潜入!サリーさんの館の幽霊に挑む!
「お、おじゃましまーす」
【どうぞ】
「案外中は綺麗だね」
【ありがとうございます】
「誰かいませんかー」
【はい、ここに】
「うわっ、ここの床穴が開いてるよ」
【この館も古いですから】
「お邪魔しました」
【おい、待て】
顔を寄せ合って三人の少女が録音音声に聞き入っていた。
「私たちがサリーさんの館を探検したとき、返答なんてなかったよね……?」
「だと思う。初めて聞く声だし」
「それってつまり?」
『幽霊の声入ってる~!!』
少女たちは喝采を上げ、何度もハイタッチをした。
北海道は函館市。そのある一角に、幽霊が出るという廃墟があった。慣習的に、廃墟は子供たちの間で『サリーさんの館』と呼ばれている。『サリーさんの館』の怪談話はありふれたものだが、上級生から下級生へ代々十年以上語り継がれている。
ところで、仲良し少女三人組は一緒に何か大きいことをしたかった。ありていに云えば目立ちたい。一言でたくさんの人が反応をくれる、インフルエンサーに成りあがりたかったのだ。
ということで動画を投稿してみようという話になった。今の時代、スマホ一つあれば動画撮影も編集も出来る。
しかし、どんな動画を撮ったら面白いだろうか。アルミホイルでボールを作ることが提案されたが、親に怒られるということで満場一致で却下された。
そこで白羽の矢が立ったのが、かの『サリーさんの館』である。有名だし、雰囲気があるし、何よりお金がかからない。そして思惑通り、心霊現象をマイクに捉えることに成功したのである。
「すごい!この動画がバズったら私たち有名人だよ!それじゃ、早速あたしたちのチャンネルに投稿しよう!」
「あんたねえ。全く編集してないのよ。一時間以上ある動画なんて誰も見ないに決まってるじゃない」
「それにサムネイルも作ってないし、字幕も入れてないじゃん。見やすくしないと途中で飽きられちゃう」
彼女たちは休みを丸一日つぶし、協力して動画編集を行った。廃墟での映像に加え、家でのアフタートークを添えて、約十五分の動画が完成した。
『潜入!サリーさんの館の幽霊に挑む!』
彼女たちの動画はなめくじのように再生数を伸ばしていった。再生数が200を超えたころ、コメントが一つつけられた。
コメント
〔幽霊役の子だけ異様に音質良くて草〕
参考:
朝里樹・2019・『日本現代怪異事典』・笠間書院・P.174 サリーさんの館