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死を経験した者の言葉

「先生いつの間にこんな上手になったの?」


「暴れるな!……ったく。コツさえ掴めば出来ることだ。今は左腕がお前とお揃いなんだからじっとしていてくれ」


「お揃い…!へへっ、先生とお揃い!」


「喜ぶ部分あったか?」



次々と建物の屋上に特刀束縛の縄を引っ掛けて、左足を使い着地した瞬間にまた別の建物に飛び移る。その方法を取ったのが正解だったようで反社会政府の本拠地に俺とヒマワリは近づいていた。


焦げ臭いものが鼻を刺激して顔を歪める。しかし若干違う臭いが混ざっていて俺は不思議に思った。



「到着したらどうする?」


「状況を確認して生徒達と合流する。俺は十分に動けないからヒマワリに頼ることが多くなるけど良いか?」


「勿論!ヒマワリ頑張るね!」



意気込んだヒマワリはギュッと俺に強くしがみついた。左腕が無い不安定な状態でも落ちないでくれて助かる。落ちてしまったらそれだけで時間が無駄になってしまうのだ。


すると鉄の建物を越えた俺達の目には反社会政府本拠地が見える。最初に来た時よりも悲惨な姿と化しているカムイ王都激似の建物。


アカデミーの人間と反社会政府の崇拝者、そしてカゲルが激しくぶつかり合った証拠だろう。



「着地するぞ!」


「うん!」



俺は地面に近くにあった鉄の柱に束縛縄を巻きつけて途中で減速しながら着地する。ヒマワリを降ろして目の前を見れば黒煙で視界が曇り、中の様子がよくわからない。それでも人の声が聞こえるので戦いはまだ終わってないのだろう。



「うう、目が染みる…」


「煙を吸うなよ。自分の鼻に服を押し付けろ」


「はーい」



縄を収納した俺は特刀を持っている腕で鼻と口を押さえる。何が原因でこうなったかを近くの人間に聞かなければいけない。ヒマワリが煙を掻き分けながら俺はその後ろをゆっくりと着いて行った。


右足は違和感しかないが、歩けないほどではない。生徒を助けるためなら痛みなんてどうってことなかった。



「本当に変わったな…俺」



アカデミーに来た時は生徒に嫌われて追放されようと動いていたはずだ。しかし今はそんな生徒達と一緒に居たいと思うようになり父上や母上、カムイ王都の民よりも大切に思っている。


俺を変えてくれたのは紛れもなくAクラスの生徒達なのだ。これは恩返しに値する。そのためなら腕や足だって惜しくない。



「先生!人!」


「ん?」



想いに浸っていた俺とは違いヒマワリはちゃんと人を探してくれていたようだ。片足で人が居る方向を差すと確かに人の姿があった。


俺はヒマワリと目を合わせて頷くと黒煙に混じる人影へと足を進める。目を細めながらその姿を見るとアカデミーの制服を着ていた。けれどもAクラスの生徒ではない。きっと補佐を担当する生徒だろう。



「おーい」



ヒマワリは俺達に背を向けて蹲る生徒を片足で突っつく。すると面白いほどに飛び上がって振り返った。



「お、お前達!」


「ん?何処かで見たことあるような…?」


「ヒマワリは知らなーい」



見たことのある顔と声。白い布を口に当てて俺達の存在に驚いているのは確か……



「アサガイの…」


「何しに来たんだよ」



そうだ。アサガイに付き纏う男だ。カナトとハルサキと共に居た時に出くわした生徒。アサガイを泣かせた男子生徒。思い出した俺はそいつを睨みつけると、そいつも睨み返した。



「大体なんでお前達がここに居るんだ。前線だろ?それに片腕無しは復学したのか?」


「おい」


「せ、先生ダメ!右足は捻挫しているんだから!」



憎ったらしい口を黙らせようと俺は包帯が巻かれている足を振りかぶる。しかし相手のみぞおちに入れ込もうとした瞬間ヒマワリに止められた。俺は渋々足を元に戻す。俺と男子生徒の間に入ったヒマワリはAクラスの生徒の行方を聞き始めた。



「そんなの知らねぇよ」


「じゃあこの煙は何があってこうなったの?」


「わからねぇ。ただ、急に地震が起きたと思ったら周りを包み込んだんだ」


「他の人達は?」


「だから!俺に聞くな!ここはまだマシな方で奥に進めばもっと黒煙が強くなる。死にたくないなら離れたほうがいいぜ」


「だったらお前も離れればいい。何故蹲っていた?」



途中、俺が割り込んで問いかければ奴の目はもっと鋭くなる。やはりこいつとは親しめない。親しむつもりはないが。



「……」


「どうした」


「もう仲間が居ないんだよ。目の前でカゲルに喰われた。だからここで待っていたんだ。それだけで……。放っておいてくれ」



男子生徒は弱々しい声になって俯く。待つというのはきっと死をだろう。目の前でカゲルに喰われた。それは俺の過去やカムラの過去と似た境遇を持っている。


しかし男子生徒の行動には賛成できない。俺はゆっくり足で生徒に近づく。ヒマワリはまた止めようとするけど、俺の目を見たらあっさりと下がった。



「それで良いのか?」


「うるせぇ」


「正直俺はお前が死んでも生きてもどっちだって良い。けれど本当に死にたいと思ってるのか?」


「は?」


「その場の雰囲気や状況で軽く決めつけているように見える。死は重い。最初は体が苦しくなり、最後は心が引き裂かれる。1番辛いのは本当に目を瞑った時に現れる大切な人達の顔を見た時だ。今のお前は耐えられるとは思えない」


「………」


「死ぬならよく考えて死ね」


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