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この作品には 〔ガールズラブ要素〕〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

転生伯爵令嬢はろくでなし貴族に復讐を誓う

作者: 田中 まもる

「マルタお嬢様、大変でございます。セドリック侯爵家トマス様との婚約が破棄されました!」


「どう言う事ですか? 理解できないのですけど……」


「侯爵が仰るにはお嬢様に健康面での不安があり、婚約は解消したいとの事です」


「父上は何と仰っているのですか?」


「倍返しにしてやると仰っておられます」


 婚約解消の理由がまったく気に入らない。私がまるで不健康だから、婚約を解消したいって、大嘘だ!


 私、イイダモトコが、この中世ヨーロッパの風な世界に投げ入れられてから一年が経つ。一時期私はあまりのショックで寝たきり状態になっていた時もあった。


 周囲はこのまま死ぬのではと思っていたようだ。それにも関わらず、婚約を進めたのはセドリック侯爵家の方なのだ。婚約どころか今すぐにでも結婚とまで言っていた。見事な掌返しだ。


 だが、私は死ななかった。私は、完全にこの世界に適応して今は元気にやっている。


 それどころか、周囲が女だてらに馬に乗ってはいけないとか、女のくせに剣術の鍛錬をするなと言われても、毎日、命懸けで稽古をしている。この世界で生き残るために拾った命を大事にしたい。


 この世界には魔法、魔術という技術がある。これまた女が魔法、魔術を勉強すると悪魔が憑いて魔女になるとか言われて周囲は猛反対する。


 私はそれに反発して逆に猛勉強してやった。とくに治癒魔法は得意だと思っている。ただし、人体実験をした事はない。わざわざ自らケガをして治そうとは思わないから。


 治癒魔法を掛けたのは、ケガをした小鳥と子猫だけ、実際人に治癒魔法を掛けたら効果があるかどうか、自信がまだない。


 この世界では、金銭は下劣なものだそうだ。貴族たるもの領地からもたらされる税金でその生活を送る様にと、祖法、古来からある法律? 慣習で決められている。残念ながら時代にまったく合ってはいないけどね。


 この伯爵家の曽祖父様は、商業に興味があって色々な商売に手を出して、秘密裏に自分の商会を設立して商売をして稼いでいた。


 祖父様も、私としては父上と呼びにくいのだけど、父上にも商才があって王国内だけではなく、外国にも店を出している。


 今では、その収益は、領地からもたらされる税金よりも、その数十倍は多い。王族にも極秘でお金を貸している。まあ踏み倒されても良いお金の範囲でだけど。昔から王族はよく踏み倒しているそうだ。


