2人一緒に
また新しい負傷者が運ばれたのだろうか。ヒマワリと目を合わせていると突然地震が起こる。簡易施設は激しく揺れ始めた。
「先生!」
体が十分に動けない俺は姿勢が崩れそうになるがそれをヒマワリが支えてくれる。地震はしばらく続いていて医療器具が次々と倒れ始めた。俺は咄嗟にヒマワリを引き寄せて頭を守るように抱きしめる。それくらいに大きな地震だった。
「患者を外に運べ!」
「中は危険すぎる!」
「ほれ退いた退いた!」
外から聞こえる声と共にセンリがやってきて俺を強引にベッドに寝かせるとヒマワリに指示を出してベッドを動かせる。何処からそんな力が出るんだと思うほどにセンリは素早く俺が乗ったベッドを動かした。
「何があった!?」
「わからん!でも普通の地震ではないわい!」
「みんなは大丈夫なの!?」
「わからん!」
仰向けになったまま外に連れ出された俺は周りに何もない平地へと待機させられる。センリはヒマワリにここに居ろと命令させ、また施設内へ走って行く。ヒマワリは心配そうに周りを見渡していた。同じような患者が不安そうな表情を浮かべながら座り込んでいる。
「本拠地がどうなっているか…」
「どうしよう先生」
「とりあえずは待機するしかない。あっちにもまだ大人達が居るはずだ。何かあれば残ってる生徒達に指示を出すだろう」
「っ、先生!あれ!」
話していると急にヒマワリは驚いた表情をして指を差す。その指の方向に俺も顔を向けると闇のような黒煙が上がっていた。
「たぶん反社会政府の本拠地からだよ!」
「……クソっ」
何があったのかわからない。でもこの体で動くには困難だ。腕は良くても足が捻挫してしまっていて走るにも走れない。けれどヒマワリ以外の生徒達の事が気になって仕方なかった。
俺は何をすれば良い?考えようとすると、頭の中でザワザワと声が混ざり合う。夢に出てきたあの声達……カムイ王都のシンリンに声をかける民の声。そして偉大なる父上と母上が俺の名を呼ぶ叫び。
頭痛がした俺は片目を瞑って痛みに耐える。その様子に気付いたヒマワリはどうしたら良いかわからずに慌てるだけだった。
「先生?大丈夫?痛い?」
「ヒマワリ、少し俺に話しかけてくれ。何でも良いから…早く」
「え?話す?えっと…風神向日葵13歳。好きな食べ物は甘いお菓子で今はコンビニの菓子パンにハマっているの。よくレオンちゃんが買ってきてくれるんだ。先生は甘いもの好き?」
「……」
「ねぇ、先生?」
「そのまま続けてくれ」
「わかった。ヒマワリが1番好きな授業は数学で、難しい問題が解けた時のスッキリ感が好き。でも点数は悪いんだ。おかしいよね?」
必死に自分の話をしてくれるヒマワリ。俺は頭の中で響く声を紛らわすために彼女の声に集中した。そうすれば段々と声が弱まって小さくなる。
引き続きヒマワリの自己紹介に耳を傾けながら黒煙が上がる反社会政府の本拠地に目を向けた。
「ありがとう。楽になった」
「よくわからないけど痛くないなら良かった!」
「……なぁ、俺達はこれからどう行動する?」
「えっ?」
「ここで指咥えて待機しているか?」
「………」
生徒達と一緒に戦いたいと思っているヒマワリに聞くのは俺の考えを肯定してもらいたかったからだ。こんな意地悪な問いに『はい』と答える奴はAクラスの生徒ではいない。少しだけ口角を上げながらヒマワリを見ると彼女の目は輝かしく光っていて力強く首を横に振った。
「もう、俺は後悔したくない。目の前で苦しんでいるのにその姿を見ることなくここで寝てるなんてごめんだ」
「うん!」
「行くか?」
「行く!!」
2人で凶悪な行動をしようと企むと俺はヒマワリに自分の特刀の場所を聞き出す。するとこっそり施設内へ戻って小さな体で隠しながら俺の特刀を持ってきてくれた。
「センリは?」
「大丈夫!見つかってないよ!」
「少しずつだが、地震も小さくなっている。ヒマワリ。起き上がるのを手伝ってくれ」
「うん!」
ヒマワリの片手を借りて俺はベッドから体を起こす。足元を見ると履き物がない事に気付いたが、それを見たヒマワリはニヤリと笑って服の中から俺の靴を出した。
「準備が良いな」
「へへっ!でも先生の右足は包帯グルグルだから履けないよね?」
「左足だけ履こう。そして移動は俺に任せてくれ」
「走れるの?」
「飛ぶんだ」
俺はヒマワリに持ってきてもらった靴を片足だけ履かせてもらう。そして周囲を見て誰も俺達の作戦に気付いてないかを確認してベッドから立った。
少しだけ足首の痛みが広がるけど問題ない。俺は特刀を抜刀して鞘をベッドの上に置いた。これでもぬけの殻状態のベッドを見ても理解してくれるだろう。説教もしてくれると思うが。
「ヒマワリ。体全体を使って俺の背中にしがみつけ」
「おんぶ!?」
「何を嬉しそうにしているんだ?落ちないように……うわっ」
「先生のおんぶだ!」
ヒマワリは勢いよく俺の背中に抱きついて両足を腰に絡める。こんな場面でも嬉しそうにするヒマワリがおかしくて笑ってしまう。俺はヒマワリの位置が定着したのを見て、特刀束縛の縄を近くの建物に向けて伸ばした。
「行くぞ!」
「おーー!」
特刀束縛の収納の突起を押して勢いよく空へと飛び上がる。このように建物と建物の間を縄で移動すれば足に負担をかけずに生徒達の元へ着けるというわけだ。我ながら恐ろしい頭脳を持っている。
後日センリに怒られるのが目に見えているがそれよりも生徒達の方が大切で、俺はヒマワリを背に乗せながら反社会政府の本拠地に向かったのだった。




