未来を掴み取るために
話の中に、『人には、血と汗と涙が必要』と出てきますが、精神論ではなく、人体の構造上(詳しくは分かりませんが…)血液と水分が必要くらいのイメージで書いています。
読んで、気分が悪くなられた方は、申し訳ないと思います。
苦手な方は、ブラウザバックでお願いします。
「先程は、貴方の本心を試す様な事を言って、ごめんなさい。本当は、貴方の心も、リリーナの心も、わかっているの。リリーナも貴方を愛しているのよ。貴方が、ここに辿り着いた事がその証明よ。涙を受け取ったのでしょう?あれは、心から誰かを愛していないと、流せないの。あの子、私に方位磁石もねだってきたわ。貴方、とても愛されているし、あの子も貴方と共に居たいと願っているのよ。」
リリーナが、私を愛してくれていると…それだけで私は、何より嬉しい。
今、[マザー]は不思議な事を言った様な……方位磁石をねだる?あの場には、私とリリーナしか居なかったが……
「ねだられたのが、不思議なのかしら?全ての人形は、私と心が繋がっているの。私を通して、人形同士も繋がっていると考えてもらって良いわ。あの時、リリーナは私に『ステアルト様と共に生きたい』と、訴えてきたわ。私は、貴方が1人で試練を受ける事を条件にしたの。方位磁石は、あの子の身体から作られたものなのよ。もう一息で、試練は達成よ。」
[マザー]は、微笑みながら、言った。
なんと、あの方位磁石はリリーナの一部だったのか!方位磁石を、抱きしめたい気持ちだ。
あの道程全てが、試練だったとは……挫けなくて良かったと、しみじみ思った。
「最後の試練よ。これが、リリーナをかなり人に近づける薬があるのだけど、これには足りない成分が3つあるの。貴方の、血と汗と涙を混ぜたものをこれに入れないと、効果がないの。では、出してもらえる?血は、最後でお願い。固まりやすいから。」
その様なモノが入った薬を、リリーナに飲ませる?汚くないか?私から出たモノなど。
私は、眉間にシワが寄ってしまった。
「あら?人には、この3つが必要でしょ?貴方は、嫌なのかしら?誰か違う人から貰う?」
[マザー]は、そう言って笑った。
誰か違う人?そんな事は、許せない。私のモノでも、申し訳ないというのに。
混ぜるなら、私のモノにしてもらう。
血と汗と涙……くっ…リリーナ、すまない。そんなモノを飲ませる私を、許してくれ。
毎日の様にしている鍛錬をすれば、汗くらい出るだろう。
そう思い、動き出すが緊張しているのか、動きが悪くなかなか汗が出ない。
汗が出るまで、かなり時間が掛かってしまった。
顔から流れる汗を、[マザー]は、葉で作った容器で掬い取った。
次は、涙か……道中の夜には、リリーナを思い泣きそうになった事は、一度や二度では無かったのに、出せと言われると、出ない。
ぐっと力を込めて目を瞑り、涙を絞り出そうと頑張ってみても、出なかった。
涙を出さない様にするのも大変だが、出せと言われても、涙は出ないなと、悔しい思いをしていた時、[マザー]は、痺れが切れたのか「なかなか出ないみたいだから、私が出させてあげる!」と、笑顔で言った。
ずっと、慈愛に満ちた笑顔だったのに、今の笑顔は何かを企んでいる様な、恐ろしげな笑みだ。
何をされるのか……
[マザー]は、サッと手を挙げると、上から垂れていたツタが動き出し、私の両手足を絡め取った。そして、そのツタは、私の身体中をくすぐり出した。
ツタは、絶妙な力加減で私の身体中を擽り続ける。くすぐったくて笑ってしまうが、笑いすぎてお腹が痛い。笑っているのに、苦しい。こんな力技で涙を絞り出すとは、考えもつかなかった。
漸く涙が出た時は、私は身体中の力が抜けて、座る事さえ出来なかった。
[マザー]は、そんな私に構う事なく、指先をトゲの様な物で刺し、血を出した。そして、先ほどの汗と涙が入った容器に入れると、軽く混ぜて、ガラスの容器に入っている薄青い液体の中に入れ、蓋をした。
ガラスの容器の中で、薄青い液体は泡立ち、容量が減っていった。そして、最後に残ったのは、1センチ程の透明な紫色の丸薬が出来上がっていた。
「はい、出来上がりね。お疲れ様。これを、リリーナに飲ませれば、リリーナは他の人形の様に砂になる事なく、人に近づくはずよ。身体も、大人の人くらいには、大きくなると思うけど、子供を産めるかどうかはわからないわ。そして、貴方のもう一つの懸念の妹さんの人形の件ね。貴方に快くリリーナを譲ってくれる様なら、これを渡してね。新しい人形の種よ。先に、これを渡す事はしないで。必ず、覚えていてね。」
それは、乳白色の中に、虹が閉じ込められている様な不思議な色合いの種だ。
「この種は、そのまま植木鉢に埋めて、あげてね。通常のお人形の種と同じ様に、心を込めて愛情とお水をあげて欲しいの。」
そう言って微笑んだ。
「さぁ、リリーナが待ってるわ。森の出口まで送ってあげる。」
そう聞こえた後、風が吹き、思わず目を閉じた途端、私は森から出ていた。
そして、すぐにでもリリーナの元へ駆け付けるつもりだったのだが、力尽きその場で倒れていた。
気付いた時は、少年の家のベッドだった。
「お兄さん、気がついたんだね。良かったよ。森へ入ってから、10日位経った時、アローが騒いだから森へ行ったんだよ。そしたら、お兄さんが倒れてて……死んでるのかと心配したよ。そしたら、息があるから近所の人達とここに運んだんだ。今、スープ持ってくるね。」
少年は、慌てて出て行った。
森に入ってから、数時間しか経っていないと思っていたが、10日も経っていたとは驚いた。
やはり、あの森は、普通の森ではないのだと思い知った。
「お兄さんが、あの森から生きて出た最初の人なんじゃないかなぁ。すごいよ。森の中は、どうなってるの?」
少年は、目をキラキラさせて尋ねてきた。
「森の中は、息ができなくて体が動かない…」その後の言葉が続かない。何か話そうと思っても、頭の中が霞がかかり、何も話せないのだ。
「……すまない。何も覚えてないんだ。わからない。」
少年は、あからさまにがっくりしていた。
「そうだ!用事があるって、言ってたよね。用事は済んだの?」少年の興味は、止まらない様だ。
「あぁ、何も覚えていないが、済んだ様だ。」
そう言って、笑った。
少年の母親が、スープを運んできてくれた。
「うちの子を助けてくれた恩人だそうで…ありがとうございます。」
「いや、お礼はわ、…俺の方が言わなければ。倒れていたところを助けていただいて、ありがとうございます。馬も、面倒を見て頂き、感謝します。」
「とんでもない。あの子が大金と馬を連れてきたんで、腰を抜かしそうになったけど、こうやってお返しできるので、良かったですよ。」
そう言って、渡した2枚の金貨を返そうとしてきた。
「それは、もう渡したものだから、使って下さい。こうして、俺も看病してもらって、助かったし。それのお礼も含んでると、してくれるとありがたいです。」
本当は、別にお礼をしたいくらいだったが、そう言って、無理やり貰ってもらった。
そして、俺はアローと共に、屋敷に向かった。
リリーナとの未来のために。