 セドリック侯爵家もうちからお金を借りているはずだ。私との婚約と結婚を急いだのも、私が死ねば伯爵家の財産が夫に行くからとの目論みがあったからだと私は思っている。


 それがだ。私が元気になったので、その目論みが外れた。これは大変と別の金ズルを探して、その家の娘と婚約させたいがための婚約解消だろうと思った。


 私、マルタは十六歳の少女だけど、中身は三十数歳の女の勘がそう教えてくれている。


「サウル、ちょっとセドリック侯爵家に行って決闘を申し込んで来るわ」


「マルタお嬢様、血気にはやってはなりません! セドリック家の始末はお父上様にお任せしてください」


 理由が女らしくないって理由なら納得するけど、不健康だからって理由は腹が立つ。


「それよりも、来月から貴族院に復学でございます。勉学の遅れた分のお勉強を……、お嬢様どこに行かれます? 決闘はダメでございますよ!」


「サウル、ちょっと馬で遠乗りしてくるだけ。心配しないで」


 私は騎乗服に着替えて腰に剣を帯びて馬に乗った。昼間でもこの世界は追い剥ぎ強盗が出たりと治安がよろしくないから。



 私が遠乗りに出掛けてしばらくすると、道の端で泣いている男の子がいた。側にはその男の子母親らしき人が倒れている。誰も助けようとはしない。


「ボク、どうしたのかな?」


「お母さんが、お母さんが馬車にはねられたの……」


 母親には意識はない。頭を打ったのかもしれない。呼吸はしている。足の骨はどうも折れている様だ。私は治癒魔法を掛けてみた。足の骨折は治ったけれど、意識が戻らない。


「お姉ちゃんの家にお母さんを運ぶね。お医者様に診てもらうの」


「お姉ちゃん、本当? でも僕、お金持ってないよ」


「お金の話はお母さんが元気になってから、お母さんを馬に乗せるね」


 私は重力系魔法で母親を馬に乗せた。


「お姉ちゃんって魔女なの?」


「魔女ではないのだけれど、ボクも馬に乗ってね」


 子どもは私でも抱えられる体重だったので馬に乗せて、子ども、母親、私と言う並びで屋敷に戻ろうとしたら、騎士さんが声をかけて来た。


「あんた、うちの騎士団に入らないか、魔法騎士募集中なんだよ。はい、これチラシ」


「ありがとうございます。でも、今は急ぐので、失礼します」



「サウル、お医者様を呼んでください。客間を使います。お医者様が来たら客間に通してください」


「お嬢様、その平民は誰? 分かりました。ご指示の通りいたします」


 お医者様が診察された。


「ふむ、骨折は完治している。内臓からの出血も止まっている。不思議だ」


「容体はどうでしょうか?」


「呼吸も正常ですし、発熱もないですし、ショックで気を失っているだけの様に思えます。二日経っても意識が戻らない様でしたら、かなりの悪臭ですけれど、この気つけ薬を嗅がせてください。ただし、しばらくの間はこの客間は使えなくなりますが……」


「先生、ありがとうございます」


「では、お大事にしてください」


 医者は客間から出て居間でサウルが淹れたお茶を飲んで、診察料を貰って帰って行った。


「ボク、お母さんは大丈夫だって」


「お姉ちゃん、ありがとうございます」


 よく躾けられた良い男の子だ。


 母親は二日経っても意識が戻らなかったので、気つけ薬を使おうかと思ったら。


「うううんん」


「お母さん、お母さん」


「ヘルメル、お前、ここはどこなの?」


「お姉ちゃんの家だよ」


「お姉ちゃんって?」


「私はマルタと申します」


「えっ、あっ、お貴族様のお屋敷!」


「心配しないでください。馬車に轢かれたそうで大変でしたね」


「はい、私、たしかに馬車に轢かれたのに……、ケガをしていない」


「お姉ちゃんがお医者様を呼んでくれたんだよ。お母さん」


「えっあっ、ありがとうございます」


 母親は状況が飲み込めず、去年の私の様になっていた。



「ところで、馬車の特徴とか覚えていないでしょうか?」


 私としては轢き逃げをしたことが許せない。必ず犯人を罰してやりたい。


「薔薇の紋章があった様に思います」


 薔薇の紋章と言えばへえ、因縁のセドリック侯爵家の紋章だ。本当に碌でもない貴族だ。だが、貴族が平民を害しても罪には問われない。この世界は本物の身分制社会だから。


「それは貴族の馬車ですね」


「……」


「お貴族様では、どうしようもありません……」


「でも、私もその貴族に恥をかかされていますので、すぐには無理ですがそれ相当の報いをくれてやるつもりですので、あなたの分も上乗せしておきますね」


 私は微笑んだつもりだったが二人をドン引きさせてしまった。


「あのう、ところでお嬢様、今日は何日でしょうか?」


「今日は二十八日ですけど」


「まあ、大変、インゴさん、私の部屋の大家さんですけど、昨日中に家賃を支払わないと、金目の物以外全部、部屋から道に放り出されてしまう。どうしましょう……」


 この世界では大家は国王で部屋を借りている人は国王の臣下扱いだったりする。一日でも家賃が遅れると部屋から閉め出されてしまう。


 そのため、余裕のある人は三か月分を前もって支払う人もいる。この世界には銀行振込も、銀行自動引き落としもないから、それでよくトラブルが起こる。


 大家によっては預けているのに預かってないと言う大家もいるから。うちの帳簿を見た事があるけれど小遣い帳レベルだった。その内私はそれを複式簿記に変えようと思っている。うちで、その程度の記帳だから他は、かなり記載が漏れていると思う。


