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2話 兄の願い

「ようこそ、願望者よ。見たところ別の世界から来たようだのう。」


気が付けば俺は石造りの建物の中にいた。天窓から日の光が差し込み暖かく神聖な雰囲気が出ていた。そして目の前には白いローブを纏った老人が。


「別世界からの願望者がまた来るとはのう…お前さん、よほど叶えたい願いがあるんじゃろ?」


話のほとんどがわからない…でも、一つだけわかる。


「俺は…もう一度…」


俺が願いを言おうとした瞬間、老人は指を俺に向けて遮った。


「まだじゃ、お前さんの願いを聞くのはもう少し後じゃ。それよりも少し話をしなければならんからのう。お前さんがどんな世界に居たかは知らんがここはディシディルと呼ばれる世界。そして、ここは願いの試練を与える場。その試練を全て乗り越えた時、お前さんの願いは叶えられる。そして、お前さんは強い願いを持っていたからここに喚ばれたのじゃ。ここまではわかったかのう?」


老人の話はまるでファンタジー世界のような話でにわかに信じられなかった。もしかしたら俺は夢を見ているのかもしれない。


「はぁ…まあわかりましたけど。でもおかしいんですよ。だって、俺さっき飛び降り自殺をして…それで…」


今になって思考が鮮明になる。そう、俺は学校の屋上から飛び降りたんだ。先生や同級生が俺を止めようと必死に叫んでいた。俺を助けようと名前を呼び続けてくれた医者。幸いにもその時の痛みや自分の体なんかは思い出さなかったけど、きっと酷い状態だったと思う。


思い出すと途端に気分が悪く、吐き気が襲ってきた。手足に力が入らず体は震え寒気が止まらなくなった。俺は一度死んだんだ。


「お、俺は…死んだはずなんです…ここは死んだ人間が来る場所なんですか…?」


老人は怯えて弱々しい声を出す俺を見下ろしながら言った。


「さてな…。死んだかどうかなどは些細な問題じゃろう。今、お前さんはこの世界では生きておる。そして、何としても叶えたい願いがあるお前さんをこの世界の神は喚んだのじゃ。ならば、お前さんはそうして怯えて縮こまってる場合では無いんじゃないなかの?」


俺の願い…死んだ後に未練が残って幽霊になる…なんて話はよく聞くけどそれに近い状態なのか。いや、違う…老人の言う通り、今俺がするべき事はそんな事考える事じゃない。


「ほっほ…目に生気が戻ってきたの。では、宣言するがいい。お前さんの願いを嘘偽り無くの。」


「俺は、元通りにっ!家族にっ……」


本当に?


「っ……!」


何故かそんな言葉が過った。父さんと母さんと妹と俺。失ってしまった家族との生活を取り戻したい。その願いに嘘は無いはず…それなのに何故か止まってしまった。老人は何も言わず俺を見ているだけ。


嘘偽り無く…その言葉がどうしても引っ掛かる。嘘なわけが無い、だって父さんも母さんも好きだった。好きだった。妹の事も大好きだった。


大好き……?


そうだ、俺は妹の事が大好きだったんだ。死ぬ間際俺は妹の事しか思い出せなかった。もう一度会いたい。プレゼントを渡したい。一緒にいたい。そう思っていた。


「それが…俺の本当の願い…何をしても叶えたい強い願いなんだ。俺は…妹に…唯に会いたい!会って抱き締めたい!好きだって言いたい!!」


「合格じゃ。その願い忘れずに進むのじゃぞ。」


俺の願いを聞いた老人はニッコリと微笑む。その瞬間、持っていたネックレスが光出す。


「お前さんの願いはその中に刻まれた。お前さんが願いを諦めない限りきっと助けになってくれるじゃろう。」


こうして俺は異世界ディシディルにて誰よりも大切な妹、唯に会うための旅に出る事になった。

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