111
111チャレンジが発端だ。
説明にあたって、流行の発端となった「通話チャレンジ」について語る必要があるだろう。
手順は簡単。適当な番号に電話をかけ、すぐに切る。相手から折り返し電話がかかってきたらチャレンジ成功。ブーム中盤からは、通話終了までの時間の長さを競うようになった。禁止事項は、かけた相手と言葉を交わすこと。記録を伸ばすコツは、いかに興味をそそられる環境音の中で電話をかけるかだった。
「通話チャレンジ」が社会問題としてメディアに取り上げられる頃には「おばけ電話」という立派な都市伝説になっていた。
話を111チャレンジに戻そう。
電話番号における111とは、線路試験受付番号を指す。噛み砕いて云うと電話が開通しているか確認するためのテスト用番号だ。だから着信試験のために折り返し電話がかかってくる。
通話チャレンジにおいて111は絶好の番号だ。折り返し電話をかけてくるうえ、相手が機械だから罪悪感も薄れる。
裏技の登場により際限なく伸び続ける記録。裏技使用者はやがてチーターと揶揄されるようになるも、裏技で記録更新事例は増すばかりだった。チャレンジャーは萎え、一人、また一人と別のコンテンツに移っていった。一つの流行の終焉だった。
しかし、あるチーターのつぶやきから通話チャレンジは111チャレンジへの変身を遂げた。
「111にかけたら女の声が聞こえた」
その投稿を皮切りに、あふれんばかりのオカルティック体験が噂されるようになった。聞こえるのは女の声に限らないようだ。男の断末魔、死んだ友人の未練、電車のブレーキ音、お経、メリーさんの電話などなど、数多のパターンが確認されている。
寂れたメロディが流れたと語る動画投稿者は、録音したメロディからメッセージの解読を試みた。彼はノイズのかかった箇所を注意深く聞き取り英語のモールス信号に当てはめた。そして並び替えると”please help me”のメッセージが浮かび上がるという。その解説動画は100万回再生を突破した。そして堰を切ったように、他のチャンネルでも隠されたメッセージの解読が盛んに行われるようになった。
さて、111チャレンジの概要は理解してもらえただろうか。
正直怖い話は好かない。必要に迫られて調べたが、111チャレンジなんて実行したくないし、知りたくもない遊びだ。
だが断れない付き合いがあった。5人ほどで集まって111チャレンジをすることになった。だから何も聞こえないようにした。これで説明になっただろうか。
ああ、あいにく読唇術は身に付けていない。
筆談で頼む。
参考:朝里樹・2019・『日本現代怪異事典』・笠間書院・P.75 お化け電話