「ごめんなさい。まだあなたのお名前を聞いていないのですが?」


「すみません! 申し遅れました。お嬢様、私はフラウと申します。お針子をしています。この子はヘルメルでございます」


「ご心配なく、これも何かのご縁ですので、フラウさんもヘルメル君も当家で雇うことにします。ですので、今日からはこの屋敷の使用人部屋を使ってください」


「お嬢様、何から何までありがとうございます」


 フラウさんの目に涙が浮かんでいた。


 私は、意識が戻ったフラウさんとヘルメル君を馬車に乗せた。たぶん、道に放り出されたであろうフラウさんの家財道具をうちの屋敷に運び入れるため。荷馬車を用意して、フラウさんの部屋があるアパート? に向かった。


 道の端に無造作に家財道具が放り出されていた。


「酷いなあ」


 私は思わず言ってしまった。


「フラウさん、家賃はいくらですか?」


「銅貨五十枚です」


「フラウさんたちは馬車の中にいてください」


「はい……」


 私は、使用人たちに道に放り出されたフラウさんの家財道具を積み込ませていると、痩せ細った老婆が怒鳴りながら私のところにやって来た。


「私は伯爵の娘でマルタと言う。何か問題でもあるのかな?」


「これは全部私の物だ。貴族だって人の物を盗れば泥棒だ!」


 インゴは青ざめながらも貴族に刃向かって来た。その時点で殺されても文句はは言えないのだが、その根性には敬服した。もっとも無謀な行為とも言えるけれどね。


「お前の物と言ったな、これはお前の部屋を借りていたフラウさんの持ち物だったはずだが」


「家賃が支払われなかったので全部私のもんだ」


「そうか、それはすまなかった。道の端に捨ててある物だと思った。お前の家に運ばせよう。ここは国王陛下の土地ゆえ、家財道具を置いて置くわけにはいかない」


「あんたに売るよ、銅貨八十枚で」


「不要だ、お前の家に運び込む。お前たちこの者の家の中にこの家財道具全部を放り込め!」


「銅貨五十枚で」


「不要だ。お前たちさっさと運ばないか」


 インゴの家の中に売ったところで銅貨一枚にもならない家財道具が放り込まれていく。


「お嬢様、お許しください。どうか持って行ってください」


「無料でか?」


「はい、どうかお願いします」


「良かろう。お前たち荷馬車に積み直せ」


「さて、インゴとやらフラウさんの家財道具で金目の物はいくつあった?」


「なかったよ。いまいましい。家財道具を運び出す手間賃で全部消えたよ」


「それは気の毒だ。ここに銅貨五十枚ある。フラウさんから私が預かっていた。未払いの家賃だ受け取れ」


 インゴは突然九十度に頭を下げて、「フラウさんにいつでも戻って来てほしいおと伝えてくださいませ。お願い申し上げます」


「わかった。伝えよう」



 フラウさんは侍女の訓練、ヘルメル君は執事見習いの訓練をサウルが主になってやってもらった。この二人には私が貴族院の寮に入った際の世話をしてもらうつもりでいる。


 私はこの家の侍女には馴染めない。すぐに自分の家柄を自慢するから。


 貴族院に連れて行くと言ったら二人とも青ざめていたが、頑張ってほしい。この屋敷の侍女にしてもサウルにしても貴族、準男爵家出身の者が多いので、一緒に仕事をするのは大変だと思う。


 最悪二人がこの世からいなくなってはいけないから。この世界では平民の命は小石より軽い。


 平民の二人には私の目の届くところにいてほしいと思ったのだ。それと貴族院では貴族院で学ぶ貴族のみならず、貴族に仕える者の食事等が全額国庫負担なのも嬉しいし。



「貴族院の先生方には、マルタお嬢様の性格が病気をて大きく変わったとお伝えいたしました。それとですが、マルタお嬢様は本来第三学年でございますが、休学されていたので、もう一度第二学年からのご勉強でございます」


