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自己紹介

「カゲルのせいで都心でも日に日に人口が減少されています。そんな中でシンリン先生ほどの武術の使い手を見つけ出すのは至難の業。だからお願いします」


「……」


「でもここにいれば衣食住は提供してもらえるんだぜ?美味い飯と暖かい住処。そしてお洒落な制服!最高じゃねぇか!」


「暴走族は少し静かにしろ」


「てめぇは黙れよ!!」


「俺も貴方の剣術を見た者として言わせてもらうと、十分すぎる教師だ。別に勉強を教えるわけじゃない。貴方が身につけた技を教えてくれるだけでいい」



味方だと思ったハルサキまで俺を勧誘しようとしている。もう俺に逃げる手段はない。


しかしそんな俺から湧き出た感情は絶望と同時にもう諦めようというものだった。一瞬だけ顔を出した諦めの感情を捕まえた俺は段々とカムイ王都の皇子としてのシンリンでは無くなっている気がする。


そうだ。ここは死者の世界だ。ならもう気を張る必要はない。ふっと糸が切れた俺は立ち上がって教室にいる人間達を見渡した。興味無さそうに見ている奴も、目を輝かせている奴も様々だ。



「もうどうせ俺死んでるし…。なら流れに任せて生きていればいいか……」


「シンリン先生?」


「……やってやるよ。お前達を指導してやる。そして嫌われてここから追放されてやる…!!」


「なんかやる意味違ってないか?」


「ハルサキ余計なことを言うな。それに気付いてしまったらまためんどーだ」


「シンリン先生ありがとうございます!私も委員長としてサポートするので安心してください!」


「新人族ではなく先生族か。頼もしい限りだな」


「わぁー!やったー!先生が出来た!」


「………よろしく」


「他のクラスには指導者がいるのになぜAクラスだけは居ないのかと思ってましたが、これで納得ですわ」



四方八方から歓迎の声が聞こえる。もうヤケクソだ。こうなったら地獄のような鍛錬を教えてやろう。


血も涙も溢れるほどに厳しくしてやればいずれこいつらは俺を嫌う。そうすれば無事、指導者という肩書きからはおさらばだ。


我ながら何という恐ろしい計画だろう。父上、母上、悪い考えを練っている俺をお許しください。



「指導者になったら何をすれば良い?早速訓練か?」


「あたしやる!!」


「リンガネさん、まだですよ。この後は座学があるんですから」


「はぁ!?やだよ!サボって先生と戦う!」


「駄々こねるな暴走族」


「テメェは暴走族しか言えねぇのか!?」


「………自己紹介」


「そうですね。まだみなさんの名前を教えていませんでした。まずは信頼を深めるためにお互いのことを教えておきましょう」



アサガイ委員長は誰かがボソッと言った自己紹介の提案に頷く。リンガネはまだうるさく騒いでいた。


よっぽどボコボコにされたいらしい。訓練の時、あいつだけより厳しくしてやろう。



「改めて自己紹介します。Aクラスの委員長を務めているアサガイです。17歳でアカデミーに所属して2年になります」



自己紹介も真面目にこなすのがアサガイ委員長。これから生徒の中では1番頼ることになるはずだ。



「出席番号順なら俺か。ハルサキだ」



こいつは必要最低限しか言わない性格なのか。そういえば出席番号とは何なのだろう?



「出席番号3番!リンガネだ!歳は22!レディーの年齢聞けるなんてラッキーと思え!」



お前、成人してたのか…!俺は内心驚いてしまうが顔には出さなかった。今までの言動からして年齢に関して口出しするとうるさくなると理解できたから。


俺は知っている3人に「よろしく」とだけ言って次の自己紹介に移った。



「東北の田舎から出てきた上京族カムラ。歳は19。よろしく頼む」



さっきから何でも族を付けているが何の意味があるのか俺にはわからない。低い声とごつい体をしてながらも歳はまだ成人してない事実に少々意外だ。それにカムラなんて、我が故郷の名前と似ているな。



「レオンよ。高貴こそ正義をモットーに掲げていますわ。…一応言っておくと性別は男です」


「え!?」


「ふふっ」



レオンと名乗るのは外見は普通に女だ。長くて深緑の色をした髪色は俺と同性とは思えなかった。こんな奴カムイ王都でも見たことがない。…警戒人物の名簿に入れておこう。



「私はヒマワリ!花の名前から付けられたんだ!シンリン先生よろしくね!あっ、年齢は13歳!」



先程すかーとが何たらかんたら言っていた少女だ。リンガネとは違うタイプの元気さで、13歳というのも納得できる。


こんな小さな少女に武術を教えなければいけないのか…?すぐに泣きそうで俺は指導するのが億劫になってきた。



「……ミロクニ。18歳。女」


「ああ、よろしく」


「………」


「………」



ハルサキ以上の静かさに俺も無言になってしまった。



「それじゃあ最後にシンリン先生の自己紹介をお願いできますか?」


「良いだろう。シンリンだ。カムイ王都の皇子で現在父上と母上を探している。指導は厳しくいくので嫌いになるなら早くなって欲しい」


「カムイ王都?皇子族?何を言ってる?」


「俺の故郷だ」


「えっと、シンリン先生は少々アニメの影響を受けている方みたいなので……察してあげてください」


「………アニメ」


「だから変な服なんだね!!」


「それに少し破けてませんこと?」


「破けてる?どこがだ?」


「前側が少しボロってますわ」



俺はレオンに言われて自分の服を確認する。確かに切り傷のようなものが服に走っていた。もしかしてこれは賊にやられた時の…?


しかし切られているのは服だけであって体は何ともない。後で1人になった時に服を脱いで怪我がないか見てみよう。



「先生になったのでもうこのコスプレ衣装は着れないと思いますが……もっとかっこいいのを用意してくださるはずです」


「まぁこの服も結構着ている。破れているなら変えるのに良い機会だ」


「先生すかーと履く?」


「ならワタクシがスカートのご指導をして差し上げましょう」


「俺に指導は必要ない」


「とりあえずAクラスの自己紹介が終わったので次は服や特刀の注文に行ったほうがいいかもしれませんね。次の座学まで15分ほどあるので私が案内します」



アサガイ委員長は俺に手招きをすると教室を出て行く。他の奴らの輪から抜け出した俺は何だか疲れが一気にきた気がした。何だか教室と廊下の空気の違いが凄い。



「俺、指導者になったのか……」


「私の我儘を聞いてくれてありがとうございます。これからよろしくお願いしますね。シンリン先生」


「ああ…早く嫌ってくれ」


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