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慰める男子会

任務から帰ったその日の夜。俺は男性寮の部屋で特刀を磨いていた。


今回の任務では1度も使わなかった俺の刀は磨く必要がないほど綺麗に輝いている。それでも無心になりたくて1人で黙って綺麗な刀を触っていた。



『先、生…』



気を抜けば頭の中であの時の光景が宿ってしまう。ヒマワリがカゲルに捕まった時の助けを求める声と泣き叫ぶような悲鳴。思い出してしまうたびに俺の手には力が込もってしまった。


そして極めつけはレオンの言葉。許さないと言う発言に反抗するつもりはない。俺が見捨てたと同然の行動は事実だからだ。


もう、あの2人に合わせる顔がなくなってしまった気がする。俺は握る特刀に自分の顔を写して見てみると疲れ切ったような表情をしていた。



「先生族よ。邪魔する」


「色々と差し入れを持ってきたんだ」


「カムラ、ハルサキ」



ガチャリと扉が開く音と共にカムラとハルサキが入ってくる。ハルサキの手には袋が握られていて食べ物の匂いがした。



「どうした?こんな時間に」


「よく女子達は深夜に女子会というものをやるらしい。それを真似てみようとハルサキと話してな。せっかくだから先生族もと思いここに来たのだ」


「女子会…?」


「Aクラスの女子が集まってお菓子を食べながら恋愛の話をするらしい。ただ俺達は男だ。お菓子ではなく」


「「ご飯を持ってきた」」



2人同時にそう言うとハルサキが持っていた袋の中から取り出して、沢山の飯が俺の部屋のテーブルに置かれる。


白米が入った物から麺が入った容器まで様々だ。俺は特刀をしまって並べられたものを観察する。



「この筒状のやつはなんだ?」


「カップラーメン。お湯を入れて3分待てばラーメンが出来上がる」


「ラーメンというものは以前ミロクニと食事をした時に食べたやつだな。野菜が山のように乗っかっていて脂の塊がまぶされていた。見ただけで胸焼けしそうな食べ物だ」


「あれは例外だ。ミロクニ族のような食欲旺盛な者しか食べられないラーメンだ。これは至って普通の量だから安心して食べてくれ」


「カップラーメンを食べた時に残ったスープへおにぎりを入れてみるといい。コンビニおにぎりもちゃんと買ってきてある」


「ハルサキは何にする?俺はのり弁にしよう」


「俺は……カレーを」


「ハルサキはカレーが好きなのか?歓迎会でも食べていた記憶がある」


「なぜかカレーは飽きないんだ。それじゃあ食べる準備をしよう。この部屋のレンジとポットは?」


「そんな名前のやつは知らない。元々変な物体は触ってないからどこにあるのかもわからない」


「……とりあえずキッチンを探してみる」



ハルサキは呆れたような顔をしながら立ち上がると別の部屋に何かを探しに行った。残された俺とカムラは他の料理を眺めて雑談をする。



「この…おにぎりはどうやって開ける?」


「そこに番号が記されているからその通りに開ければいい」


「????」


「流石に初めてやる先生族には難しいか」



カムラは俺のおにぎりを取ると丁寧に帯を外して梱包を捨てた。海苔に包まれたおにぎりはカムイ王都でも食べたことがある。


訓練の最中の軽食に使用人が持ってきてくれるのだ。片手で食べられる優れものは訓練する兵士達の人気者だったな。カムラから有り難く貰った俺はおにぎりにかぶりついた。



「なんだ、この食感…!」


「今のおにぎりは海苔がパリパリしているんだ。俺も結構な田舎育ちだったから初めて食べた時コンビニのおにぎりに感動を覚えた」


「米の硬さも絶妙だ」


「先生族は夕食を食べていなかっただろう?より美味しく感じるはず」


「ああ…美味い」


「食欲ない時にコンビニ商品を与えれば大抵の人は美味しそうに食べる。恐るべしだな」


「そのコンビニとは何だ」


「………同じ田舎同士でもこんなに噛み合わないもんなのか」


「田舎ではなくカムイ王都だ」



口いっぱいに含ませると海苔が口内に張り付いて顰めっ面になってしまう俺。そんな俺を見てカムラは笑っていた。しかしそんな表情もすぐに真剣に変わる。



「こんな時に言うのもあれなのだが、先生族が1番気になっているだろう。ヒマワリ族の状態を聞くか?」


「……もうわかるのか?」


「断言とまではいかない。どうする?」


「聞こう」


「ヒマワリ族は完全に左腕を失ってしまった。喰われた以上元には戻らない。ただアカデミー専属の医師達のおかげで一命は取り留めた。今はまだ目を覚ましてはいないが時期に起きるだろうとのことだ」


「そうか」



俺は最後の一口を飲み込みテーブルに置かれていたお茶で口を潤した。



「カムラもレオンのように俺を許さないか?」


「レオン族はああ言っていたが俺自身はそうは思わない」


「でも俺はお前達の仲間を見捨てるような行為をした。目の前にいたのにも関わらずに動けなかった…」


「仲間なのは先生族も同じだ。でも先生族は見捨てたのではない。最後までヒマワリ族を見ていたではないか」


「……助けなかったのは見捨てたと同じだ」


「それなら俺もだな、先生族よ」


「どういうことだ?」


「俺も先生族と同じ境遇で母を見捨てた。本当に、今日の任務で起こった出来事とそっくりなんだ」


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