「ああ、構わない。どの道私は浮いた存在になるはずだから」


「出来るだけご自重ください」


「出来るだけな」


 サウルの顔に絶望という文字が見える。私の中身は実は三十数歳の女なのだから、十五、十六歳の子どもたちの中で浮くのは決まっている。私は、彼、彼女たちに合わすのが大変だと、今から憂鬱ゆううつになっている。



 貴族院に復学すると第三学年に進級したマルタの友人たちが私を見に来た。好奇心いっぱいの目でだ。何しろ私は制服を着用せず騎乗服で貴族院に来ているのだから。


 先生方には制服を着用するとまた病気がぶり返すとの医者の診断書を付けて無理矢理認めさせた。


「マルタ、あなたどうして騎乗服なの?」


「制服だと体が冷えるので、騎乗服にしているの」


 本当は制服を着るのにあれこれあって一時間も必要なので、手軽に着られる騎乗服が私は好きなのだ。


 私は小中高大学とパンツルックで通した。先生たちと、けっこうやり合って退学寸前まで行ったこともあった。私はスカートが大の苦手だ。


「マルタっていつも自信なさげだったけれど、今は凛としていてかっこいい気がするわ」


「そうかな、自分ではわからないわ」


 上級生がいるため、私には誰も近寄って来ない。何となく怖がられている気がする。浮くとは思ったけれど怖がられるとは思っていなかった。


 授業開始の予鈴がなったのマルタの友人たちはそれぞれのクラスに戻って行った。



 友人たちがいなくなると一人の男の子が私のところにやって来た。


「お前が留年した女か? このクラスは俺が仕切って来た。俺に逆らうと大変なことに……」


 私は殴った。男の子は失神している。こう言うおバカさんは体で覚えさせる方が良いから。


 先生が教室に入って来た。


「なぜ、マルフォン・グランメルが倒れているのか?」


 誰も答えない。たぶん、私が怖いからだろう。


「ともかく、マルフォンを医務室に運びなさい。エルムとセノン、君たちはマルフォンの友だちだろう」


 二人の男の子が私をじっと見つめながらマルフォンを医務室に運んで行った。


 グランメル家か、私と同じ伯爵家、たしかあちらは武官の家柄のはず、一発殴られて失神するとは情けない。


 授業は数学、古典文学、化学と言わずに錬金術学を学んだ。一応屋敷でサウルからしごかれたので理解は出来た。ただ、日本での知識が邪魔をして素直に受け止められないでいる。困った。



 マルフォン君が授業に復帰した。エルム君が私に手紙をくれた。そこには果し状と書いてあった。放課後校舎の裏に来いと書いてある。長剣を持参するようにとも書いてあった。


 面倒だけど、マルフォンは鬱陶うっとうしいのでここでギャフンと言わしておく必要があると思う。長剣は持たずに、私は校舎の裏に行った。


 マルフォン、エルム、セノンの三人が長剣を持って私を待っていた。


「なぜ、剣を持って来なかった。これは決闘だぞ」


「決闘には立会人が必要だし、貴族院内での決闘は禁止されている」


 そうは言っても男の子間では真剣は使わないけれど木刀での模擬決闘は盛んに行われている。


「お前が、俺を殴って悪かったと謝罪すれば、許してやる。謝罪しなければ女と言えども斬る」


「好きにすれば、私は悪くないので謝罪は拒否します」


「エルム、セノン、アイツをめちゃくちゃにやっちまえ!」


「マルフォン様、相手は丸腰です」


「構わない。果し状には持って来るようにと書いた。持って来なかったアイツが悪い」


 エルム君とセノン君が剣を抜いて打ち掛かって来た。二人ともキチンと剣術の稽古をしているのが見てとれた。ただ、迷いながら打ち掛かって来ているので隙だらけ。当身で二人とも倒した。


