終演
綺麗に消滅していくヒバナ。本当に終わったのだと俺は膝から力が抜けて立てなくなる。隣にいたレオンは咄嗟に手を伸ばして支えてくれた。
「先生、大丈夫かしら?」
「すまない…力が全く入らないし、体が痛い」
「そんな姿で走るからよ。移動はカムラにでも任せましょう」
反社会政府の屋根に座り込んだ俺はボーッと空を見る。黒煙は既に無くなっていて、曇り空が広がっていた。
「「「先生!!」」」
「あっ」
下から声が聞こえたと思ったら特刀束縛の縄が屋根に絡みついて生徒達が登って来る。戦ったAクラスの生徒達全員が俺に駆け寄って来た。
「お前達…」
「先生ぇ!」
「うわっ、ヒマワリ!?そんな勢いよく来たら…」
「こらこらダメですわよ」
「むぐぅ」
リンガネに抱き抱えられたヒマワリは屋根に足を付けたと同時に俺の元へ走る。しかし激突する前にレオンが間に入って止めてくれた。
一度立ち止まったヒマワリは深呼吸をしてから俺に抱きつく。小さな体がすっぽりと俺の中に収まった。
「ヒマワリ族が先生のことを知らせてくれたんだ。あの黒煙の中を走ってちょうど本拠地から出てきた俺達と合流して助けられた。奇跡が重なったとしか言えないな」
「そうそう!それに作戦は委員長が考えたんだぜ!一方的戦うよりも策を立てたほうがいいってな」
「ああ。流石アサガイ委員長だ。俺の作戦よりも遥かに勝てる確率は高いし考える時間も早い」
「そ、そんな!自信があったわけじゃないんです。皆さんの力が合わさった結果なので」
「……照れてる」
「本当アサガイちゃんは相変わらずっすね。もっとリンガネさんみたいにドヤ顔すれば良いのに」
「あ?カナト。どういうことだよ」
いつものAクラスの雰囲気に俺は安心して口角を上げた。姿を見れば傷ひとつない奴なんて居ない。何処かしら怪我をして制服もボロボロだ。それでもAクラスは笑っていた。
「とりあえず、シンリン先生。状況を報告します」
「ああ、聞こう」
するとアサガイは真面目な顔をして俺に向き合う。簡易施設で寝て、ここに来た途端に黒煙の中に閉じ込められていたので全く反社会政府討伐の結果を知らない。ヒマワリを離してレオンに背中を支えてもらいながらアサガイを見た。
「反社会政府の本拠地にいた崇拝者や関係者は1人残らず確保しました。育成されたカゲルも保管されていたカゲルも隅々まで確認して全討伐出来たと通達されています。ただアカデミー側の負傷者や死亡者が大勢いて完全勝利とは言えません。その、リコン学長も……」
「知ってる。あの人は最後、学長として生徒を守ったんだ。尊敬に値する」
「はい」
「……帰るぞ。俺はお前達に話したいことがあるんだ。バカにしても構わない。信じてもらわなくても良い。ただ聞いて欲しい」
「わかりました。皆さん、帰りましょう」
俺がそう言えばアサガイは頷いて帰還の指示を出す。ある生徒は特刀を収納してまたある生徒は動けない奴を背負った。
Aクラスの生徒が1人も失われなかったのは本当に奇跡なのだろう。頭の中で響いてた声は洗脳が解けた今でも完全に聞こえなくなっていて、今はただ反社会政府本拠地を行き来する車の音だけが耳に入っていた。
考えることは沢山ある。しかし今は目の前に映るかけがえのない生徒達だけを見ていたかった。




