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8話 道を進む

街から街へ行く商人の護衛の依頼を受け、大荷物を乗せた馬車の横を歩き目的地を目指す。


「この先に、山小屋がありますのでそこで休みましょう」


山道に入り日が暮れ始めた頃、商人がそう提案をする。俺もそれに賛成し日が完全に落ちる前にと少し早足に進んでいく。


すると、道の先から叫び声が聞こえる…それからほんの数秒後、金属音が響いてくる。


「これ…もしかしてこの先で誰かが戦ってませんかね…」


「たぶんな、魔物が相手か山賊が相手かわからんが…どっちにしろこの先を通らないといけねーんだ、少し待ってろ。すぐに片付ける」


「お気をつけて」


一気に駆け出し道を真っ直ぐに走り抜ける。すると、その先に狼と人間が戦っているのが見える。いや、あれは戦っているというより遊ばれている感じだ。


「間に合えよっ…」


背中にしょった大剣の柄を持ちながら、飛び出す。その瞬間、狼も飛び上がり人間を仕留めようとした。そうはさせるかと体を捻りながら大剣を振り抜き狼に斬りつける。返り血を浴びながら着地をすると真っ二つになった狼の死体が左右にあった。


それを見れば会心の一撃が入ったとわかり、良くやった!と自分を褒めたくなった。そんな上機嫌のまま俺は後ろに倒れている人間…まだ年若い男に声をかけた。


「よぉ!危ないところだったな!!」




一瞬、何が起きたか理解できなかった…呆然と目の前の大男と狼の死体を眺めてるだけだった所に、大男の大きな声で我に返ることができた。


「す、すみません…ありがとうございました…」


立ち上がり声を張ってお礼を言おうとしたけど、足はすくみ声は震えていて我ながら情けない姿を晒すことになってしまった。いや、そもそも魔物にやられそうになった時点で情けないんだろうけど…


「なぁに、良いってことよ。ほら、立てるか?」


「あ、ありがとうございます…うわっ…!」


大男が手を差し伸べてくれそれを掴んで立ち上がろうとすると、思いっきり手を引っ張られよろけながら立ち上がり、肩をがっしりと掴まれた。


「はっはっは!一人旅か?それならもっと鍛えておかないとすぐに死ぬぞ!まぁ、今のでよくわかったと思うけどな」


この人の言う通りだ。今回は運良く助かったけれど毎回こう行くとは限らない。やっぱり傭兵を雇った方が良いかな…そもそもこの旅事態難しいのかな…


「どうした?しょぼくれた顔して?」


「あ、いえ…なんでもないです」


「そうか?とりあえず、この先に山小屋があるから今日はそこで休むといい。あぁ、もちろん俺達も一緒だがな!」


そうして、俺は大男と道を戻り商人と合流し、そのまま山小屋で休む事になった。


「俺はガルグだ。見ての通り傭兵だ。」


「私は商人をやっておりますマルドゥ・マークです。」


「あ、俺、柊陣です…えっと…」


どうする…願望者で異世界人と正直に名乗るべきか…願望者はともかくとして異世界人は珍しい様だから警戒はしておくべきか…


「それにしても、一人旅なんて珍しいじゃないか?何かも目的があるのか?」


「その…俺、願望者なんです。試練を探すためにイレパスの街に向かってたんですけど…」


「イレパス?それなら途中の分かれ道を反対側ですよ?」


「おいおい、まさかあんなわかりやすい道を間違えたのか?」


「いや、でも地図を見たらこっちの側でしたし…」


そう言って地図を見せると二人はそれを眺めて。


「おい…お前、もしかして逆さまに見てたんじゃ…」


「それしか考えられませんね…ええと、仁くんもしや方向音痴…ですかね?」


そう言われた瞬間、俺は体温が上がり顔が真っ赤になるのがわかった。まさか地図を詠み間違えていたとは。普段、アプリに頼ってばかりで地図なんて見たことが無かったかせいかな…文面の利器に頼りすぎるのは良くないと改めて実感した…


「はっはっはっ!!まぁまぁ、良いじゃねえか!明日の朝にでも向かえばよ!」


「いえ、その前に願望者…と言いましたね?それなら無理に戻らずともこのまま私達と一緒にウディの街へ行っても良いんじゃないでしょうか?試練をどこで受けるかは願望者ごとによって違うとも聞きますし。」



「はぁ…そうなんですか…じゃあお言葉に甘えて。」


「おうおう、元気出せ陣!そんな事じゃ願いなんて叶えられんぞ!」


「あぁ、そう言えば…陣くんはどんな願いを持っているんですか?よければ聞かせて貰えませんか?」


「あ、俺は…」


一瞬迷う。わざわざ願いまで言う必要があるのか?助けてくれたとはいえ何でもかんでも話すのは危険では…と思ったが、ここで答えをはぐらかせば俺の願いそのものが歪んでしまうような、嘘になってしまうようなそんな気がした。


「俺は、死んだ妹にもう一度会いたいんです。その為に試練を受けるんです。」


俺は今後、だれに聞かれても正直に答える、そう決めた。俺自身が迷わないように。進み続けるために。


「そうか、叶うといいな。」


「そうですね…応援してますよ」


「ありがとうございます。それと、今日は助けてくれてありがとうございました。二人が居てくれなかったら俺はもう死んでました。」


「良いってことよ!見殺しにするのも寝覚めが悪いってもんだからな!」


「そうそう、人を助けておいて損は無いですからね。そういえば、傭兵は雇っていないようですが今後はどうするんですか?」


「あ、えと…とりあえず次の街についたら探してみようかなって。」


「確か、願望者に協力したら最後に報酬が出るんだろ?探せば一人や二人はいるんじゃないか?」


「いえ、それが最初のアノムの街では皆当てにならないって断られて…」


「完全後払いですからね…最初に幾らか払えれば話は違うんでしょうけど…」


「あの、実は俺、異世界から来てまして…この世界には二日前に来たばっかりなんですよね、だから金も全然持ってなくて…」


旅立つ時に司祭から渡されたお金…ちょっと使ってしまったかは残り銀貨一枚を見せると二人は哀れむような目で俺を見つめる…そんな目で見られると余計に不安になるじゃないか。


「異世界…それも興味深いですが、それより…これ、ガルグさんなどうします?」


「悪いがお断りだな…せめて試練を一つでも達成してるのら考えるが…」


ですよね。俺だって後から莫大な利益が出るから!絶対上手くいくから!とか言われても信じない。てゆうか詐欺の常套句じゃないか。俺って随分怪しい立場だったんだな…


「ふむ、それではこうしましょう。もし、陣くんが試練を一つ達成したら、私がガルグさんの契約金を払いましょう。」


「え!?良いんですか?」


「おいおい、マルドゥ…俺は構わんがお前が損をするかもしれないんだぞ?」


「はっは、損を恐れていては商人は勤まりませんよ。それに、試練を一つ達成したら…と言ったでしょう?先ずは陣くんが私達に信頼を見せてください。君なら大丈夫…というね。」


突然の話で驚きを隠せないが、俺にとってはこれ以上の話しは無い。


「ガルグさん、強かったでしょう?彼なら一人でも魔物の大群でもやっつけてくれますからね」


そう、マルドゥさんの言う通りだ。あの大きな狼を一撃で倒すぐらいの実力があって、まだ知り合ったばかりだが良い人だと思う彼が一緒に居てくれるのは凄く心強い。


「わかりました。その話、忘れないでくださいね!」


「ええ、期待してますよ陣くん。」


そうして、俺は新たな希望を胸に抱きながら眠りについた。まずは試練の場を探さないとな。

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