 エルム君の剣を拝借して、大将のマルフォン君の前に立った。マルフォン君はガチガチになっている。


「俺にケガをさせれば、グランメル家が黙っていないぞ!」


「女の子に負けたグランメルの男は武官になれないと思うよ。たぶん教会に入るしかないだろうね」


 ◇


「マルタ嬢、マルフォンを煽るのはよろしくない。私が立会人をするので、あっさり蹴りをつけなさい」


「兄上、何を言っているのですか? 僕に加勢してくれないのですか?」


「俺は立会人だ。決闘するのは君たちだ。どちらかが死んでもお互い文句なしだ」


「マルフォン、グランメル家における決闘は生きるか死ぬかしかない。よく覚えておけ」


 追い詰められたマルフォン君が真正面から剣を抜いて私に突進して来た。私はマルフォン君の男性の急所に剣のつかを叩き込んだ。


 マルフォン君は声も上げられずに倒れた。


「玉が一個潰れたかもしれん」


 心配そうにマルフォン君のお兄さんが言う。


「俺は貴族院で剣術を教えている、マルフォンの兄のミューラだ」


「マルタ君、君は課外授業における実践的剣術のテストは合格だ。以後剣術の試験には来なくても良い。心からお願いする」


「それではエルムとセノンに医務室まで運ばせようか」


 セノン君とエルム君にミューラ先生が喝を入れた。気がついた途端、「僕たちそこの女に突然襲われたのです、あの女に罰を与えてください!」


「私は君たちが、彼女に決闘を申し込んだと言われてここに来たのだけど、マルフォンも決闘っと言っていたが」


 二人は黙った


「エルムとセノンには事情が聞きたいので後で職員室まで来るように!」


 二人は黙ったまま。今日二回目、マルフォン君を医務室に運んで行った。


 ミューラさんが私に話し掛けて来た。


「私は、自分の騎士団を作りたい。貴族のお遊びではなく本格的な騎士団をだ。これまでの騎士団は女子禁制になっていたが、私の騎士団はその条件をなくす事にした。入団条件は騎士団幹部が認めた者、性別不問に今決めた」


「私の騎士団に入れば、貴族院での授業すべて免除、卒業確実、貴族院在学中は給与支給だ。考えてほしい」


「はい、考えてはみます」


「では、日が暮れて来たので、私は女子寮に戻りますので」


「僕は飲みに行くけど、昨今は、生徒を飲みに誘うとクビになる。以前はよく行ったものだが、本当に残念だよ」


「じゃあ、座学の講義で会おう、それではまたね。マルタ君」



「そこに隠れて見ている方、出て来てももう大丈夫ですよ」


 物陰からクラスメートの女の子が三人が出て来た。


「私はリリー」


「私はヴァイオレット」


「私はマーガレットと申します」


「あなたたちが、ミューラ先生を呼んでくれたのね。ありがとうございます」


「もしかしたら、余計な事だったかもって今は反省していますわ」


「そんな事はないと思うわ。ミューラ先生が穏便に処理してくれるはず。私はマルフォンたちと剣術の課外試験を受けていただけなのだから」


「ねえ、あなたたち、もし良ければ私のお部屋でお茶でもいかがかしら」


「喜んで!」


 三人、同時に叫ばれた。


「フラウ、お客様をお連れしたのでお茶の用意をお願い」


 フラウさんがびっくりしている。なぜかヘルメル君は嬉しいそうだ。まあ、綺麗な貴族の少女が三人も来たら、男の子は喜ぶよね。


 三人が熱心に私にあてがわれた部屋を見ている。日本流に言えばファミリーマンションタイプだろうか? 部屋が三部屋でダイニングキッチンがあってリビングがあるタイプの部屋だ。


 男爵家だとワンルームマンションになるらしい。


「マルタ様のお部屋って飾り気がないのですね」


「リリー、私の事をマルタ様と呼ばないでほしいな。マルタで良いわ。私、あまり飾り付けると落ち着かないものだから」


「何となく私の兄のお部屋に似ています。これは失礼いたしました。ごめんなさい」


「構わないわよ。私は男ぽいっとよく言われているから、ヴァイオレット」

 

 私は歌劇団に入れば人気の男役になれるかもと小中高時代よく言われていた。ファンクラブもあったようだ。私が同窓会に参加すると女子の参加が増えるので、同窓会の幹事から拝み倒された事もあった。


 以前のマルタは自分の身長が高いのが嫌だったようだ。日記に可愛い服がまったく似合わないと愚痴ばかり書いてあった。


 背が高ければスッキリとした服を着れば良いのにとつい、彼女の日記にツッコミを入れてしまった。ところで、私、イイダモトコになる前の可愛い女の子を目指した本物のマルタはどこに行ったのだろうか?


