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9話 試されるとは

山小屋で傭兵のガルグさんと商人のマルドゥさんと共に一晩あかした後、山を下りウディの街へと向かった。


山を越えた先にあるその街はアノムの街より大きく栄えていて、たくさんの人が行き交っていた。そこにはアノムの街とは違い色んな人種の人がいた。中にはエルフやドワーフみたいなファンタジーの世界にしかいないような人達もいた。


「うわ、すっげぇ。マルドゥさんはここで仕事してるんですか?」


「ええ、ここを本拠地に各地から特産物を仕入れたり…などですね。」


「すげぇだろ?マルドゥはこの街でもトップクラスの金持ちなんだぜ?ちなみに、そのマルドゥから直接指名をされるような俺もトップクラスだけどな!」


改めてこの二人の凄さを実感した。街の中を歩いていれば露店を出して物を売る人、剣や鎧を携える屈強な戦士。そんな人物が沢山いたけどこの二人はなんというか…オーラが違う。


それは、もしかしたら俺が助けられたから、交渉をされたから、会話をしたから…そんな影響があるのかもしれないけど、なんでか二人の背中が大きく見えた。


ガルグさんは俺より遥かに大きいから当然として、俺と同じぐらいの体格のマルドゥさんも俺より大きく高い人物に見えた。この二人に協力してもらえたはどれだけ頼もしいか…それを想像しただけで俺の心は奮い立ち、喜んでいた。


「まずは、私の家に行きましょうか。陣くんは慣れない旅でもあるでしょうしゆっくりする時間も必要でしょうし、願望者の試練についても調べないといけませんからね。」


「あ、いえ…そんな、わざわ…」


(いーや、ここはマルドゥの言葉に甘えとけ。何が理由かはわからんがあいつはお前の事を気に入ったみたいだ。試練を一つ達成したら…とか言ってるがあいつはもうお前に協力したくてしょうがないらしい。)


ガルグさんに遮られそのまま口を閉じる。商人のマルドゥさんにいきなり気に入られるのはちょっと怖いけど…どうあれ願いの為なら悪い話じゃない。そのまま俺はマルドゥさんの屋敷で休ませてもらい試練に関する情報が来るのを待った。


そうして、二日…マルドゥさんの情報によりかつてこの街の近くで試練を受けた事があるという人を見つけた。そして、その人物に会うことになったのだが…


「あぁ…君が願望者か…いったいどんな願いを…?」


その人物は酷くやつれ顔色も悪く、生気が感じられないような人物だった…


「俺は、死んだ妹にもう一度会いたい…その願いを持って旅をしてきいます」


迷いなく、その人を真っ直ぐ見つめながら答えた。しかし、その瞬間、その人は酷く怯えはじめ身を丸め、歯がカチカチ鳴るほど震え始めた。


「あぁ…まさかそのような願いだとは……恐ろしい、私は恐ろしい…悪い事は言わん、その願いは忘れて静かに暮らす方が良いだろう…私は、私はもうあんな光景は見たくない…許してくれ、許してくれ…私は私は…!」


その人はうわ言のようにぼやき始めると突然暴れ始め、食器を投げたり椅子を振り回したりしはじめた。


その場は一緒に居てくれたガルグさんが取り押さえ事なきを得たが、俺とはもう話したくは無いと言い追い出されるようにその人の家を出た。


「あーあ、結局何もわからなかったなぁ…」


「いえ、一つわかりましたよ。これから受ける試練は…トラウマになるぐらいだってね…」


冷や汗を流しながら俺はガルグさんに笑って見せる。そうすることで俺の中の不安を誤魔化せるか気がしたから。


「とはいえ、試練ってのは毎回内容が違うんだろ?お前も同じとは限らねーぜ?」


「そう…ですね。でも、俺とあの人願いは近いものだと思います。そうでなきゃあんなに怯えないし、そもそも願いを聞いてくるのがおかしいですよ。」


「なるほど、お前の願いを聞いてトラウマがよかったと…となると引っ掛かったのは妹、もしくは死んだ人間ってとこか?」


「たぶん…もしかしたら俺は同じような試練を受けるかもしれません…それが知れただけでも収穫ですよ」


「へっ!強がりやがって、声が震えてるぜ?あいつの言う通り大人しく暮らすか?俺でよけりゃ剣の握り方から教えてやるぞ?」


「まさか…そんなに安くないですよ…それより、場所を聞きそびれちゃいましたね。」


「おお、そうだな。内容が推測できても肝心の場所がわからないんじゃ意味がねぇ!」


そうして、俺は不安を募らせながら屋敷へと戻った。事の顛末をマルドゥさんに伝えるとあの人の知り合いを当たり情報を集めてくれた。


それによるとちょうど俺が二人と出会った山の中に試練の場があるそうだ。そこへの道はもう古くなり今では願望者がたまに使うぐらいになり地元の人でも老人や教会関係の人しか知らなくなっているとか…


