81 踊る宰相
兵士たちが懸命にクレハの行方を追っている中、クレハは宰相から命令された歩兵の武具のアイデアを考えていた。しかし、宰相に武器の情報を与えれば間違いなく戦争がはじまり、クレハの拠点であるピトリスの街にも戦火が訪れてしまう。そこで、バレない程度の間違った情報を与えることにした。
クレハの考えがまとまったころに兵士が牢の前に現れる。
「おい、宰相殿から命じられていたアイデアとやらは考えついたか、もし考えていないのであればお前の飯は抜きだそうだ」
「アイデアは考えつきました、あなたに話せばいいのですか?」
「ああ、宰相殿からその許可を得ている。さっさと話せ」
クレハの目の前にいる兵士は心底面倒くさそうに話を聞き始める。
「分かりました。この国の人間は非常に多いとのことですので戦争を行う際には武器が足りないですよね。そのため、農民から徴兵されたものたちは武器がいきわたっていないのではないですか?」
「確かにその通りだ、徴兵された農民の中には農具などで戦争に向かう者もいる」
「もしも、私の方法を用いれば、すべての農民や兵士に武器をいきわたらせることができます。しかも非常に簡単な方法です。説明を始めます、まず初めに、剣の型となるものをあらかじめ作ります。そのあとに集めた鉄をドロドロなるまで熱して型の中に流し込みます。あとは冷めるまで待てば剣が完成しています。ねっ、簡単でしょ」
「ほう、それが本当であれば大したアイデアだ。早速、宰相殿に伝えておこう。ほら、今日の飯だ、さっさと食え」
兵士はクレハに食事を渡すと宰相に報告するために牢の前から立ち去った。その光景にクレハは笑いをこらえるので精一杯だった。兵士から渡された食事を一口食べると、とても食べられるようなものではなくひどい味だった。しかし、食べなければ、もしもの時に動けず死んでしまうため、ひどい味に耐えながらも残飯を飲み込む。
アルタル王国の宰相は兵士からクレハのアイデアに関しての報告を受けていた。クレハが宰相をはめるために考えたアイデアだとも知らず、うれしげな笑みを浮かべる。
「なるどな、それは素晴らしい。やはりあの女は役に立つな、やつが話したアイデアを使って早速、武器の製造に取り掛かれ、武器が準備でき次第、戦争を仕掛ける。それと、あれは金のなる木だ。まだまだ使い道がある、何かと理由をつけていろんな問題を解決させろ」
「かしこまりました、それでは失礼いたします」
兵士が立ち去った宰相の部屋からは宰相の笑い声が絶えなかった。兵士は人数が多くても武器を持っていなければ意味がないため、これまで様々な対策を考えていたが結局、解決できていなかったからだ。
そのため、いきなり改善案を出され、問題が解決しそうであったために宰相は有頂天となっていた。自らが誘拐してきたクレハの手のひらで踊らされているとも知らず。この選択がアルタル王国を破滅へともたらす一手になってしまったとも知らずに。
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