「マルタはなぜ剣を持たずに校舎の裏に行かれたのですか? 馬に乗っておられる時は常に帯剣されているのに」


「馬に乗る時は多少危ないところにも行く事があるので、帯剣している。しかし私が馬に乗っているのをなぜリリーが知っているのかなあ?」


「マルタは有名人ですから、私、貴族院をサボって街に見に行った事がございます」


「えっ、ウソ! 黙って一人で行くなんて、私たちはお友だちでなくてえ……、ひどい」


 ヴァイオレットとマーガレットがリリーに抗議をしている。


「ごめんなさい。二人は私と違って優等生だから、貴族院をサボるのって言えば止められると思ったのよ」


 じゃれ合う少女たちを見て、私は若いって良いなあと思ってしまった。この世界では一つだけお姉さんなだけなのに。


 三人が話し疲れてそれぞれの部屋に戻って行った。私は少し初日から飛ばし過ぎたかもしれない。


「サウル様が、貴族院ではお嬢様が独りぼっちになるのが心配だと仰っていましたが、早々にお友だちが出来てようございました」


「友だちが出来て良かったけれど、色々貴族院でやったから、サウルが飛んで来るかもしれないよ」


 私は独り言を言った。


「お嬢様、何か仰いましたか?」


「いや、何でもない」



 マルフォン君が病気で一週間ほど休むと担任のシュワルツ先生が言う。一応、治癒魔法を掛けておいたので、体に損傷はないはずなのだが。


「エルム君、マルフォン君は病気なのか?」


 私からエルムに声を掛けた。彼はビクとして、小さな声で「落ち込んでいる」とだけ言うと私から離れて言った。


「ソロン君、マルフォン君が落ち込んでいるとはどう言うことなの?」


 ソロンに声を掛けたら、これまた小さな声で「お前に二度も叩きのめされて、その上兄上様から軟弱者ってしごきを受けて、動けないんだよ」彼はそう言うと私から離れて行った。


「ねえ、マルタ、マルフォン君どしたって?」


 ヴァイオレット他二名が目を輝かせて、私のところにやって来た。彼女たちを取り巻く様に女子生徒が取り巻いている。


「ミューラ先生にしごかれて動けなくなったのですって」


「あら、つまらないわ……」


 他の女子生徒たちもガッカリしている。ちょっと私は、マルフォン君が気の毒に思えた。これだけ人気がないのは可哀想に思える。まあ、常に抑えつける様な話し方がよくないからだけど。機会があれば教えてあげたい。



 一週間後、マルフォン君が私のところにやって来た。また決闘のお誘いかと思ったら奇妙な謝罪だった。


「俺は謝りたくないのだが、ブランメル家は負けた相手に謝罪する事になっていて、俺はお前に謝りたくないのだが、謝罪しないといけない。もし、謝罪しなければ、ミューラの兄上からまた地獄の特訓を、俺は受けないといけなくなる。兄上は絶対どこからか俺を監視しているはずだ。悪かった。以上だ」


 そう言うとマルフォン君は自分の席に戻って突っ伏していた。泣いているのか体がヒクヒクしている。


 この子も家の重圧で苦しんでいるのだろう。長男は王国騎士団長で、次男のミューラ先生は王国騎士団副団長の誘いを兄の下につくのは嫌だと断り、貴族院も剣術担当教員になったそうだ。その家の三男が女の子に叩きのめされたらさぞ辛いだろう。


