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生徒を押し倒す先生

簡潔に言おう。凄かったのはアサガイ委員長とハルサキの2人だけだった。


その他の生徒は無駄な動きが多く、刀という物を理解できていない。リンガネを除いた生徒達に俺は声をかけていく。



「カムラ、お前二刀流は辞めた方がいいんじゃないか?」


「む?そうか。ならば先生族の教えの通りにまずは一刀流を極めよう」


「レオンは1回1回の振りが遅い」


「わかりましたわ。あまり腕力に自信がないのは自覚していましたの。先生に注意されたのであれば改善を見つけなくてはね」


「ヒマワリ。お前が元気良すぎるのは刀を持っていない時だけなのか?息切れが他の奴らよりも激しい。体力をつけろ」


「はぁ、はぁ、はー、い!」


「ミロクニ、まず刀の持ち方を直せ」


「…………わかった」



正直に言おう。こいつら良い子すぎないか?


俺なりに辛辣な言葉をかけたつもりだ。それなのに素直に頷き、これからどうしたらいいかを考えている。本当に何なんだこいつら。全く傷つきもしない。これじゃあ嫌われ作戦失敗になってしまう。


そして残るはリンガネとの手合わせ。手合わせと言っても実力を見たいから俺は竹刀を受け止めるだけだ。


絶対に立ち向かいはしない。とりあえず、時間も有限なので俺は籠から竹刀を取り出して前へ出た。



「リンガネ、来い」


「やってやる!」



俺は訓練室の中央へ歩きながら手首を回す。体は温まってないが、実戦では温める余裕なんてないのだから別に良いだろう。


中央に立った俺はリンガネと向かい合って竹刀を構える。本気の目をしているリンガネは熱く燃えていた。



「アサガイ委員長、開始の合図を頼む。これも制限時間5分だ」


「わかりました。それでは……始め!」



アサガイ委員長の合図と共にリンガネは飛び出してきた。1秒も無駄にしない戦い方は加点と言えるだろう。そのまま重い斬撃を数回俺の竹刀に叩きつけた。



「おらぁ!!」



初めて会った昨日も受けたこの感覚。男の力に負けない筋力と言えるだろう。しかし、それだけでは勝てない。


凄いのは力だけであって隙が大きく出ていた。俺はカゲルの行動がどんなものなのか知らない。それでもこの隙を見逃す奴らではないはずだ。


少しの秒数さえあれば竹刀を傾けてみぞおち付近に鋭い先を突きつけられる。ただ、今は実力を見るだけだ。そんなこと出来ないけどリンガネの弱点として覚えておこう。



「…残り10秒」



時計係のミロクニの声が俺とリンガネに届いた。最後の一撃と言わんばかりにリンガネは刀を振り上げる。


そんな彼女の竹刀を見た俺は脳内で映像が巻き戻しされた。俺の中で映ったその光景は賊に殺される時に振り翳された一瞬の刃。自分の目の色が変わった気がした。俺は自分の動きがゆっくりになるのを感じる。手を出してしまった。



「きゃぁ!」


「あっ」



誰が出した声なのか咄嗟の判断が出来ない。しかしこの状況を見れば明らかに俺の下で仰向けに倒れている女、リンガネの声だとわかる。


振り上げられたリンガネの竹刀は俺の斬撃によって訓練室の端の方に飛ばされていた。そして1番慌てなくてはいけないのが体勢だ。


俺は自分の左手を広げ、リンガネのみぞおちに当てたまま床に押し倒している。俺も、リンガネも目を大きく開けて固まっていた。



「………5分」


「す、すまない!」


「えっと…」


「頭は打ってないか!?俺からは手を出さないと決めていたのに反射的に押し倒してしまった!」


「わかった!わかったからまずは退け!」



思いもよらぬ自分の行動に動揺してしまい、かっこ悪くリンガネに頭を下げる羽目になってしまった。


リンガネは俺の肩を掴んで体の上から退かすと顔を真っ赤にして上半身を起こす。一部始終を見ていた他の生徒達も心配して俺達の元へ走って来た。



「大丈夫ですか!」


「2人とも怪我は?」


「あたしは平気」


「俺も特にない…」


「リンガネちゃん、たんこぶできてる!」


「イテッ、ヒマワリ触るな!」


「こぶが出来ただと!?」


「………先生?」



もう俺の頭の中は真っ白だった。何も悪くない人間に怪我をさせたという事実が皇子としての自我を失わせる。リンガネの周りにいる生徒達を押し除けて俺は彼女を担いだ。



「は!?先生何して…!」


「医務室に行く!アサガイ委員長、訓練室があるなら医務室くらい存在するだろう!?」


「は、はい!こっちです!」



俺の慌てように押されてしまったアサガイ委員長は余計なことを言うことなく医務室への案内をしてくれる。


俵担ぎしているリンガネは足をバタバタとさせて抵抗を始めた。そんなうるさい足を片方の手で押さえればまた変な高い声を出す。


もう何が何だかわからないし、どうでも良くなってきた。そもそも俺は嫌われるために……。


いや、悪人以外を怪我させてはカムイ王都の皇子として名が汚れてしまう。隅の方にある思考は全て追い払ってアサガイ委員長の背中を追いかけた。



「たんこぶくらいで大袈裟だぞ。先生族よ」


「…もう出てった」


「あの人が取り乱すことなんてあるんだな」


「ふふっ、乙女の怪我には弱いのですわよ。きっと」


「良いなぁ!ヒマワリも先生に抱っこしてもらいたい!」


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