恋はつらいよ
恋を気高く昇華させる、とは言ったものの、何をしたら良いのかさっぱりわからない。
悩みに悩んで、リリーナが何をしたら喜ぶか、考えてみた。
人なら、観劇に行ったり、何かプレゼントをしたら喜ぶかもしれないが、相手は人形だ。
観劇は、連れては行けない。大勢の人の前に出すと、騒ぎの元だからだ。
そういった事は、避けなければならない。
菓子か…少しは飲み食いはすると、聞いている。アルベルトが、人気店を知っているらしい。
早速、聞かねば。
ーーーー人形は、育てた者に心根が似るんだから、リリーナは、カメリアに似てるんだろう。
カメリアが、喜びそうな事をリリーナにしたら、喜んでくれるかな。
リリーナが、喜ぶ姿が見たい。
あの宝石の瞳で、見つめられたい。
艶やかな唇で、私に言葉を紡いでくれたら、どんなに嬉しいだろう。
リリーナの手は、少しひんやりしていたが滑らかで、爪の先にキスをした時には、一生自分の唇を、保存したいと思った程だ。そんな事を思う自分が、恐ろしい。
今までは、カメリアが一番愛らしかった…
しかし、すでに私の心は、リリーナで埋め尽くされている。
出来る事なら、カメリアに向いているリリーナの心を、私に向けて欲しい。
ずっと、私と2人で一緒にいられたら、どんなに素晴らしいか…私の部屋に閉じ込め、私しか見ない様にさせてしまいたい、などとおかしな事を考える始末。
あぁ、リリーナを喜ばせたいと思いながらも、私は、自分の欲望を抑えられなかった。
今まで、女性に関心を持っていなかった自分が、この様に変わるとは、恋とは恐ろしいものだと思う。
我が事ながら、思い詰めると恐ろしい事をしでかしそうで、怖い。
明日、菓子を買って、リリーナと…あ、いや、カメリアの部屋でお茶をしよう。
カメリアの部屋に、リリーナは、必ず居てるのだから、もう一度会えば、自分のこの気持ちが落ち着くかもしれない……
アルベルトに聞いた菓子店で、人気の菓子を買い、カメリアの部屋に向かった。
リリーナの事を思うと、顔が緩むが、カメリアに腑抜けた私を見られる訳にはいかないという、微かに残っていた自尊心で、どうにか通常の顔を保ち、ノックした。
メイドに、お茶の用意を頼んでいたのだが、入室した時に丁度お茶が入った様だ。
「カメリア、アルベルトに、人気の菓子店を教えてもらったんだ。今、話題のお店らしいぞ。」
そう、声を掛け、リリーナの方を向く。(不自然ではなければ良いのだが…)
「リリーナ嬢、ケーキは食べる事はできるか?苦手なら、違う物を用意させるが。」
ドキドキしながら、尋ねた。
「申し訳ありません。私は、植物から作られた物のみ、口に入れることができます。そちらのケーキは、バターとクリームが…折角のお菓子を無駄にしてしまい、申し訳ございません。」
「いや、こちらも気が利かず、申し訳なかった。」と、言ったものの、心の中では落ち込んだ気持ちと、次回は、喜んでもらえる物を探す!と、湧き上がる気持ちが綯い交ぜになった。
あぁ、声もとても可愛らしい。昨日、あれほど心待ちにした、リリーナの声を聞くことが出来て、私は、天にも登る様な気持ちになった。
お茶を飲みながら、カメリアとリリーナが話をしているのを、邪魔する事なく眺めていた。
庭の花の話や、髪型の話など、たわいも無い話の筈だが、リリーナはにこやかに、カメリアと話をしていて、本当に楽しそうだ。
私の入る隙はなく、一緒にいて嬉しい筈なのに、何故か寂しい気持ちでいっぱいになり、泣きたい気持ちになってしまった……
「リリーナ嬢、カメリア、私は戻るよ。お茶、美味しかったよ。ありがとう。」
そう言いながら、部屋を後にするしかなかった。
カメリアが、種から心を込めて育てた人形だ。
他の者が間に入る隙など、あるはずもない。その様な事さえ、気付かずに私は浮かれていたのだ。
……私は、愚かだ。
しかし、愚かではあるが、リリーナに恋をしている事を、無かった事になど、できるはずもない。
リリーナの心の片隅にでも良いから、ステアルトという人間の存在を残したい。
私に愛情を向けてもらいたいなどと、大それた事を考えるのは、止めよう、とは思うが、砂の一粒程でも良いから、リリーナの心に、私が存在するのであればーーー本望だ。
そのうち領地に向かわなくてはならないが、それまで毎日、リリーナに会いに行こう。
……リリーナ、好きなんだ……




