」
ダインズが大声で爆笑して、その笑い声は酒場中に響き渡る。
笑いは周囲の仲間たちにも伝播して、一緒に笑いだし、声はどんどん大きくなる。
酒場にいた他の人たちも注目する中、ダインズが涙目になりながら言う。
「何を言い出すかと思ったら、おっさん! つくならもっとまともな嘘つけよな!」
「いや、嘘は一つも」
「レベルカンストとかありえねーだろ! そんなもん達成してる奴なんて、伝説の勇者パーティーのメンバーくらいだぜ? おっさんができるわけねーじゃん!」
「……嘘みたいだけど事実だ。冒険者カードを見ればレベルはハッキリと書いて――」
俺は懐から冒険者カードを取り出そうとする。
しかしそれよりも早く、ダインズが呆れながら否定する。
「もういいよ言い訳は。最後に十分笑わせてもらったし」
「言い訳じゃない。本当のことなんだ! 戦闘にあまり参加しなかったのも、君たちが成長する機会を奪わないように、それから……無鉄砲に走るダインズ、君のような若者が死なないように、支援に徹していたんだよ」
いくら伝えても信じてもらえない。
俺も少し熱くなっていた。
真実をそのまま伝えたのは、少々浅はかだったと後になってから反省する。
この一言が、ダインズの自尊心を傷つけてしまった。
笑っていた彼は顔色を変える。
「ふざけてんじゃねーぞ。俺たちの成長が全部自分の成果だって言ってんのか?」
「うわぁ、最悪。これだから中年は……勘違い男ね」
「自分が優秀だと思ってんだろ? 組合の斡旋がなかったら、どこのギルドも拾って貰えねーくせによぉ」
「聞いたか? ここにいる全員、おっさんの馬鹿な妄想には騙されねーってさ」
いつの間にか彼らの表情から笑顔が消えた。
正確には、笑っている奴もいる。
というより、ニヤケている。
哀れな者を見る眼だ。
誰一人、俺の言葉をまともに信じようとしていない。
特にダインズは自分の成長を否定されて頭に来ている様子だった。
「もういいからさっさと出てけよ。おっさんが俺たちより上なのは、歳と大口だけなんだからなぁ!」
「……」
わかっている。
ちょっと勘違いしてしまった若い冒険者によくある間違いだ。
これを正すのも大人の役目だ。
冷静に、落ち着いて対応しよう。
そう心に決めて、彼らに聞こえないように深呼吸をする。
つもりだった。
「ほら、さっさと出てけよ」
「そうだそうだ! でーてーけ! でーてーけ!」
一人が出て行けコールを始め、手を叩きだした。
それに呼応するように他の仲間たちも手を叩き、コールを始めてしまう。
内容を聞いていない周囲の人間も、面白がって加勢する。
まるでこの場の全員が敵になったような感覚と、幼稚なコールに苛立った俺は、大きくため息をこぼした。
「もういい。わかったよ」
さすがの俺も、ここまで明確に拒絶されたら何も言う気が起きない。
「要望通りギルドは抜ける。その代わり、俺がこれまで君たちに貸していたものは、全部返してもらうよ」
俺は彼らに向けて右手を差し出す。
荷物を請け負うように。
ダインズは笑いながら仲間たちに尋ねる。
「おい、おっさんが言ってるぜ? 誰か金でも借りてたのか? さっさと返してやれよ」
「――いいや、もう回収したよ」
俺は手を引っ込める。
確かに戻ってきた。
彼らに貸していたものはすべて、この肉体に。
「それじゃ、これからは自分たちの力で頑張ってくれ」
「言われなくてもずっとそうだぜ? 最近はな。おっさんは自分のことだけ心配してろよ」
「……ああ、そうさせてもらう」
彼らはきっと、これから大変な苦労をするだろう。
今はまだ、お酒も入ってハイになっているし、自分が失ったものに気付いていない。
冷静になって謝罪してきたら……いや、それはないか。
「これも経験だな」
そう呟き、俺は一人で酒場を後にする。
空を見上げると、星々と共に満月が輝いていた。
「お疲れ様、俺。飲み直すか」
自分に労いの言葉をかけて、別の酒場を探して歩く。
こうして俺はギルドをクビになり、一人ぼっちの中年冒険者に戻った。
歳をとると寒さが骨に染みるな。
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