目覚めた天災
目が熱く感じる。色んな景色が見えて生徒達が戦っている様子が瞼の裏で見えた。
ある生徒は誰かを頼り、またある生徒は誰かのために駆け出す。普通に考えるなら素敵な映像だろう。しかし俺は怯えている。
「何で俺が切られるんだ…?」
俺は生徒達に刀を向けようなんて思ったことない。なのに生徒達は俺に特刀を向けて、挙げ句の果て斬り捨てた。
痛い感覚が走ったと思えば次の場面に移り変わってまた違う生徒に体を斬られる。まるで敵と感覚を共有しているように。同時に心も抉られてしまった。
現在、カムイ王都でも日本でもない真っ暗が空間にいる俺は身動きすることも出来ずにただ震えている。
「あいつらは…?アサガイ、カナト、レオン、ヒマワリ…」
口まで震える俺は必死に生徒達の名前を呼ぶ。
「ハルサキ、リンガネ、カムラ、ミロクニ」
それでも返事は返ってこない。目が次第に重くなって閉じそうになる。ここで閉じたらいけない。直感でそう思った俺は顔に力を入れて耐えた。すると頭の中に様々な声が響き渡る。
『シンリン様』
『ああ、カムイ王都の皇子よ』
『貴方も御父上のようになられるのですね』
『カムイ王都は安泰です』
『シンリン様』
『シンリン様』
『シンリン様』
「やめてくれ!!」
もう俺は死んだのだ。カムイ王都のシンリンは惨めに賊に殺されて死んだのだ。もう皇子ではないのにシンリン様と呼ばれることに対して吐き気がする。カムイ王都ではいつも呼ばれていた名前なのに。
「そしたら、俺は何だ?」
カムイ王都のシンリンは死んだ。となれば俺は何という存在に属する?自分自身に問いかけるも思考が真っ白になってわからない。ただシンリンという単語が頭の中に張り付けられているようだった。
「ああ、ああ…」
無数の手が俺に向けて伸ばされている。まるで捕まえようとするように。見覚えのある手も、見たことない手も気持ち悪いほどに迫ってきた。
以前の俺なら……カムイ王都のシンリンなら迷わず掴んでいただろう。でも今は掴みたくない。もう皇子として生きたくない。だって、だって。
「あいつらと一緒に居た俺が良い…」
強く目を瞑って涙が地に落ちた瞬間、辺りが一気に明るくなる。もしかして助けに来てくれたのか?俺は目をゆっくり開けてAクラスの生徒達を映そうとする。
「おお!起きたか!熱が急激に下がったと思ったから何事と思ったわい!」
「……センリ」
「そうじゃ。生徒に童顔先生と呼ばれるキュートでビューティーなセンリ先生じゃ」
「何でお前が…」
「む。何じゃ?不満そうな顔じゃな。せっかく付きっきりで看病してやったのに」
「っ!あいつらは!?討伐作戦はどうなった!?」
目を開けた先には予想外の顔があり、気分が沈んでしまった。しかし現状がわからなくて俺は上半身を勢いよく起こしセンリに尋ねる。
「うっ」
「これこれ。急に起き上がれば目眩がするじゃろ。どれこのセンリがわかりやすく教えてやろう」
「頼む」
視界が白黒にチカチカして俺は手で目を押さえながらセンリの言葉に耳を傾けた。
「ここは反社会政府から少し離れた場所にある簡易施設じゃ。ここで負傷者を手当てしている。お前はサポートの教師に背負われてここに来た。高熱と骨折、そして捻挫をしておるわい」
「骨折…」
「左腕が完全にポキっとる。捻挫は右の足首じゃ。腫れ腫れに赤くなっておるぞ」
俺は自分の左腕を見ると確かに包帯がグルグル巻かれていた。強く固定されているので痛みなどは全くわからない。起き上がる時は右手を使って体を上げたので気付かなかった。
そして右足。これも包帯グルグルなので腫れているかも確認できない。あの戦いで自分の体がこんなにボロボロになってしまうとは情けなかった。
「それで!?生徒達は!?」
「落ち着けぃ!ここはお前専用の施設じゃないぞ!」
「一緒だったミロクニはどうした?リコン学長に連れ去られた2人は?玄関に残った他の生徒は?」
「しつこいわい!まだ何も報告がきてないのじゃ!伝達を待て!」
センリは俺の頭を軽く叩いて額に貼られていた何かを勢いよく剥がす。ヒリヒリする額を右手で撫でながら周りを見ると何か見知った背中が見えた。
「……ヒマワリ?」
「ギクッ」
呼び声に反応するのは病院に居たはずのヒマワリ。片腕が無い時点で間違えるはずがない。本人はまだ隠し通そうとするのか首を振ってヒマワリでは無いと主張している。
「もうバレバレじゃよ」
「うう、先生…」
「何でここに」
「えっと、その、良い子になるため?」
「は?」
理解できなくて俺は首を傾げる。確かに病院ではいい子にしていると言っていた。てっきり俺は良い子に留守番していると受け取ったのだが…。
「受け取り違いだったか」
「怒らないの?」
「怒る気力もない」
「良かった……。それより!先生熱が凄かったんだよ!ヒマワリも起きるまで沢山冷えピタ貼り替えたの!」
「そうか。冷えピタがよくわからないがありがとう」
「へへっ!」
お礼を告げればヒマワリが嬉しそうに笑う。体が通常運転だったら俺は叱っていたと思う。でも今はヒマワリの笑顔が側に咲いているだけで安心できた。気力がないのは勿論だが、ヒマワリの顔を見たら怒るにも怒れない。
片手を使って包帯を収納しているのを見るとそこまで体に痛みなどはないようだ。それにも安心した俺は肩の力を抜く。すると施設の向こう側から騒がしい声が聞こえた。
「何だろう?」
「全くいちいちうるさいのぉ。見てくるわい」
「包帯の準備してるね!」