 手加減をするつもりはもうとうないが。


 決闘を挑んで来たのはマルフォンからなのだから。



 私はフラウとヘルメルを私の宿舎に残して、実家に戻された。貴族院で色々やっているのが父上の耳にでも入ったのだろう。


「お嬢様、お話がございます。まずはセドリック侯爵家のトマス様が外国に亡命されました」


「父上がトマスに刺客を送ったのか?」


「いえ、まだ送ってはおりません。トマス様はどうも外国の王女と恋仲になった様で結婚されるらしいです」


「私の不可解な婚約破棄はそれが理由か?」


「おそらくですが、そうだと思います。侯爵家はお父上ではなく外国の資金で領地の開発を進めるかと思われます」


「父上を完全に敵に回すのか。無謀な事だ」


「そうでもございません。セドリック侯爵家は有名な傭兵団を雇ったとの事です。資金は外国から得たものと思われます」


「それだと国家反逆罪に問えると思うが?」


「証拠がございません」


「父上はそれを探している、あるいはでっち上げるおつもりか?」


「それはまだ分かりませんが、傭兵団についてお嬢様に調べてほしいとのことです」


「私が傭兵団を調べるとはなぜ」


「お嬢様が傭兵団のチラシを持っておられたからです」


「チラシ、私は騎士団のチラシはもらった覚えはあるが、傭兵団ではない」


「傭兵団ではなく、表向きは騎士団で募集を掛けていた様です」



 私はチラシに書かれた場所に行ってみた。


「失礼だが騎士団の募集のチラシを見て来たのだが……」


「騎士の募集ねえ、まああそこで受付けている」


「ありがとう」


 騎士募集の受付らしきところに向かった。ただ、机が一つあるだけで人はいない。どうやったら受付て貰えるのやら。


 机の上に紙とペンが置いてあった。番号が振ってあってその横に名前を書くみたいだ。私は十八番と書かれた欄にモトと書いた。このまま放置されるみたいだ。


 暇なので傭兵団内をぶらぶらしていたら、古参兵らしき連中に止められた。


「お前、何をしている」


「受付を済ませたが誰も呼びに来ないので散歩をしている」


「お前、入団希望者か? そんな細い体じゃ無理だ。さっさと足元が明るいうちに帰るんだなあ」


「私は魔法騎士なのだが……」


「魔法が使える騎士さんね」と言い終わらないうちに蹴りと剣で打ち掛かって来た。一人は剣の柄で腹を突いた。割と効いた様で咳き込んでいる。


 古参兵らしき三人が剣を抜いた。


「俺たちは騎士様じゃないんで一騎打ちはしない。ここに来た事を後悔しな」


 そうは言ったものの三人とも動けないでいる。


「重い、体が重い。背骨が折れそうだ」


 私は重力を操作して彼らに掛かる重力を徐々に増していた。


 彼らは地面に貼り付いた様になっていた。


「お若い騎士さん、もう良いだろう。術を解いてやってくれよ。それ以上重くすると体が潰れる」


 傭兵団の幹部ぽい人が出て来たので、私は言われた通り術を解いた。


「あんた、入団希望者なんだろう。入団試験には魔法は使えないが、それでも受けるかい。命の保証はない」


「構わないよ」


 幹部らしき人は誰かを探しているようだ。


「あれで良いか、おいお前先週入団した奴だろう、こいつと剣の勝負をしてやってくれ、死んでも良いそうだ」


 若い男が面倒そうにやって来たと思ったら即座に抜剣して、私に斬りつけて来た。けっこう早い剣速だった。実戦慣れしているのがわかる。


 私は風上に立った。相手が片手に剣、空いた手に何か目潰しの様な物を取り出したから。私も片手剣にして小瓶を相手に投げつけた。


 相手は小瓶を薙ぎ払った際、小瓶が割れてどろっとした液体が相手の剣にまとわりついた。相手が液体を剣から離そうとして振り回したものだから、その液体が飛び散って、服とか彼の頭髪とかについた。


 風上に立っていても目が回りそうな悪臭がする。意識のない人間にこれを嗅がせたら、意識を取り戻す前に死んでしまうかもって思った。


 液体がベットリ付着した剣を捨てて、傭兵団の宿舎? 近くの池に飛び込んでいた。


 幹部らしき人はえづきながら合格だと言ってくれた。


 投げ捨てられた剣はしばらく、臭いが薄くなるまで放置された。池に飛び込んだ彼は病院に担ぎ込まれていた。鼻が炎症を起こして発熱が続いたらしい。



「今夜、セドリック侯爵家の依頼でカメル伯爵家を襲撃する。向こうも傭兵を雇ったそうだが四人ほどらしい。心配はない。我々は百人で襲撃する。先陣はモトだ。頑張ってくれたまえ」


