目玉焼き島の魔女とぬいぐるみ猫
広い海にぽかんと浮かぶ小さな島がありました。その島は目玉焼きの様にまんまるで、まんなかがぽっこりふくらんでいるから、目玉焼き島と呼ばれていました。
その島には変わり者の魔女が住んでいました。どれくらい魔女が変わっていたかと言うと、とても変わっていました。
変わり者の魔女の名前はマキラ。マキラは本当に変わった魔女です。
他の魔女は箒に乗って空を飛ぶのに、マキラは大きな鍋に乗って空を飛びます。
「鍋底にクッションを敷いたら、気持ちよく飛べるだろう? 何でみんな、箒に乗っているのか分からないよ」
他の魔女は三角帽子に真っ黒のローブを着ていますが、マキラは色んな帽子と服を着ています。今日は麦わら帽子に空色のワンピースを着ています。
「いつも同じ服装じゃ飽きるだろう。何でみんな、同じ服ばかり着ているのか分からないよ」
他の魔女は大きな鍋の中身をぐるぐるかき回して魔法の薬を作りますが、マキラは4人用の鍋を使って魔法の薬を作ります。
「普通の鍋で普通に作ればいいじゃないか。何でみんな、腰が痛いって言いながら大鍋を使うのか分からないよ」
マキラは何時だって、自分の好きなように過ごしています。他の魔女はこうしている。他の魔女はこんなことをしている。そう言われても、気にしません。
「だって私は私だよ。どうしてみんなと同じようにするのか分からないよ」
マキラは何時だって、不思議そうに他の魔女を見ていました。
マキラの相棒もやっぱり他の魔女と違います。他の魔女たちは黒い烏や黒い猫を相棒にしています。けれどマキラの相棒は、ちょっと違います。
「まきらー。郵便が来てるぞー」
「はいはい」
「ハイは一回で良いぞー」
「はいよ」
ひらひら平べったくて長い尻尾を手紙に巻き付けてやってきたのは、茶色の猫。でも普通の猫じゃありません。この猫、実はぬいぐるみなんです。右目には海賊の眼帯みたいに斜めの縫い目がありますし、尻尾は細長い布で出来ています。他にもほつれた縫い目もあちこちにあります。
ぬいぐるみの茶猫は、ポコと言います。ポコはぬいぐるみ猫なので、他の猫とは色々と違います。
他の猫たちはミルクを舐めてキャットフードを食べますが、ぬいぐるみ猫のポコは食べたりしません。たまにお腹が空いたら、白い綿を食べるくらいです。
他の猫たちは毛づくろいをするのが大好きですが、ぬいぐるみ猫のポコはほつれ糸づくろいをするのが大好きです。
他の猫たちは日向ぼっこをするのが大好きですが、ぬいぐるみ猫のポコは日干しをするのが大好きです。
魔女のマキラが他の魔女と全然違うのと似ていて、ぬいぐるみ猫のポコも他の猫たちと全然違います。
でもマキラは楽しそうにお鍋の中身をかき回しますし、ポコも日干しをしてふっくら柔らかになります。
「ポコはいつもふかふかだね」
「マキラはいつもおしゃれだね」
二人はとても仲良しです。マキラはふかふか柔らかなポコが大好きです。ポコはマキラが作る魔法の道具で遊ぶのが大好きです。
「今日は何を作ったんだー?」
「今日は魔法の綿で作ったぷかぷか雲だよ」
「今日は何を作ったんだ―?」
「今日は部屋を星空にする魔法の砂だよ」
マキラが作る魔法の道具は、どれも魔女らしくありません。でもいいんです。楽しい遊びが出来るからです。
「明日は何を作ろうか」
「派手なのが良いぞー」
「そうかい。それなら、とびきり派手な道具を作ろうか」
「とびきりなのかー」
ある時は大きな光る花を夜空に浮かべたり。
ある時は水の上を跳ねる船を作ったり。
目玉焼き島のまんまる丘の上で、変わった魔女とぬいぐるみ猫は今日も楽しく騒いでいます。