トイレの殺人
M小学校の三階女子トイレにて、女子生徒がなわとびで首を絞められ死亡しているのが発見された。
被害者は佐川薫(仮名)ちゃん八歳。被害者を最後に目撃したのは友人二名。
薫ちゃんと友人は、次のなわとびの授業のために校庭へ移動していたという。
「トイレに寄るから先に行ってて」
そう云って薫ちゃんはトイレに入った。友人はそのまま校庭へ向かった。
授業開始直後、担任が薫ちゃんがいないことに気が付く。薫ちゃんの友人から聞き取りを行いトイレを覗いたところ、首になわとびが巻き付いた状態で死亡している薫ちゃんを発見した。
当時授業中であり、周囲に人の気配はなかった。記名はなかったがなわとびは一般的なもので、薫ちゃんが所持していたなわとびが凶器になったとの見方が強い。
なわとびからは、薫ちゃんの他に一人分の指紋が検出されている。指紋の大きさから、犯人は子供だと考えられている。奇妙なのは、百点満点の算数のテスト用紙が薫ちゃんの隣に落ちていたことである。テストは薫ちゃんのものだった。
犯人が薫ちゃんのなわとびを凶器に選んだことから、突発的な犯行だったと考えられる。犯行現場が女子トイレだったため、犯人は女子生徒だと仮定して捜査が進められた。犯人が男子ならば、女子トイレに入るとき、明らかに目立ってしまうからだ。
しかし、女子生徒は複数人で行動する傾向が強く、友人間であればアリバイが成立してしまった。複数人による犯行ならば、計画的な犯行になるだろう。
捜査は暗礁に乗り上げた。そして事件は迷宮入りしたかに思えた。
そんなとき、ある警官がとある実験をすることを提案した。以下はその実験の記録である。
実験は提案した警官が主体となって行われた。万が一のために屈強な警官が二名監視に入り、牛乳とカッターが用意された。トイレ内に警官以外に人がいないことは確認済みである。
犯行現場である三階の女子トイレに警官が入る。監視役に目配せをし、警官は三番目のドアを三回ノックした。
「花子さん、遊びましょう」
「は~い。何して遊ぶ?」
「なわとび」
警官の体がすっと浮き上がった。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいっごぉっめんなさいごめっなさいごめっ……!」
ごく一般的ななわとびによって、警官の首が絞められていた。
参考:朝里樹・2019・『日本現代怪異事典』・笠間書院・P.254-257 トイレの花子さん