シンリン皇子の肉体美
女性の前でむやみに体を曝け出すのは皇子として恥ずかしい行為と習ってきた俺がセンリの前で体を止めてしまったのが間違いだった。
センリはからかうよつな目付きで笑いながら、何故か照れたように頬を両手で押さえる。そんなセンリにより苛立ちを感じた俺は皇子として習ったことを破り、勢いよく上の服を脱いだ。
「ほう、脱ぐか。まぁお手並み拝見だな」
「うるさい」
「安心せい。我は色んな体を見ている。例えお前がダボダボメタボな体でも……」
「下も脱ぐのか?」
「………ダボダボメタボじゃなかった…」
俺は上半身の服を全て脱いでセンリに見せつけるように前に立つ。自分で言うのもあれだが、たるんだ体では無い。むしろ引き締まっている部類に入る。これも全て武術の鍛錬に精を込めた結果だろう。
「下もか?」
「ハワワワ……」
「何を犬みたいにだらしない顔をしている。腹が減ったのか?」
「引き締まったボディ!細マッチョではないが、着痩せするタイプとは!胸筋が言葉で表せないほどの凄さ。そしてこのシックスパックは綺麗に割れてまるで芸術。上半身でこの威力だったら下になると……」
「何をすれば良い?」
「し、下を…」
餌を欲しがっている犬のように涎を垂らし始めたセンリに若干俺は引き始めたが、指示通りに下の服を脱ぎ始める。
そういえば上半身に傷は何ひとつ無かった。もしかして死者の世界に来たと同時に治ったのかもしれない。
あるとすれば鍛錬で、できてしまったアザのみだ。そんなことを考えながら脱いでいれば、残りは下着だけになった。
「……まさかと思うがこれも…?」
「フヘッ、フヘッ」
「遂に認知症になったか。言葉が通じないのは厄介だな」
「へへへへへッ」
「……本当に脱ぐのか?」
流石に全てを曝け出すのは余計に躊躇ってしまう。しかしこのババアは動物の鳴き声を発するだけで何も答えてくれない。
鋭い視線が俺の体に突き刺さって気のせいだと思うけど痛みを感じる。でもここで止まってしまえばまたからかう言葉を投げかけられるだろう。
脱ぐしかないのか…。俺は力が上手く入らなくなってしまった両手を下着にかけて下に下ろす。
「なっ!何をやっている!?」
「は?」
「別に下着まで脱がんでよろしい!それに下着を付けてこその肉体美じゃろう!」
「だったら早くそれを言え」
「言ってなかったか?」
「認知症だな」
「失礼!お前失礼!!」
「採寸を測るならさっさとやってくれ」
「全く…。これだから女性経験のない男は…。まぁいい筋肉と足を見せてもらったから今回は許そう」
下着で隠れた部分を見せる前にセンリに止められて俺は無事、皇子としての威厳を保った。センリは近くの棚から測りを持って来て俺の体の長さや厚さを確認し始める。
途中途中余計に体に触れるのは妙に気持ち悪い。息が荒くなりつつあるのも俺の気分が下がる1つの理由だ。
「あいOK!もう着ていいぞよ」
「すぐに服は出来るのか?」
「知らん。我が作るんじゃないし。3日くらいはそのボロ服で過ごすと思え」
「あんたの方が失礼だろ」
「フフーン、お前と同じじゃ」
測りを振り回しながら威張る顔をするセンリを横目に俺は脱ぎ捨てた服を集めて着始める。3日後にはこの服ともおさらばかと思うと何だか寂しくなった。
カムイ王都で死ぬ前はずっとこの服を着ていたから肌に染み付いているように感じられる。しかしいつまでも傷ついた服を着るのは皇子としてだらしなさに当てはまってしまうのでここはアサガイ委員長やセンリの指示に従おう。
「お前はずっと戦っていたのか?」
「何故それを聞く」
「こんなに筋肉が付いているのに加えて所々アザのような跡が残っている。それにお前の手。刀のような物を握りすぎてマメが出来とるわい」
「俺はカムイ王都の皇子だ。鍛錬は欠かさない」
「ずっと持っているその刀……」
「これか?この刀は俺が成人の儀をした時に父上から頂いたものだ。刃こぼれしにくく、錆びにくい素材で出来ていて尚且つ切れ味が良い」
「その刀でどれくらい斬った?」
「どれくらい…?俺は人を斬らない。斬るのは拷問官の役目だ」
「リコン学長からはお前はカゲルを1体倒したと聞いておる」
「カゲルと言うのは黒い人間の形をした奴だろ?あれは人ではない」
「……そうか。変な質問をしたな」
「本当だ」
俺は最後に上着を着て元の服装に戻る。センリは近くの椅子に座って何やら紙に書き物をしていた。きっと俺の体の情報を記入している。俺は腰に刀を下げた後に座るセンリに近づいた。
「次は?」
「特刀の注文じゃ」
「特刀とは何だ?」
「生徒達も使っている刀のことじゃ。カゲルを討伐するのに適しておる」
「俺はこの刀で十分だ。いらん」
「んもぅ!教師になったからには特刀も同時に注文しなければいけないのじゃ!!つべこべ言わずに従っておれ!」
本当にババアは怒りやすい。俺の母上はここまで歳を取ってないが、いずれこうなってしまうのか?
……いいや母上は優しいお方だ。皇子としての俺を貫いていればこうなりはしない。
そう考えるとセンリに子供がいたとすれば、その子供は苦労してるのだなと哀れに思えてくる。未だに小声で愚痴を言っているセンリを見ながら俺は苦虫を噛み潰したような顔をしていた。