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トイレで素振り事件

翌日。


俺は教室の中心にあるアサガイ委員長の椅子に座らされて説教を受けていた。しかし説教相手はアサガイ委員長ではなくセンリ。


小さな体を身振り手振りで動かしながら長々と怒られている。最初はちゃんと聞いていたが時が進むにつれて、耳から耳へ抜けていった。



「お前は本当にどんな神経をしとるんじゃ!朝っぱらから男性寮のトイレで素振りなんて!」


「それは先程も言っていただろ。外に出て日課の素振りをしようとしたら玄関がわからなくてちょうどその近くにトイレがあり、中が広い空間だったのでそこで鍛錬を始めただけだ。あの時間帯は誰もトイレを使わなかった」


「使わなくとも見つかっておろう!!あの時お前を見つけたのが生徒のカムラで良かったが、他のクラスの生徒だとガチの変質者で通報されてたぞ!?」



何回目の同じ会話か。やはり年寄りは記憶力の低下で何度も繰り返してしまうのだろう。本当、若々しいのは顔だけだ。



「センリ先生、そろそろ良いんじゃないですか?結構時間も経ちましたし…」


「説教は時間ではなく中身じゃ!まだ終わっておらん!」


「………授業」


「うっ、確かにそろそろ始まるな…。よし!この続きはまた後でじゃ!首を洗って待っておれ!」


「何故説教で首を洗う必要がある?」


「言ってみたかったんじゃよ!!」



センリは熱く語ったせいで頭から湯気が出ている。アサガイ委員長とミロクニの助け舟のおかげですぐにAクラスの教室を出て行った。


遠くの方で見守っていた生徒達はアサガイ委員長の席に座る俺に駆け寄ってくる。今は任務に出ている人が居ないので全員が揃っていた。



「先生族よ、今日はセンリ族から避けた方が良い」


「その方がいいよ!ヒマワリもセンリ先生に怒られたことあったけど、明日になれば忘れてたから!」


「でもトイレで素振りをするという貴方の考えには驚いた。起こしてくれれば玄関の位置を教えたのに」


「寝ているハルサキを起こすわけにはいかない」


「先生って無神経に見えて意外と優しいんですこと」



生徒達からのアドバイス通りに今日1日はセンリに会わない方がいいな。次に捕まったらきっと夜まで説教される。


本人は中身がどうのこうの言っているが、実際全く中身の無い話なのでもうついていけない。俺は座っていたアサガイ委員長の椅子から立って背中を伸ばした。



「すまないな。アサガイ委員長の椅子に座って」


「大丈夫です。それよりも訓練室にいきましょうか」


「ああ、今日はお前達の実力が知りたい」



やっとこの時が来た。今日から俺の嫌われ指導者生活が本格的にスタートする。


昨日、ハルサキのベッドの中でどうやって指導するかを練っていたのだ。最高で最悪な指導を。


まだリコン学長から父上と母上の情報は入っていないから、見つかるまでの暇つぶしとして楽しませてもらおう。憂鬱なのは変わらないが。


授業の時間が迫っているとわかれば全員で教室を出て訓練室へと向かう。まだ俺はアカデミーの中を知らないからアサガイ委員長が先頭になって案内してくれた。



「先生の授業楽しみ!!」


「ヒマワリもそう思うか!あたしは昨日からウッキウキだぜ!」


「ふふ、2人共テンション上がりすぎて怪我してはいけませんよ」


「レオン族も楽しそうにしているではないか」


「ワタクシは新しいものに目がないのですわ」



俺の後ろでは騒がしい奴らがこれから行う事について楽しそうに話している。そんな4人を見てアサガイ委員長は微笑んだ。



「1日で皆さんと仲良くなれましたね。任務で時間が取れなかったヒマワリさんとレオンさんもシンリン先生のことを気に入っているみたいです」


「今からする授業できっと嫌われるさ。いや、嫌われてくれ」


「ダメですよ。シンリン先生には最後まで指導してもらいますから」


「アサガイ委員長は敵なのか?味方なのか?色々教えてはくれるが、指導者生活の始まりはお前の言葉からだし…」


「私の敵はカゲルだけです。それにシンリン先生をサポートするのは委員長として当然のことです」


「そうか」



またカゲルの言葉が出てくる。昨日のハルサキとの会話で何故かカゲルの単語に敏感になってしまった。


生徒にカゲルについては安易に聞かないほうがいいのかもしれないとちゃんと俺は学んでいる。アサガイ委員長との会話もそこで途切れて、後ろにいる奴らの話し声を聞きながら歩いて行った。



「あっ、あいつら…」


「勢ぞろいかよ…」



廊下には当然他の生徒も存在する。授業前らしいので全員が自分の教室にいるわけではなかった。


俺達が通るたびに廊下で立ち話をする生徒はこちらをチラチラと観察するように見ている。時折小声で何かを喋っていた。気持ち悪い視線だなと思い俺が睨み返せば顔を背けて黙り込む。



「何なんだ?」


「きっとクラス全員で移動しているので珍しく見えるんでしょう。気にしないでください」


「ああ、見られるのは苦手なんだがな」


「でもカムイ王都の皇子様は色んな人に見られると思いますが?」


「民は常に頭を下げて顔さえ見やしない」


「そうなんですね。アニメというのは興味深いです」


「あにめはわからんが、興味があるのならカムイ王都について後で教えてやろう」


「是非」



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