245 都合のいい存在
「この度は部下が大変迷惑をおかけしてしまい、申し訳ございませんでした。」
そろそろリーシア教からの接触があると考えていたクレハの元にやってきたのは先日、教皇から和解するまで帰ってくるなと追い出されたマグナ大司教だった。
彼はクレハの元にやって来るや否や、今回の騒ぎは部下の独断により行われたものだが上司である自分にも非があると謝罪を行ったのだ。彼の言い分ではクレハ商会を帝国に出店することが出来ればその立役者として教団内の地位が上がると考え、今回の騒ぎを起こしたということだった。
「既に今回の騒ぎを引き起こしたものは戒律により処しています。誠に、誠に申し訳ございませんでした。」
もちろん、今回の騒ぎを引き起こした張本人はマグナ大司教であり、彼の部下ではない。しかしながら、すべては部下の責任とすることによって自分は関りがなかったと主張しているのだ。
そのうえ、自分がクレハ商会との橋渡しとなることでリーシア教とクレハ商会の関係を修復するだけにとどまらず、関係修復の立役者として恩恵を受けようとしていたのだ。
「部下が勝手にですか・・・。で、その部下とやらはどんな罰を受けたんですか?」
もちろん、クレハだって目の前の人間の言うことを信じているわけがない、だからこそ、部下の処分とやらを尋ねたのだ。
「申し訳ございませんが、教団内の処罰に関しては機密事項になっておりますのでお答えすることはできません。」
「はい?つまりはあなたの発言だけでうちの商会に迷惑をかけてきた人間を処分したから手打ちにしてくれというつもりですか?」
クレハはあまりのバカげた発言に信じられないと冷ややかな目を向ける。しかし、信仰者とは調子が良いもので神という存在を都合の良い時だけ使えば民衆は納得するものだと思っているのだ。
「何を仰いますか、私は神の代弁者と言ってもよい大司教という位を教皇様から頂いているのです。そんな私が嘘などつきましょうか、もちろん、信じて頂いて結構です。」
クレハは目の前の人間が神という存在を盾に取れば本気で自身の言うことを信じるものだと考えていると分かり、この話を続けても時間の無駄だと、話を進めるのだった。
「そうですか、あなたの言い分はよく分かりました。それで、あなた方は迷惑をかけた私にどのような賠償をしていただけるのですか?」
「はい?賠償とはいったい何のことでしょう?部下は既に罰を受けているとお話ししましたよね、我々の神も仰っているように何事も許しあえる心が大切ですよ。
部下は十分に罰を受けました、クレハ様もそんな部下の心意気に免じて許しあえる心を持たなければなりません。さすれば、来世は今よりも素晴らしい境遇で生まれてくることが出来ます。」
マグナ大司教の言い分を簡単にまとめるのなら部下は罰を受けたのだから賠償など不要だと言うことだった。そのうえ、謝罪を受けているはずのクレハはなぜか説教のようなことを始められ、もはや何を言っているか理解に苦しむのだった。
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