太陽の笑顔
「お菓子?」
申し訳なさそうに笑うヒマワリの足元には確かに沢山の菓子が広がっている。俺とミロクニへしゃがんで散らばった菓子を1つずつ取って行った。
「ごめんね2人とも。ヒマワリも一緒に…」
「「大人しくして(ろ)」」
「はーい」
2人同時に止められたヒマワリは渋々とベッドの上に戻っていく。あの大きな音の原因はお菓子とそれを乗せていた箱の落下音だったようだ。
にしてもこんなに沢山の菓子誰が持ってきたのか。ミロクニくらいの胃袋でなきゃ食べれない量の菓子は箱に入れれば山盛りになっていた。
「これで全部か?」
「…ベッドの下にはもう落ちてない」
「ありがとう〜!」
「それにしても俺に会おうとしたって…?」
「うん!先生が来たのわかったから!」
「そんなにうるさくしてしまったか?」
「ううん!ヒマワリだからわかったの!だって先生のこと大好きだもん!」
ヒマワリは貼り付けてない本物の笑顔を俺に見せてくれる。その瞬間、俺は強く胸が締め付けられて目頭が熱くなるのを感じた。生徒の前で泣くわけにはいかない。それでも込み上げたものが逆戻りすることなく溢れ出してしまった。
「せ、先生!?大丈夫?どっか痛い?」
「お前の方が…痛いだろ……」
「もう痛くないよ?だって病院の人達やAクラスのみんな、そして先生が助けてくれたんだもん!」
「俺は何も…」
情けなく涙を流しながら俯く俺の頭にヒマワリの手が置かれる。俺を確かめるように撫でる手つきは優しくて温かい。
「ヒマワリはね、先生がいたから生きているの。あの時も先生が来てくれなかったら諦めて特刀を離していた。でも先生がヒマワリの所に来てくれたから、諦めなかったんだよ。左腕が無くなっても、先生を、悲しませないように…」
「ヒマワリ」
声と手が震える少女は顔を歪めて俺を見る。俺も滲む視界でヒマワリの姿を捉えた。泣いているはずなのに眩しく感じるのはなぜだろう。
すると病室の扉が閉まる音がする。ミロクニの気配が無くなったということはきっと気を利かせてくれて退出してくれたのだ。俺はしゃがんでいた体を上げてヒマワリへと抱きついた。
「これだけ言わせてくれ…。生きててくれてありがとう」
「先、生…!」
俺はヒマワリの小さな体を支えるように包み込めば、小さな少女も泣きながら俺の背中に右腕を回してくる。左腕が無い分、余計に小さく思えた。
そしてようやくわかった。俺は失うのが怖かったんだ。誰がに対しての恐怖は失う恐怖から来たものであって、失う怖さが軽減された今俺はとてつもない安心感に浸っている。
「会いたかったよ…先生…」
「ああ…。すまない、遅れた」
「先生のくせに遅刻したぁ…」
「これからは毎日でも顔を出す」
「寂しかった…」
「もう寂しくさせない。だから安心しろ。俺も、安心しているから」
お互いの涙が服に染み込まれる。それでも離すことなく相手が生きていることを実感した。しばらく俺とヒマワリは顔をぐしゃぐしゃにしながら言葉を交わす。2、3週間の隙間を埋めるくらい話した。
太陽の笑顔を見せる少女の左腕はもうない。しかし少女は俺の目の前にいる。それだけで十分なことに気付けたのだ。高い壁と感じたのは病室の扉の前だけで、その先にあるのは俺に新しい考えを植え付けてくれる場所だった。