「では、明日そこへ向かいましょうか。今日は早く寝て万全の調子で挑んでくださいね、陣くん。」


「あ、はい……あの、もしかしてマルドゥさんも着いてくるんですか?」


「えぇ、もちろん。願望者が試練を受けるなんて滅多に見れる物ではありませんからね」


「なるほど、お前が陣に気に入ったのはただの好奇心か…」


「はは、そうですね。いえ、勿論それだけではありませんが…とにかく私は陣くんに頑張ってもらいたいんですよ。」


「はぁ…そうですか…」


なんだか今一この人が信用できないが…とりあえず今日はもう休んで明日に備えよう。マルドゥさんが腹の底で何を考えようと俺の願いの為になるならなんだって良い。




翌日、俺はマルドゥと陣の護衛として山の中へと入っていった。前に入った事のある横道、その時は進んでいくと狼の縄張りに入るのかそこかしこから殺気が溢れてくるのを感じた。それ以上進む価値は無いと思いその時は引き返したが今回はそうは行かない…


「二人共、伏せてその場から動くなよ…」


そうして進んでいく内に縄張りに入り以前と同じように殺気を浴びる…いや、以前よりも更に強い殺気を感じる…おそらく群れのボスがいるんだろう。大剣を構えるが、正直この数に襲われて、しかも二人を守りながら戦える自信は無い、確実にどちらかが死んでしまう…そう考える間も狼は襲ってこない…


「はっ…なにやら変わった気配だと思ったら願望者が来ていたか。」


道の先から人の声が聞こえる。


「まぁまて、そう構えるな。願望者とその協力者であるなら我も責務を果たさねばならん…それが同胞を討った者が相手でもな。」


いや、それは人言葉が聞こえる…の間違いだった…道の先から現れたのは人の言葉を喋り、大きな体、この前陣を助けるときに斬った狼よりもさらに大きかった。


「来い、試練を受けるのならこっちだ」


そう言って同時に周囲の部下達を下がらせると先へと進んでいく…


それと同時にブワッと冷や汗が溢れでる。正直、あのままだったらヤバかった。少なくともマルドゥと陣、どちらかは死んでいた…修羅場はなんともくぐってきたし色んな物も見てきた…それだと言うのに人語を話す魔物がいるとは…これだから世界は面白い!俺はまだまだこの世界を堪能していないと思い知った。




巨大な狼にまぬかれるまま道を進むと、木々の間から日差しが入りそこの中央には手を差し伸べる人の像があった。


「あれは…ポーズこそ違うが主の像…なぜこんところに…」


物知りなマルドゥさんはそれの存在に違和感を覚えたのかまじまじと見つめる。ガルグさんは狼の方を見興味深そうに見つめている。


「ここで、試練受けられるのか…?」


そんな中、俺は狼に問い掛ける。狼が喋るのも山の中に像があるのもファンタジーの世界ではそう珍しい物じゃない。


「そうだ。お前の思う形で良いから膝をつきながら祈りを捧げよ。そうすれば試練は始まる。」


言われた通りする。両手を合わせお参りするよう形を取る。


「そのまま、貴様の願いを考え続けろ。」


…唯に会いたい。もう一度…渡せなかったプレゼント…あの時、言おうとしてた言葉…いや、そんな事関係無しに唯に会いたい。会えればそれで良い…俺の願いはそれだけだ。


「ふーん?本当にそれだけで良いの?」


目の前にはいつの間にか唯が居た…変わりに周りは何もない真っ白な空間で二人や狼は居なくなり、俺と唯だけの世界になっていた。


「そうだ、俺は唯に会いたい…ただし、こんな幻じゃなくて本物にだ。」


ここまでは、想定内だった。あの人の怯えようから何か悪夢でも見せられるのだろうと…


「無駄だ…目の前のお前が幻だってわかってるからな。だから、頼む…消えてくれ。」


「ふふ、酷いな~お兄ちゃん…愛する妹に向かって消えてくれだなんて…どうしても消えてほしいなら力ずくにでもしてみたら?」


「それが出来たら苦労しないよ。幻でも唯に暴力を振るなんて…」


ゴシャッ


聞き慣れない音と共に唯が消える…一瞬何が起こったのかわからずいるが下を見ると、そこには全身から血を流し、グチャグチャになった唯が居た…

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