恋心を宝箱へ沈めて。
初めての恋人からは、桃の香りがした。
女子中高一貫校で育ったわたしは、誰かと付き合うなんて、したことがなかった。
まじめに帰り道に寄り道もせず、勉強だけに励んできたのである。
その甲斐もあって、志望校に合格したわたしは、小学校以来の「共学」に胸を高鳴らせていた。
ついに、思春期の甘酸っぱい男女共学の学生生活が始まる。
緊張の面持ちで、わたしは入学式へと向かった。
ーー キーンコーンカーンコーン
入学式が終わり、その後学部でのオリエンテーションも終了した。
皆ソワソワして、友達探し、そして水面下ではお互いの品定めをしている。
特に、男女相互において。
かっこいい子はいたけど、ピンとは来なかったな・・・まあ、これから中身を知ってから好きになることもあるよね。
なんて思いながら、私は階段を下っていった。
「ねえねえ、佐伯さんは何部に入る?」
席が隣で仲良くなった海野さんが聞いてくる。
「うーん、何部があるのかな。色々見てから決めよ! 海野さんと一緒の部活に入れたらうれしいなー」
そんな会話をしつつ外に出ると、ザワザワザワと凄い群衆。
新歓が始まった。
熱い、熱いぞ、これこそ大学だ!
ワクワクと胸が高鳴る。
わたし達も、その熱波の中に巻き込まれていくのであった。