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3話 妹は今

ーお兄ちゃんが幸せでありますようにー


それが、私の願い。


私は死んでしまったみたい。お父さんとお母さんと私で買い物に出掛けた日、交通事故にあったから。あの日、お兄ちゃんだけはバイトがあるって言ってついてこなかった。


全身が痛くて視界もぼんやりしてて、運転席と助手席にいたお父さんとお母さんはたぶんもう死んじゃってるかな。とっても苦しいはずなのに頭の中だけはやけに冷静で、今なら学年一位も取れるんじゃないかってぐらいだった。


学校の友達とか親戚のみんなとか悲しむかなぁ…って思った時、お兄ちゃんの事を思ったの。


だって、一番悲しむのはお兄ちゃんに決まってるもん。家族三人を一度に亡くすってものあるけど…それよりなりより最愛の妹がいなくなっちゃうからだよ。


え?なんでそんな自信をもって言えるのかって?だってお兄ちゃんわかりやすいんだもん。最初に気が付いたのは私が中学生の頃で、その時は距離を取ろうとしたり目をそらしたりとか…嫌いになったのかな?って思ったけど勉強困ってないか?とかいじめられてないか?とか…そう、良いお兄ちゃんぶってきたの。


私の方が成績も良いし、友達だって多いのに変なのって思ったの。それを友達に話してみたらね、「あんたの兄貴、シスコンなんじゃね?」だってさ。だから、その日帰ってからお兄ちゃんに抱きついて大好き♡って言ってみたら…顔真っ赤にして私を突き放して慌てて部屋に入っていったの。ね?分かりやすいでしょ!


だから、きっとすごい悲しむんだろうなーって死ぬ瞬間まで考えてたの。もしかしたら後追い自殺とかもするんじゃないかなって。一人にさせて、悲しい思いさせてごめんねって最後に言いたかったけどそれも叶わないでしょ?


うん、そう。だから私はせめてお兄ちゃんが良い人見つけて、良い仕事について、良い家庭を築けて…それで、最後に笑顔で私の所に来てくれたら嬉しいなって思ったの。そしたらね、その人生で何が起きたか語ってもらうんだ。口下手だけど全部話してもらうの。


そして、話し終わったらそれは私がそう願ったからなんだよ?って教えるの。そうすると、お兄ちゃんは絶対に泣いて喜んで「ありがとう!お前は最高の妹だよ!」って言ってくるんだ。え?わかるよ。だって、私もお兄ちゃんの事が大好きだから♪




「あー、わかったわかった。あんたのブラコンっぷりはよくわかったよ。ていうか、その話も何度も聞いたから。」


この、嬉しそうに兄ラブ話をするのは柊唯。異世界から強い願いを持って死んで、その願いを叶える事が出来るこの世界に転移してきたそうだ。にわかに信じがたい話だけど、ごく稀にある話だそうだ。それに会えるのは運命かもしれないって教会の祭司に言われたから付いていくことにした。


「もう、ちゃんと聞いてくれないと私の願い叶わないかもしれないんだからね?そうなるとラミさんの報酬も出ないんだよ~?」


この子みたいな願いを叶える為に試練を受ける者を願望者と呼ぶ。そして、その手助けをし見事に願いを叶える事が出来れば教会が莫大な報酬を出してくれるそうだ。


あたしは、傭兵をやって10年になるけど今までのどの仕事よりも多い報酬だ。最初は上手くいくかどうかもわからん後払いの仕事なんて割には合わないと断ったんだけど…教会のじいさんとこの子に言いくるめられて請け負うことに…


「ちょっと~?聞いてますかラミ・ミアさ~ん?」


祭司のじいさんに紹介されたときはか弱い様子で助けを求めて来たくせに…異世界から来たって言うから面白そうだなって思って首を突っ込んだら…毎日毎日、兄の話をしてくるとんだブラコン娘だったわけだ。


「あーあー、聞いてるよ。あんたは兄貴と相思相愛で、だけども死に別れちまったからせめて兄貴の幸せを願う出来の良い妹だってね。」


「きゃっー♪相思相愛だなんてラミさん本当の事言われると恥ずかしい…♪」


「今のは皮肉だったんだけどね…」


「うんうん、嫉妬しちゃうのもわかるよ。ラミさんだってその内良い人見つかるよ。」


「もう…飯ぐらいゆっくり食わせてくれ…」


移動中もこうだけど食事の時はもっと酷い、まくし立てるように話を聞かされて返事をしないと問い詰めて来て…こうして折角飯の上手い酒場に来たのにこの子の話のせいでスープもパスタもすっかり冷めちゃって…


「ていうかラミさん食べるの遅いね?もしかして猫舌?」


「あんたの話を聞いてたからだよ…ていうか、なんであんたは喋りながらなのにちゃっかり食べ終えてるのさ。」


「ふふん、これが現代日本を生き抜く為の必要な能力なのです。時間は無駄には出来ませんので。」


「あんたの世界も大変なんだね…」


この子と一緒に旅をして1ヶ月…。あのじいさん、帰ったらぶっとばしてやる。

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