69 過去との和解
クレハ達が国王と風呂の話をしているころ、ノイマンは一人アディー商会を訪れていた。そこには従業員は一人もおらず、店の商品もすべて兵士たちに徴収された後だった。そんな中、一人打ちひしがれているアディーの姿があった。ノイマンはアディーにそっと話しかける。
「アディー、あなた何故あのようなことをしたのですか?陛下を騙そうとすれば命を取られていてもおかしくなかったんですよ?」
「何だい、私を笑いに来たのかい?笑えばいいさ。わたしには何も残っていないんだからね。あの日、貴族に連れていかれた日から私は変わっちまったんだよ。初めは私に気があったけど、すぐに飽きられてポイだ。ゴミみたいに扱われて、私には何も残ってなかった。何もかも失った私が頼れるのはあんたくらいで商会のあった場所に行ってみればあったのはただの民家だよ。あんたにその時の私の気持ちがわかるかい?」
アディーはノイマンに今まで打ち明けなかった自らの心情を語る。
「すまないアディー。わたしにも家族がいたんだ、君を見捨てたことを許せとは言わないさ。いくらでも恨んでくれていい」
「私だって分かっていたんだよ。あんたは悪くないさ、悪いのはあの貴族だからね。でも、すべてを失った私は勝手にあんたに期待してしまったんだよ。それで自分の思い通りにならなかったからって、あんたを恨んで。本当に私は何をやっているんだろうね。せっかく、ゼロから今まで積み上げてきたものもまたゼロに戻っちまったよ」
アディーの目には後悔からか、ノイマンへの申し訳なさからか涙があふれていた。そんなアディーにノイマンはある提案をする。
「アディー、私に償いをさせてくれませんか?今度こそ私にあなたを助けさせてください。どうか私の商会で働いてくれませんか?」
「何を言っているんだい?私はあんた達を裏切ったんだよ。それに私は王を騙そうとしたんだ、そんな奴があんたの商会に入ったらあんたにも迷惑がかかるよ」
「そんなことありませんよ。それに、その年で財産もなくどうやって生きてくんですか?」
「そんなの物乞いでもやって生きていくさ。これでも商会を立ち上げる前は似たような生活をしていたものさ」
アディーは自らの過去を懐かしむように遠くを見つめる。しかし、そんなアディーに対し、ノイマンは今度こそ彼女を助けるという使命から強引にアディーを自らの商会に勧誘する。
「良いわけありません、それにそんな年で物乞いなんてして生きて行けるわけないでしょう。いいですから、私の商会に来てください。いいですね」
「分かったよ、あんたこんなに押しが強かったかい?本当にいいんだね」
アディーはノイマンの真剣なまなざしに今度こそ信じていいかもしれないと、ノイマンの提案を受け入れる。
「ええもちろんです。これからよろしくお願いしますね」
「よろしく頼むよ。ノイマン」
それからしばらくして、ノイマン商会では楽しげに働くアディーの姿が見られたとか、見られていないとか。
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