3歳‐①:これからの決意
あれから時が過ぎ、3年が経過していた。
どうやらここはルグネーゼ王国という国の王城らしい。
そして俺はイリーナ・ヴィ・ルグネーゼという名の王女として
生まれ変わっているようだ。
言語がある程度理解出来たという事は、恐らく元々俺が住んでいた世界と同じという事だ。
しかし、他に何もわかっていないためしばらくは大人しくしている事にした。
「イリーナ、起きているか?」
コンコン、とドアを叩く音が聞こえてきた。
「はい、おにいさま。」
豪華な格好をした、金髪碧眼の整った顔立ちをしている少年が入ってきた。
二つ年上の兄で、フレン・ヴィ・ルグネーゼだ。
「イリーナ!今日も可愛らしいよ!」
そう叫びながらフレンは包容してきた。
「…くるしいです、おにいさま。」
「あぁ、すまない!つい力が入ってしまったよ。」
フレンは謝りつつも、笑顔が弾けていた。
彼は妹が可愛いようで、俺の様子をよく見に来ていた。
フレンと俺の侍女がお茶の準備を整えてくれ、お菓子を頬張る。
この時代に生まれ変わって良かった事がいくつかある。
その中の1つ、食べ物が美味しすぎる!
ユリウスとして生きていた時代では、魔王の脅威や周辺諸国とのいざこざで
食文化なんて全く発展していなかった。
特に、このお茶会等に出される菓子は夢中になって食べてしまう。
「ふふふ、相変わらず幸せそうに食べていてこっちが嬉しくなるよ。」
侍女とフレンが微笑ましいものを見るように慈愛の表情をしていた。
声をかけられ、我に返った俺は照れ隠しのために紅茶を一口飲んだ。
テーブルにカップを置き、甘めにされていた紅茶を覗くと、
艶のある黒髪を肩まで伸ばしている黒目の大きな少女が写っていた。
「そういえば、おにいさまと私は見た目が結構違いますね。」
「イリーナは母上に似ているが、私は父上に似ているようだからな。」
「そうなのですか。」
父には会った事が無いため、外見がわからなかった。
この国では5歳の誕生日に御披露目パーティーをするそうだが、
王である父にはその時に会うようだ。
そして、今日は兄であるフレンの5歳の誕生日だった。
「遅くなりましたがおにいさま、お誕生日おめでとうございます。」
「ありがとう!イリーナに祝ってもらえてとても嬉しいよ!」
幼いながらもイケメンの爽やかな笑顔を振り撒いてきた。
生まれ変わる前の俺と違って顔面力が高いな。
「殿下、そろそろ御披露目へ向かうお時間です。」
兄との茶会に花を咲かせて(俺のメインは菓子だが)いると、
フレンの侍女、カトラが終わりの時間を告げる。
「わかった。」
「おきをつけていってらっしゃいませ。」
「ああ、いってくる!多分夕方頃に終わるから、また報告に来るよ!」
未来への希望に満ちた表情で兄は部屋を出ていった。
「フーリエ。片付けをお願い。」
「かしこまりました。」
5つ上である侍女の一人、フーリエにお茶会の片付けをお願いし、
私室には俺一人になった。
「よし…。」
王女である以上、私室以外では一人になる事はない。
なので、いつも一人の時間になると様々な検証や訓練をしていた。
全神経を集中し、体に魔力を巡らせる。
この体にも大分慣れてきた。
「はっ!」
1年程前から天井に手が着くのを目標として勢い良くジャンプしていた。
始めはこの新しい体に慣れていなかったためうまく魔力操作が出来なかったが、
今では身体強化で2メートルはジャンプが出来るようになった。
但し、外見年齢そのままの体力なので、すぐに疲労が溜まる。
もう少し大きくなったら体力作りもしたいな…。
ふと鏡が目に入った。
母親に似た、黒目黒髪の幼子が居た。
ユリウス時代とは髪色くらいしか似ていない。
前世では周りの状況や境遇、しがらみ等もあり自分のやりたいことは
ほとんど出来ていなかった。
そうだ。
俺は行ったことの無い土地を訪れてまわって、様々な事を知る旅をしたいと思って
冒険者になったのが始まりだった。
今世は、できなかったことをしたい。
自分のやりたいと思ったことをやっていく事にしよう。
性別は変わってしまったが、この身は自由だ。
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