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深刻な名前をした学長

「なんだここ!?」


「ここは討伐アカデミーの本拠地です。所属している人達はここで寝食を共にし生活しながらカゲルを討伐します」


「デカいな……」



俺が連れて来られた場所はカムイ王都の宮殿よりも大きくて広い建物だった。これも鉄で作られているようで外見は全く温かみが無い。天にまで届きそうな高さは俺の首を痛くした。



「そこまで驚くもんじゃねぇだろ?こんな建物、東京ならわんさかあるし」


「貴方は田舎から来たのか?」


「田舎ではなくカムイ王都だ」


「俺はアニメを知らない」


「あたし教育アニメならわかるぜ!一昔前の」



ハルサキとリンガネが話しかけてくるけどなんだか俺達の会話は噛み合ってない気がする。するとアサガイ委員長は建物の中へ入るよう手招きして、俺を迎え入れた。



「学長室は最上階にあるのでここからはエレベーターを使います」


「えれべ?」


「エレベーターだよ。あんたどんだけの田舎者なんだ?」



聞き慣れない単語を言われて疑問に思っていればリンガネが笑いながら俺の肩を叩く。地味に痛くて俺は肩を摩った。



「アサガイ委員長、俺は討伐報告書を書いてくる」


「お願いします。リンガネさんはどうしますか?」


「あたしは委員長に着いていくよ。暇だし」


「それならここからは別行動で。また会おう」


「ああ…」



最後まで静かだったハルサキは軽く一礼して去って行く。また会うなんていつになるかわからないが俺は反射的に応えてしまった。


ハルサキを見送った俺達はアサガイ委員長の案内に従ってとある個室へ通される。何かをするには狭すぎる部屋に入ると、アサガイ委員長は壁に向かって何かをいじり出した。


すると開いていた扉が誰の手も借りずに閉じて、それを見た俺は口を開けて固まってしまいまたリンガネに笑われる。



「新鮮な反応だな」


「普段から見ているお前達からすれば当たり前かもしれないけど、カムイ王都にはこんなのなかった」


「ハハッ、さっきから何言ってるかわからねぇ!」


「あの、もし良ければ後でなんのアニメか教えてください」


「委員長にまでからかわれてる!面白っ!」


「別にからかってるわけでは……」



狭い個室が賑やかになる。なんだか俺は疲れてきた。ここは本当に死者達の国なのだろうか?父上、母上、今どこにいらっしゃる……?



「もうすぐですよ」



アサガイ委員長が俺にそう伝えた時、個室に音が響き渡る。それと同時に閉まったはずの扉が横に開いた。しかし驚きはまだある。


開いた扉の先には別の景色が見えるのだ。先程ハルサキと別れた場所とは全く違う場所で、宮殿の執務室に似ている。そしてその奥に設置されている椅子に座るのは高価な着物を来た女性だった。



「失礼します。討伐アカデミーAクラス委員長のアサガイです。お時間よろしいでしょうか?」


「どうぞ」



着物を着た女性は静かに微笑むのを見てアサガイ委員長は個室から出る。突っ立ってた俺は後ろにいるリンガネに背中を押されて、着物女性の前まで連れて行かれた。



「学長、紹介させてください。カゲルの討伐任務を進めた際、取り残してしまったもう1体を一太刀で討伐してくれた方です。えっと…名前は…」


「シンリンだ」


「シンリンさんです」


「へぇー珍しい名前だな」



リンガネもアサガイも珍しい気がするけど…。しかしそんな俺の言葉は少し目線をずらした先で見つけた物によって塞がれてしまった。



「何だこれ?」



着物女性の執務机の前にポロっと投げ捨てられた物を俺は不思議に思いながら拾う。それを見たアサガイ委員長とリンガネは体を固め、着物女性は慌てたように椅子を蹴飛ばして俺の前へ来た。



「紐?」


「こ、こんなところに!灯台下暗しよね!あらやだ私ったら…!」


「これは何だ?」


「えっと、私の趣味の1部と言うか…」


「学長はドSなんだ。SMが好物なんだとよ。それはドMに打つための鞭」


「SM?」


「知らねぇなら聞かない方がいいぜ」



リンガネは説明してくれるけど俺は理解できない。鞭なんて拷問で使う物だ。それをこの女性が持っていると言うことは……。



「お前は拷問官か…?」


「だからただのドSだっての」


「その話はもうやめましょう。教育上悪いです」


「委員長はそういうの苦手だもんなぁ」


「学長の事は信頼して尊敬してます。しかしこの趣味については納得行きません」


「ハハッ、真面目だこと」


「ちょっとコレクションルームに収納してくるわ……」



顔を真っ赤にしながら着物女性は別の部屋へと移動する。この鉄世界ではカムイ王都で使われていない言葉が次々と出てくるのでやはり元いた世界とは全く違うのだろう。


やはり、俺はあの時死んだのだな。いざちゃんと死んだと認識すると何だか心が酷く痛む気がする。すると着物女性はそそくさと戻って来てまた同じ椅子に座り一旦咳払いをした。



「失礼しました。ずっと探していて困っていたのよ。見つけてくれてありがとうございます…」


「構わない」


「自己紹介が遅れましたね。私は討伐アカデミーの学長を務めるリコンと申します」


「離婚…」


「発音が少し違います。離婚ではなく、リコン。全体を高めに発音してください。でないと私が惨めです」


「すまない。リコン」


「まぁ学長を付ければ大抵はマシになります。呼ぶ際はぜひ学長までお付けになって」


「リコン学長か?」


「ええ」



随分と深刻な呼び方だ。鉄の世界は変な名前が主流らしい。もしかしてこの女性は離婚が原因で死に…?いや、それなら俺の名前も変わってくる。その場合俺は…ナナメギリ?



「ややこしくなってきた…」


「どうした?顔色悪いぞ?」



俺は余計な思考を振りかぶるとまたリコン学長に向き合った。

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