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面倒臭い人間達

「……うっ、気持ち悪い…」


「吐き気止めの薬はあるけど飲むか?」


「いや、大丈夫だ」


「ミロクニとアサガイ委員長の料理が効いているらしいな」


「脂のくどさが食道辺りを攻撃している…。それに若干腹と口周りが痛い」


「苦しんでることは2人に言わない方がいい。きっと気に病んでしまう」


「ああ…俺とハルサキの秘密だ」



食堂での歓迎会が終わり解散した後、これから俺の住処となる男性寮のひと部屋で横たわっていた。暗い青色で統一された家具に囲まれたこの部屋は、華やかな宮殿の自室よりも落ち着く。しかしここは俺の部屋ではない。生徒であるハルサキの部屋だった。



「貴方はベッドで寝てくれ」


「すまない。その言葉に甘える…。ハルサキは…?」


「布団を借りてくるから心配ない」


「そうか…色々とありがとう」


「まさか空いていた部屋が片付いていないというトラブルが発生するとは、貴方も大変だな」


「まぁ…よくよく考えれば急な話だったから…」



そう、俺の部屋となるはずの空き部屋は物置化としていたのだ。それを知ったのは男性寮に入り手続きを全て終わらせてやっと1人の時間を手に入れようと部屋の扉を開けた時だった。


埃が充満している空間と雑に置かれた段ボールや壊れた家具が入ったゴミ袋。思い出すだけでまた気持ち悪さが込み上げてくる。そんな部屋に俺は寝泊まり出来るはずがない。


なにせカムイ王都では皇子として最高の空間で寝ていたのだから。そんな俺の部屋の悲劇を目の当たりにしたハルサキは快く、彼の自室に1泊することを許可してくれた。


寮の清掃員が明日片付けを行うと言っていたがそれでも終わらなかった場合はカムラの部屋へ寝泊まりすることになる。最悪、レオンにも協力せざるを得ないかもしれない。



「清掃員が真面目にやれば明日で終わるはずだ。家具などの必要な物も揃えてくれると言っていた」


「真面目に、やればな…」



俺はハルサキのベッドに寝転びながら仰向けになり目を瞑って気持ち悪さに堪える。全く、1日で色んな事件が起こり過ぎだろう。全ての発端はあの賊達だ。絶対に許さん。死ぬまで…いや死んでも祟ってやる。



「そういえばアサガイ委員長から頼まれごとを預かっている」


「何だ」


「カゲルやアカデミーについて説明してやれと」


「ハルサキが俺にか?」


「今教えられるのは俺しかいない」


「……カゲルは黒い人間のこと。それを討伐するのがここに住む奴らの仕事なのだろう?」


「良くわかってるな」


「あれだけ会話に出てくれば嫌でも情報を吸収してしまう。それでも大変だな」


「大変とは…?」


「若いお前達が体を張って刀を振るうことだ。リンガネのように成人したらまだしも成人前の奴が戦うのはあまり納得いかない。それに加え女性もとなればよりその思考がわからないのだ」


「俺は大変とは思ってない」


「ハルサキ。お前が刀を振るう理由は何だ?カゲルを倒して自分に何の利益になる?」


「………」


「答えろ」


「………貴方もいずれわかる。わからなくても見つかる。カゲルを倒す理由が」


「何を言ってる?」


「吐き気止め飲んで寝てくれ。……ほら」


「俺は要らない」


「気持ち悪さは軽減する、ほら」


「ちょっ…!」



俺はハルサキに無理矢理錠剤を口に押し込まれてそのまま水を渡される。若干溶け出した薬が苦くて、すぐさま水で流し込んだ。



「うぇ」


「布団を借りてくる。電気は消すから勝手に寝ればいい」



ハルサキの言葉と共に部屋の明かりが消えた。俺はまだ口に残る苦さに顔を顰めているとハルサキは布団を借りに部屋を出て行く。



「怒ったのか…?」



別に何も失礼な発言はしていない。汚い言葉だって使っていない。しかしハルサキの雰囲気は食堂にいた時よりも険悪になっていた。


俺は掛け布団に包まり壁に体を向ける。死者の世界に来て、1番苦労しているのは何気に同じ人間との関わり方ではないのか?


リコン学長は俺の話も聞かずにアサガイ委員長の提案を飲み込んだ。童顔ババアのセンリは俺に苛立ちを見せて最後は怒って部屋から摘み出した。


リンガネは俺との会話であまり噛み合わなくて、後々武術の公式の説明に苦労するだろう。そしてハルサキ。俺が何故刀を振るうか聞いただけで静かな怒りを見せた。



「……わからん」



自分に何度か問いかけたが全く答えは出ない。本人達に聞いてみるのも1つの案だ。どうやったら話を聞いてくれる?苛立ちを無くせる?噛み合わせる?怒らないでくれる?



「父上、母上、俺はどうしたらいい?」



幼い子供のように俺は布団の中で縮こまった。するとハルサキが袋のような音を立てながら部屋に戻って来る。無事、借りれたのだろう。



「もう寝たか?」


「まだだ。考え事をしていた」


「気持ち悪さは?」


「……治ってる」


「すぐに効く薬なんだ。貴方はあまり薬を飲まないのか?」


「薬なんて大きな病にかかった奴が飲むものだ。気分が悪いだけで飲んだことはない」


「でも飲んだら楽になったはず」


「……ああ」


「でも悪い薬は飲んではいけない。田舎ではそう言うのは広まってないから忠告しておこう」


「カムイ王都だ。何度も言って……」


「おやすみなさい」


「おやすみ…」



ハルサキは布団を敷き終えたようで横になる音がする。壁ばかりを見ていたから今どんな表情をしていたのかわからない。


それでも声のトーンが普通に戻ったように感じて俺は心底安心した。本当に、面倒臭い人間だな。


ゆっくり目を閉じればだんだんと眠気が来る。俺はそれに身を任せて夢の世界へと旅立っていった。

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