 うちも傭兵を雇ったんだ。うちの使用人たちはそこそこ武術を嗜むので、メイドに至るまで戦える。実戦経験も豊富だ。仕事のない時に刺客がメイド、執事をやっている。


 私は先陣を切って我が家を襲撃した。誰も出て来ない。玄関前にミューラ先生と他三名が立っていた。


「こんばんは、ミューラ先生、ここで何をされているのですか?」


「こんばんは、マルタ君、君こそ傭兵団の先頭に立って何をしているのかな」


「父上の命令で傭兵団に入って調べてました。今夜の襲撃はセドリック侯爵家の依頼だそうです」


 傭兵団、百名は動けない。息をするのも辛そうだ。


「傭兵団の皆さん、降伏されますか? それともミューラ・グランメルさんたちに斬られますか? 上手に斬ってくれると思うので、痛みは一瞬だと思いますけど……」


「わかった。降伏する」


「私たちは、これからセドリック侯爵家を襲撃したいと思っています。もし良ければカメル伯爵家に雇われませんか? セドリックが支払う金額の倍の金額をお支払いしますけど」


「わかった。その申し出をうける」


「サウル、前金を傭兵団の方に渡してあげて」



 傭兵団がセドリック侯爵家の屋敷を取り囲んだ。


 私とミューラ先生とその仲間たち、合わせて五名がセドリック侯爵家の屋敷に突入した。セドリック侯爵家で抵抗したのは侯爵の護衛の二人のみだった。侯爵を捕らえた。


「国王陛下がお前たちを罰するぞう。私は侯爵だ!」


「国王陛下は今ご就寝中です。陛下の眠りを妨げるのは臣下として出来ません。明日、日が登ってからの報告になります」


「その間に当家の有能な尋問人の取り調べがございますけど」


「ワシは何も喋らん」


「別に話さなくて結構です。どの道永遠に話せなくなるので」


「ワシを殺すのか?」


「理不尽な婚約破棄、それとトマスの亡命事件、侯爵様は十分死罪に当たるかと私は思っております」


「明日、侯爵様の体が冷たくなってから国王陛下に訴えて下さいませ」


「ワシではない。ワシではない。すべてトマスが計画した事だ。ワシはトマスに脅されてやっただけだ!」


「つまり、主犯は私の元婚約者のトマス様ですね」


「その通りだ」


「侯爵様は移動は馬車ですか? 馬ですか?」


「貴族たる者馬に決まっておろう!」


「この屋敷の人間で馬車を使うのはどなたでしょうか?」


「はて、トマスは太り気味で馬は使わない様な気がする」


 私は侯爵家の離れにいた御者を尋問した。


「お前は平民を馬車で最近轢いたことがあるはず、そうだな」


「平民は石ころだから轢いても問題ない。そう言えば、カメル伯爵家にトマス様がお詫びに行った帰りに女を轢いた。トマス様は構わぬ平民だと仰ってそのまま通り過ぎた」


「嘘は良くない。その日トマスは我が家に来ていない」


「カメル伯爵家の早馬が馬車を追い抜いたので、途中で引き返す様に言われた……」


 フラウさんを轢いた馬車に乗っていたのはトマスか。


 セドリック侯爵家の隠し部屋から外国との秘密交渉の文書が見つかり、でっち上げた? セドリック侯爵家はお取り潰しになった。


 セドリック侯爵家の領地はカメル伯爵が引き継ぎ、それに伴ってカメル伯爵家は侯爵家になった。


 トマスの始末はカメル家で最も信頼できる刺客のサウルさんが担当する事になった。


 私は貴族院でも女生徒の間でファンクラブが出来て、終始見られているのでとっても苦痛だ。私に自由を誰か下さい。















 

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[良い点] サクサクと読めて、あっという間に読み終えることが出来ました。 これはなかなかテンポがいいだけではなくストーリ構成などもよく考えられていると私は思いました。 [気になる点] トマスの最後をキ…
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