321 泥船と勝組
その人間がクレハの目の前に現れたのは本当に突然のことだった。
「ということなんです、クレハ様~。あたしの商会はクリーンな商売をしていきたいと考えているので今回の件は見過ごせなかったんです。」
そう、クレハの目の前に現れたのは先日ビスラにとある話を持ち掛けられたコズミィだった。なんと彼女は突然クレハの目の前に現れるや否やビスラという人間が自分にクレハを陥れようと誘ってきたと話始めたのだ。
もちろん、これは真実ではない。彼女が語ったビスラから提案されたこととは実際にはコズミィが考案していた凶悪なアイデアのことである。
なんと彼女は自分からクレハを陥れるようなアイデアをビスラに提案しておきながらクレハに対してはビスラから提案されたと話しているのだ。
「はぁ、そうなんですね。まさかそのような事を企んでいる商人がいるとは考えもしませんでした。わざわざ教えて頂きありがとうございます。ですが、なぜそのような事を私に伝えたのですか?もしもこの事がそのビスラという商人にバレてしまえば干されてしまうのはあなたですよ。」
いきなり目の前に現れ親切心で忠告をしてくれる人間ほど怪しい人間はいないとクレハは考えていた。だからこそ彼女にとってはこの点だけが気がかりだったのだ。
「問題ありません、私が目指す商会はクリーンなイメージが大切ですから。ですが、今回の件でクレハ様のお力になれたのであれば我々にも保険業務を少しばかりお手伝いさせていただければ幸いです。」
この発言でクレハは彼女が何を欲しているのか察することができた。だからこそ、相手の目的が分かり、少しだけ安心することができたのだ。
「あぁ、そう言うことですか。そうですね、そのお話が本当であれば事前にお知らせいただき本当にありがたいです。今後はコズミィ商会とぜひとも業務提携をさせてください。」
「本当ですか、ありがとうございます!精一杯働かせていただきますのでこれからどうぞよろしくお願いいたしますね!」
こうして、クレハは自身に有益な情報をもたらしたコズミィに感謝し、彼女の言うようにビスラという商人が動き出せばコズミィ商会との業務提携を行い、その恩を返そうと考えていたのである。
(くくっ、あははっ、すべてうまくいった。ビスラには感謝しないとね、あたしの商会の生贄になってくれるんだから。誰があんたみたいな泥船となんて組むか、どうせ組むなら勝組のクレハ商会に乗ったほうがリターンが良いに決まっているじゃん!)
ビスラにクレハを陥れるように命令しておきながらコズミィが告げ口をしたのはすべてはクレハ商会という勝組に乗るためだった。
彼女の計画では自分であくどい計画をビスラに進行させ、そのことを自分一人が警告することでその他大勢の商人たちを陥れることだった。
彼女はこれによってライバルとなる商人たちを全員破滅させることができ、商売を行う上での市場を独占できると考えていた。
そのうえ、クレハに取り入ることで最近赤字になった商会の経営を持ち直すことができると予想しており、二つの意味でうま味を感じていたのだ。
全ては自分の商会だけが独り勝ちをするために、彼女はクレハ商会以外のすべての商会を切り捨てたのだった。
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