121 喜ぶもの、困惑するもの
伯爵が食事を終え、商人たちを待たせている部屋へと入ると商人たちが一斉に伯爵へと向かってくる。何やら彼らが伯爵に向ける目線は厳しいものであるがそれに気づく伯爵ではない。
商人たちにせかされていたのか部屋で対応させていた執事は冷や汗をかいている。伯爵が部屋へと入ってくると執事が急いで駆け寄ってくる。
「旦那様!お待ちしておりました。商人どもが騒がしくてなりません。」
伯爵に執事が耳打ちしていると商人たちが話に割り込んでくる。彼らは先ほどから重要な用事があるのに伯爵に待たされて頭にきているらしい。相手が伯爵であるにもかかわらず怒りをあらわにしている。
「伯爵、いつまで待たせるのですか!私たちには一秒でも無駄にできない状況ですのに。」
「そうです!伯爵、タダでさえ他の商人たちに後れを取っていますのに、これではあんまりです。」
他の商人たちもこのような文句を次々に伯爵にぶつけたのであった。伯爵は自分に対して無礼な態度をとった商人たちをにらみつける。
「貴様ら、伯爵であるワシに何たる態度だ!お前たちは誰のおかげで商売をできると思っているんだ。明日からお前たちの商会との取引は行わないぞ!」
伯爵からすれば商人たちと契約を結んでやっているのだ。商人たちが商売をできるのは自らのおかげと考えており、取引をやめると言ってやれば彼らはすぐに静かになると考えていた。そのため、商人たちはすぐにでも頭を下げ、取引を中止するのをやめてほしいと嘆願すると思っていたのだ。
しかし、伯爵の前に詰め掛けてきた商人たちの反応は全く正反対だった。
「えっ、良いんですか!よっしゃ、おい皆、これでようやく醤油を手に入れれるぞ!」
「やったー!これで醤油を仕入れることができるんだ!」
「紙も手に入るぞ!これを売りさばいて大儲けしてやる。」
商人たちは伯爵の目の前であるということも忘れ大喜びしている。必死に頭を下げ、取引中止をやめてほしいと頼んでくると思えば予想外の反応で伯爵の頭の処理を超えてしまい、ポカーンとしている。
初めは脳で理解することができない伯爵であったが次第に理解できるようになってくる。本来であればそのような無礼な態度をとられれば怒りをあらわにして暴れまわり、商人たちをなぶり殺しにしている所であった。しかしながら、彼らの予想外の行動に怒りよりも何故ということが先に浮かんでくる。
「おい、お前たちどういうことだ!貴様たちはワシのおかげで商売をやっていけるんだぞ!それなのに、この状況を喜ぶとは何事だ!貴様たちがそのような態度であれば本当に取引を中止するぞ!」
伯爵が怒鳴りつけると商人たちの代表と思われる商人がみなを代表して伯爵邸を訪ねた理由を説明し始めるのであった。
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