128 商人アイールの正体
それからしばらくして、王妃が正気にもどる。しかしながら、部屋の中は恐ろしげな雰囲気がいまだに漂っていた。
とりあえず、サラのことは放置しておき、王妃はクレハに伝えなければならないことを語り出すのであった。
「報告にはあったのだけど、カルティ伯爵家にいちゃもんをつけられているらしいわね?大丈夫だった?」
「はい、以前にかなり強引な手段で被害を受けそうになりましたが何とか大丈夫です。」
「そうなのね、無事で何よりだわ。それでね、クレハにいちゃもんをつけるなんて、どういうつもりって、伯爵に文句の一つでも言ってやろうと思ったのだけれど、どうやらその必要がなくなったかもしれないのよ。」
先ほどまでの話し方では王妃は伯爵の味方ではなく、自分の味方になってくれるような言い回しであったが、必要がなくなったとはいったいどういう意味なのか疑問しか浮かんでこない。
「それは、いったいどういう意味なのでしょうか?」
「それがね、あの伯爵、何者かに騙されたみたいなの。詐欺師に騙されたって騒いでいるらしいわ。屋敷の財産をありったけ、根こそぎ持っていかれたらしいの。お金も調度品もきれいさっぱり。」
クレハもまさか、自分の店に様々な攻撃を巧みに仕向けてきた人間が詐欺師なんかに騙されてしまったとは思いもしなかったため、呆気に取られている。
「さ、詐欺師ですか?あそこまで色々手を打って妨害してきた伯爵にしては呆気ないですね。」
「まぁ、確かにそうなのだけど、結果的にはあなたの作戦勝ちかもしれないわよ。」
クレハは作戦勝ちと言われてもたいしたことは行っていないため、どうしてそうなったのか理解できないでいた。
「いったいどういうことなのでしょうか?私は詐欺師なんかを伯爵に仕向けていませんが。」
「伯爵に事情聴取を行ったものから聞いたのだけれどね、あなたが紙と醤油を伯爵と関わりのある商人には卸さないと公表したでしょう。
そんな公表をしたものだから伯爵とかかわりのあった商人たちは大慌てで伯爵との関係を絶ちに行ったのよ。商人たちに不利な契約ばかりを結んでいたこともあって呆気なく関係を切られたのね。伯爵とかかわりがあった商人たちは全員関係を絶ったそうよ。
せめて、まともに商人と契約を行っていたらこんなことにはならなかったでしょうに。ここまでは、あなたも予想していたのではないかしら?」
「はい、まさか全員が関係を絶つとは思っていませんでしたが少しくらいはそのような商人が出るのではないかと見越して発表を行いました。あくどいことをされた以上こちらも何か手を打たなければなりませんでしたから。」
「それでね、結局全員の商人が伯爵の元を去った後には伯爵家の主要産業である羊皮紙を買い取るような人間が全くいなくて伯爵家の財政は傾きつつあったの。
あの伯爵は無能だから、お金がないのにいくらでも食事にお金をかけていて、それも原因の一つね。そんな中、彼の元に商人を名乗る人間が現れたのよ。商人はかなり有能な人間らしくて、今まで取引を行ってきた商人たちよりも高額で伯爵との取引を行っていたの。
伯爵もうまくいっていたから完全にその商人のことを信じていたのね。そこで、商人のほうから投資話を持ち掛けられたの。よせばいいのに、その話にのって屋敷のお金をすべて持っていかれたみたいね。」
王妃の話を聞き、クレハはうわ~っ、というような顔をしていた。
「一度、成功して信用を勝ち取った後に大きな儲け話を話題に出して費用を出させる。そうして出されたお金をすべて頂いて姿をくらます。それって詐欺師の常套手段じゃないですか。」
そう、伯爵に持ち掛けられた投資話は全て嘘だったのだ。伯爵から羊皮紙を高額で買い取り、お抱え商人となって信用を勝ち取ったのはすべて、アイールの策略だった。
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