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秘密

 領地で、特産のバンブーの生育の視察を行なったり、橋や道の視察を行なったり、祖父に経営を学んだりと、慌ただしく毎日が過ぎていった。


 私がいつもの元気が無く、顔色も悪いせいか、祖父母が心配そうだったが、「大丈夫です。病ではありません。」と、言うに留めた。


 身体が、病なのではなく、心が、痛いだけなのだから……

 勝手に始まり、勝手に終わってしまった、自分勝手な初恋の結末など、言える訳がない。


 リリーナの笑顔を思い出すと、心が暖かい気持ちになるが、まだ、自らが勝手に作った心の痛手は、癒えてはいない。


 癒える日など、来るはずもない……


 そうこうしている内に、一月が過ぎた。



 突然、カメリアとリリーナが領地にやってきた。


「お兄様が、真昼の幽霊みたいになってるって、お祖父様のお手紙に書いてあったから、私達心配で来たの。本当に、顔色が悪いわ。お医者様に見てもらった?」


「真昼のゆう……酷いな…2人共、久しぶりだな。心配をしてくれてありがとう。だが、どこも悪くはないのだ。医者は、不要だよ。体調が悪そうに見えるのは、気のせいだ。さぁ、長く馬車に乗って、疲れただろう。今日は、天気が良いから、庭でお茶にしよう。」


 そう言って、3人で庭に向かったが、内心それどころでは無かった。

 リリーナの顔を見てしまえば、終わっっていると思った気持ちが、またぐらつく。


 諦めたと決めていたのに、またしても……恋とは、誠にままならないものだ。


 お茶の途中で、カメリアが祖母に呼ばれて中座した。


 また、以前の様に、リリーナと2人で、庭を眺めた。


 領地の庭は、王都の屋敷の庭と趣きも違い、野趣に富んでいる。果実の木も、多く植っている。


 リリーナは、喜んでくれているだろうか…


「リリーナ、こちらの庭を見るのは、初めてだろう。あちらの屋敷と違う趣だが、気に入ってくれたか?」


「ステア様、ここのお庭もとても素敵です。見た事の無い植物もたくさん生えてます。」


 そう言って、私を見つめた。


「皆様がおっしゃっておりましたが、お元気なお姿には見えません。身体を、休めておられますか?」


 リリーナが、私を心配してくれた。

 こんな時でも、喜んでしまう私の心は、なんて単純なのだと思ってしまう。


「病を得ている様に見えるかもしれないが、身体は全く病には侵されていないのだ。……私は…君に恋焦がれてしまったのだ。……カメリアの大切な共であり、人形だとわかっているのに…心が、好きになることを止められなかったのだ。なぜ、こんな話をしてしまったのか…自分でもわからないが、高慢な私の心が、君に知って欲しいと思ってしまっているのかも知れない。君には、いつも笑って欲しいと思っているし、幸せになって欲しいと心から思っているのに……こんな事を、話せば、君に負担になってしまうとわかっているのに…申し訳ない。君の友の兄は、こんなに、矮小な心の持ち主だったのだ…」


 私は、握り締めた自分の手しか、見る事は出来なかった。


 何故、言ってしまったのか。消え去ってしまいたかった。

 後悔が止まらない。



 どの位時間が経ったのかわからない。ただ、ひんやりと柔らかい掌が、私の固く握り締めた手の上に、そっと乗った。


「ステア様…私などに、その様な思いを寄せてはなりません。生きている様に見えていても、私はただの人形なのですから……」


 リリーナに言われて、顔をあげた。


「好きになってはいけないと、頭でわかっていても、愛しい、好き、というのは、どうやら心で思うもので、どうにもならない様なのだ。君が好きなんだ。愛している。」


 リリーナは、頬を染めて「嬉しいです。ありがとうございます。」

 そう言った後で、言葉を続けた。


「今まで、人に伝えられた事は無いのですが……種から生まれた人形は、育ててもらった人に忠実に生きる。これは、誰から教えられたものでは無く、心と身体に、受け継がれているのです。種から生まれた人形は…それぞれが、独立している様で、すべての人形が、繋がり続けている存在なのです。…私は、カメリア様が、とても大切です。けれども、カメリア様よりも短い間しか、過ごしていない、ステア様の事も、とても大切で…私は、普通の種から生まれた人形のはずですのに、違う気持ちが芽生えてしまっているのです。本来なら、その様な気持ちを持つはずがないのです。この気持ちは、ステア様が好きだと言う気持ちなのだと思います。」


「それでは、私とリリーナは、お互いが好き合っていたのか。あぁ、その様な事をリリーナから聞けるとは!!私と恋人となってもらえるだろうか?」


「ステア様、私達人形は、育つ段階で人格形成はなされますが、生き方の予定計画は種の段階で決まっていて、変更は出来ないのです。それを変える事ができるのは、【マザー】と呼ばれる存在のみです。」


「その【マザー】は、何処に居てるのだ。【マザー】に会って、リリーナのその予定を変えて貰いたい。」


「【マザー】が、何処に居てるのかは、私達人形は、口にする事は出来無い様になっています。」


 その言葉を聞いて、私は浮上した心が再度急降下した。喜んだ分だけ、落ち込みが酷い。


 リリーナは、こてんと首を傾げ、少し考えている様だ。

 そして、ドレスにはポケットなどないはずなのに、何処からか赤い半球の物を出し、私に渡した。


 それは、半分に割れた種の様だが、中は方位磁石になっていた。


「それは、【マザー】のいる場所を指している磁石です。それは、1年間で砂になってしまいます。白い印の方角に向かえば、会えるかと思いますが…一年で辿り着かなければ、私の事は忘れてください。道のりは、危険も多く、嫡男であるステア様のお身体に何かあったらと思うと……」


 そう言うと、リリーナは、涙を流した。


 キラキラ光る涙は、雫の形で固まり、一粒の宝石の様だった。


 それを、リリーナは私の掌に置き、「息ができなくなる様な事があれば、これを口に含んでください。1度だけなら、それで助かるはずです。」


 リリーナは、憂いを帯びた顔で私を見た。


「申し訳ありません。これ以上、何も言えないのです。」


 リリーナは、私に未来を与えてくれた。それが、1年間と言う期限があるとしても。


「リリーナ、私が【マザー】を探しに行く事は、誰にも言わないでくれないか。私が旅に出る事で、誰かが、リリーナを責めるかも知れないと思うと、落ち着いて探しに行けない。私と、リリーナの秘密だ。約束してくれ。」


 リリーナは、また泣きそうな顔をした。


「リリーナ、笑顔を見せて欲しい。リリーナの笑顔が、私の一番の活力なのだから。」


 リリーナは、憂いを残していたが、笑顔を見せてくれた。


 リリーナの気持ちを知った今、私は今までになく力が湧いてきていた。


 今すぐにでも、旅立ちたいが、黙って出かけると捜索されてしまう。

 こう言う時は、貴族は面倒だ。


 祖父母と父母に、面会をしてすぐに出掛けよう。



 リリーナと私の未来の為に。







 

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