307 証拠、証拠、証拠!
周囲の目を引くように話をしているクレハに突然声をかけたのはこの治療院の院長であった。彼は自身の治療院が急に騒がしくなり、何事かと様子を見に来ていたのだ。
「私も忙しいんですけど詐欺の被害にあえば黙っている訳にはいかないんですよ。犯罪者をつけあがらせても良いことなんて何一つ無いですからね。」
クレハは突然後ろから院長に暇なのかと尋ねられた皮肉を受け流し、自身がここに来た目的を話し始めたのだ。
「先ほどから話を聞いていましたがそれのどこが詐欺なのですか?患者によって容体は様々なんです。医者ではないあなたには分からないかもしれませんが医療とはそう言うものなんですよ。」
「ふふっ、ここの院長は医者としても三流のようですね。これなら先ほど私と話していた医者の方がまだ二流ですよ。彼は自分が発言していることがどれだけバカらしいことか理解しているようでしたけど、あなたは理解していないようですね。」
クレハが医者の発言の矛盾点を指摘するも一向に非を認めない院長に対し挑発するように非難をするも彼はその程度のことなど気にしていないと言いたげに不敵な笑みを浮かべるのだった。
「おや、私が三流ですか。まぁ、医師でないあなたには理解しかねるかもしれませんが事実なのです。そのような事を騒ぎ続けられてもあなたの品を落とすことになりかねないのでお止めになってはいかがでしょうか?」
「今は私の品格に関する話などしていません。あなた方の治療院が私に対して行った詐欺行為に関して話をしているんです。話を逸らすのはやめてください!」
クレハが話を逸らそうとしている院長に対して指摘を行うと彼はため息を吐きながら本性を現すのであった。
「はぁ、まだそのことに関して仰っているんですか。そこまで言うのであれば証拠を見せてください。」
「しょ、証拠ですか?」
「そうですよ、証拠ですよ、証拠!そこまで言うのであればこれから先、彼の診察通りの結果にならないと言う証明をしてください!さぁ、証明してくださいよ。証拠の無いことをグダグダというのはガキだけですよ!大人は自分の発言に根拠を持たせないといけませんよね~。」
院長は証明が不可能なことを理解しているのだろう、ニヤニヤといやらしい笑みを浮かべながらグイッとクレハに顔を近づけ、彼女が追い詰められている顔を見ようとしていた。
「もしも証明できないのであればあなたが行っているのはただの言いがかりですよね、それって貴族としてどうなんでしょうか?噂ではかなりの凄腕と聞いていましたが私にしてみればまだまだお子様のようですね。」
院長はクレハが何も言い返さなくなり、証明ができないと察したのか更に彼女を追い詰めようとする。自分に楯突いてきた貴族を言い負かせる、これこそが今の院長にとっては最高に気持ちが良いことだったのだ。
クレハが黙ってしまったことに周囲で今までの成り行きを見ていた者たちも貴族の質の悪い言いがかりかと思い始めたころ、唐突にクレハが放った言葉が予想外だったのか院長は思わず動揺を見せてしまうことになるのだった。
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