78 戻れぬ理由
時は戻り、クレハが王都からピトリスの街へ向かっていたころトラブルが起きていた。クレハは乗合馬車でピトリスの街へと向かっていたがその馬車が襲われたのだ。
「おいそこの馬車、止まれ!全員、降りてもらおうか、はやくしろ!」
御者が自らのためか、客のためか盗賊たちに説得を試みる。
「おい、待ってくれ、金なら渡すから見逃してくれ」
しかしそれは無意味だったようで盗賊はいとも簡単に御者の首をはねる。その光景を見た、乗員たちから悲鳴が上がる。
「イャー、助け」
次の瞬間一斉に盗賊たちは悲鳴を上げた者たちを皆殺しにする。クレハは逃げ出すことを試みるが周囲は盗賊たちに囲まれており、その隙は無かった。盗賊たちが悲鳴を上げる者たちを次々に処分していくため、すでに周りは静かになっていた。生かされたものは悲鳴を上げていなかったクレハと数人のみだった。
生き残った者たちは盗賊たちに連れられ、彼らのアジトへと連れていかれてしまった。
ここに連れてこられてどれだけ経っただろうか、アジトは薄暗い洞窟のためクレハの中ではすでに日付の感覚が無くなっていた。常にわずかばかりの食料しか与えられず、みな、連れて来られた時に比べて痩せこけていた。牢の元へ盗賊の1人が顔を出す。
「おい、おまえ、出ろ。ボスがおよびだ」
その盗賊はクレハを指し、ボスと言われる人間の元へ無理やり連れていかれる。ボスと呼ばれる人間は盗賊という割にはこぎれいな格好をしており、到底盗賊には見えなかった。
「探したぞ、クレハ商会のクレハ。まったく手間をかけさせやがって大変だったんだぞ、お前の周りには常に兵士どもがいたからな」
「なぜ私の名前を、それに以前から私をつけていたんですか?それに、あなたの格好はどうやら盗賊ではなさそうですね」
クレハは盗賊たちから聞くべきことが湯水のごとく、湧き出てくる。
「ああ、正解だ。よくできました、俺はアルタル王国の兵隊長さ。で、こいつらは俺の部下ってわけだ」
アルタル王国という名前にクレハは目を見開いた。それも当然だろう、王妃から塩の話を聞いたときに、独占を行って利益を上げようとしていた国であり、クレハもよく関係している国だからだ。
「さて、とりあえず俺たちと来てもらおうか。おい、お前たち、さっさとここを出るぞ。牢に残っている奴らは全員、顔が分からないように始末しておけ」
「待ちなさい!なぜ、私だけ生かしておくのです!あなた達の目的は何なのですか?」
「なんだよ、まだ分からないのか?お前がコーカリアス王国で塩の精製方法を生み出したのは内通者から聞いているんだよ。だからわざわざ、俺たちの仕業だとばれないように盗賊のふりをしてたんだろうが。仮にここが発見されても、牢にいる奴らが中で死んでたら、使い物にならなくなって始末されたと思われて、お前も死んだと思われるだろう。そうなれば誰も助けに来ないから便利なんだよ。分かったらさっさと行くぞ」
クレハは必死の抵抗を試みるが、周囲の男たちには到底かなわず、男たちに気絶させられ、連れていかれてしまった。檻に残っていた者たちは火で燃やされ、顔の判別がつかない遺体となっていた。
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