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大規模な作戦

某日。アカデミーの会議室と呼ばれる広い空間に指導者達がリコン学長によって呼び出された。


俺は場所を把握してないので隣にセンリを付けて会議室に入る。「1ヶ月経ってもわからんのか!」と怒鳴られたがセンリ耐性がある俺には小鳥のさえずりのようにしか聞こえなかった。


生徒達が居ない、大人だけの会議。雰囲気は緊張感で溢れていた。俺とセンリは隣同士の空いている席に座ってリコン学長の登場を待つ。見たこともない指導者達の中に入るのは少々憂鬱な気分だった。



「何も聞かされてないのか?」


「わからん。そもそも教室全員の収集は初めてじゃ」


「なるほどな」


「ちゃんと話を聞いておるのじゃぞ」


「俺を何だと思っているんだ」


「自己中心男」


「は?」



喧嘩を売られた気がするけどここは会議室。特刀も持ってない今、暴れ出すわけにはいかない。俺は苦虫を噛み潰したような顔をしてそれ以上はセンリと話さなかった。



「お待たせしました。皆さん揃ってますね?」



ちょうど良いタイミングでリコン学長が会議室に入ってくる。すると指導者達全員が立ち上がってお辞儀をした。俺も1秒遅れてお辞儀をしたので、きっと隣にいるセンリ以外にはバレてないだろう。


作法を教えてくれなかったセンリは面白おかしそうに俺を見て笑いを堪えていた。殴ってやりたい衝動が来るけど抑えなければ……。


それにしても指導者全員にお辞儀をされると言うのはやはりリコン学長はアカデミーの頂点を立つものなのだなと実感させられる。座った指導者達を見たリコン学長は教卓のような物の前に立って何やら資料を出した。



「今回収集したのは重要な情報が手に入ったからです。勿論この情報は生徒達にも公表しますが、とりあえず教師の皆さんの耳に入れておきたくてこの場に呼び出しました」



前置きを話すリコン学長は確かに真剣な顔付きだ。今日は腰から紐が垂れ下がってないのを見て、本気の姿なのだとわかる。持っていた資料のページを1枚捲ると、少しだけ深呼吸をしたリコン学長。その後に発せられた言葉はこの場にいる指導者達全員が目を大きく開いたものだった。



「反社会政府の本部となる組織が近々、アカデミー含めたこの地域にカゲルを放出します」



言い終わったリコン学長の発言に会議室がザワザワとうるさくなる。隣同士で驚きを共感しているようだった。俺とセンリは全く口を聞いていないが。


リコン学長はそれを収めるように1回咳払いする。そうすれば会議室は途端に静粛に包まれた。



「先日、謎のメールアドレスから犯行予告と言える文章が送られてきました。内容は反社会政府に自由を、そしてカゲルを厄災扱いするなというメッセージに加えてアカデミーを潰すためにカゲルを送り込む。そう書かれていました」


「あの、それは本当に反社会政府のものなのですか?謎のメールアドレスだからと言って決めつけるのは…」



俺も同じ事を思った名も知らぬ指導者がリコン学長に尋ねる。例え反社会政府に関して書かれていたとしても、ガキのイタズラという場合だってあるのだ。しかしリコン学長は残念そうに首を横に振る。



「このメッセージを受けて、私は優秀な偵察者を反社会政府の本部と思われる場所へ向かわせました。そこで得た情報は無数のカゲル達を育成している崇拝者達。そして中には今まで見たことがなかった強力なカゲルもいたそうです」


「そんな…!」


「信じがたいけれども事実です。この事実を踏まえてとある作戦をアカデミー全体で実行しようと考えています」



会議室の緊張感が増す。誰かの喉が鳴る音がした。俺は前に立つリコン学長を見つめる。これから放たれるのはきっと何よりも大きな作戦だろう。



「カゲルが放出する前に、討伐アカデミーで反社会政府の根城を討ちます」


「「「……!」」」



またざわつく指導者達とは反対に俺は小さく頷いて作戦に納得する。それしか対処法は無いだろう。アカデミー歴が短い俺でも、カゲルの強さや怖さは痛いほど知っている。カゲルを好き勝手にさせる前に討伐した方が、一般人にも被害は出ないはずだ。



「決行日はいつにするのじゃ?」



ずっと口を開いたなかったセンリの声が会議室に響く。作戦を聞いて後ろ腰になっていた指導者達が一斉にセンリを見た。



「我は反対する気はさらさらないわい。討伐アカデミー学長様が言っておるのじゃからな。駒として使ってくれて構わん」


「センリありがとう。でも私は皆さんを、生徒達を駒としては見てませんよ。同じ時を過ごす仲間なのですから」


「フッ、よく言うわい」


「決行日は1週間後。しかしその間に反社会政府が攻めてくる可能性は0とは言えません。その状況も頭の中に入れておくように、各クラスの教師の皆さんは生徒達に伝えてください。尚、クラスの担任が居ない場合は私が直々にお伝えします。以上で解散となりますがよろしいでしょうか?」



リコン学長は会議室を見渡して反対意見がないかを確認すると綺麗なお辞儀をして部屋を出ていく。会議室の扉が閉まった途端、ビビり散らかした指導者が頭を抱え始めた。



「全く、座学の教師はすーぐビビりおって。流石にお前はビビってないじゃろ?」


「ああ。俺は生徒達を守るだけだ」


「へぇー。変わったのぉ。あれだけ嫌われるためとか言ってたくせに」


「こうなったのはあいつらとカゲルのせいだ。ちゃんと責任を取ってもらう」


「どうやってじゃ?…まぁ、教師らしくなったのは良いことじゃよ。でもこの作戦でどれくらいの人数が減るか」


「縁起悪いことを言うな」


「そうじゃな。失敬した」



珍しく謝るセンリに違和感を抱いてしまうが、それをそのまま口にしてしまったら殴られるのは確実だ。俺は大人しく黙る。


それにしても反社会政府を討伐したとして、根本的なものは消えないのだろうか。カゲルは一体どこから湧いてくる?それがわからなくてはこれからも俺はここに居なくてはならない。


別に構わないが未だに見つかったない父上と母上を自分で探したいという気持ちがある。そう思いながら俺はAクラスの生徒達にこの事を伝えるため、会議室の椅子から立ち上がった。

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