17話 人のため
「おい!まだ二人は見つからねーのかよ!」
苛立ちのあまり机を力強く叩き大きな音を鳴らす。周りにいる奴等はその音に反応しこちらを向くが何も言ってこない…
「ちょっと、止めなさいよラミ。当たってもしょうがないでしょ?」
船が突然の嵐に襲われてから二日目。突然の事だったから記憶はハッキリしないが、船が大波に飲まれそのままバラバラにぶっ壊れたそうだ。それで、あたしとセーナと殆どの乗員は運良く街の近くの浜辺に流された。
「なんで、よりにもよって唯とマリアンだけ見つからないんだよ…」
「ま、まぁまぁ…他の方々も皆様生きて発見されましたし、きっと二人も無事にどこかに流されていますよ…」
「だったら…だったらとっと連れてきやがれってんだ!」
「ちょ…止めなさいラミ!!」
船長の呑気な発言に苛立ち胸ぐらを掴み怒鳴り付ける。セーナが止めに入るが私はそれも聞かずに船長を殴り飛ばした…そこから先は船員達も怒ってあたしに殴りかかってきてそれをあたしが殴り返して…もうしっちゃかめっちゃだった…
「もう…貴方が暴れた所で二人は見つかりません。誰かに八つ当たりしてもなにも解決しません。それに、行方不明だった人達もちゃんと少しずつ見付けてくれたんだから船長さん達が悪いわけじゃないのよ?」
「はい…ごめんなさい…」
騒動を聞き付けた衛兵達がやって来てその場を納め、大人しく宿へと戻ってきたら床に正座させられセーナから説教をされるハメに…
「二人が心配な気持ちもわかるけど…今は待ちましょ?私達、素人がでしゃばってどうにかなる問題じゃないんだから…」
「悪かったよ…」
「それに…もしかしたら二人は今試練を受けてるのかも…」
「はぁ?なんで?」
「なんとなくよ…嵐に襲われた時にお祈りしたでしょ?もしかしたらそれが反応したとかで…」
確かに、願望者二人が見つからないなんて言われたらその可能性も無いのかもしれない…だとしたら、二人は今どんな試練を受けてるんだ?
「頑張れよ…唯、マリアン…」
あれからどれぐらい時間が立ったんだろう。どのくらい歩いたんだろう。この浜辺はどこまで続くんだろう?私には何もわからない。ただひたすら唯を背負って歩く事しか出来ない。あてもなく歩いているうちに限界が来てしまい、唯を支える手に力が入らなくなってきた。仕方がないから一度休憩する事にした。ゆっくりと唯を砂の上に下ろし寝かせる。
「唯…起きないな…ねぇ起きて?唯、起きて?」
頬の辺りを軽く撫でながら声をかけるけど起きてくれる様子は無い…胸の辺りに手を当てて鼓動を確かめるとしっかりと動いてるのがわかる。それだけでも少し安心する。
「どうしよう…水も食べ物も無いし、もしかしたら魔物に襲われるかもしれないし…早く誰か見つけてくれる場所に行かなきゃ…」
その時、波の音とも風の音とも違う音が聞こえてきた…風を叩くような力強い音…鳥が羽ばたく時の音だ。でも、それにしては音が大きすぎる…というかだんだん近づいてきてる?
「あっ、魔物!?」
そうだ、思い出した。唯達と初めて会ったときに襲われた鳥の魔物の音だ。
「は、早く逃げなきゃ…あ、でも唯を背負ってたら唯が襲われちゃう…ど、どうしよう…」
どんどん音が近づいてくる。逃げるにしてもどこに行けばいいかわからない。せめて、せめて唯だけは守らないと…そう思った私は唯に覆い被さり攻撃から守るようにした。
「お願いします…どうか、唯だけは唯だけは…」
怖くて体が震える。誰か助けてと心の中で叫ぶ。私に戦う力があれば魔物を追い払えるのに。
「クァ、クァカカカカカッ」
ッ!?魔物が笑ってる。きっと餌を見付けて喜んでるんだ。ああ、私ここで食べられちゃうんだ。こんな、こんなどこかわからない所で。誰にも知られないで…願いだって叶ってないのに…もう、私、死んじゃうんだ…
唯の体をギュッと力強く抱き締める。怖くて怖くて本当は守らなきゃいけないのに、今は唯に助けを求めてる。目を覚まして欲しい。私を勇気づけて欲しい。また、友達って言って欲しい。死ぬ前にもう一度…
「クァカカ…小娘、もう一人の小娘が余程大切らしいなぁ?怯えながらも自らを上にし庇うとは…クァ!美しき光景よなぁ…」
「だ、誰…?誰かいるんですか!助けてください!魔物に襲われてるんです!!」
「おぉ、分からぬか?怯えて分からぬか?喋っているのは私だぞ?美味そうな小娘達を眺めている私だ。」
「え…?そんな、魔物が…喋ってる…?」
「んん?もしや…目が見えないのか?クァカカカカ!!そうかそうか!その様なか弱い身で友を庇うか!小娘の肉はさぞ上品な味がするであろうなぁ!!!!」
やっぱり食べるんだ。私も唯も…このままじゃ二人とも食べられちゃうんだ。
「お、お願いします…唯は…この子だけは見逃してください…友達なんです…この子にはやらなきゃ行けない事があるんです。叶えたい願いがあるんです…」
「クァカカ、ならば小娘の願いは良いのか?」
魔物の言葉に私は迷う…私だって目を見える様にして、また色んな物を見てみたい。お父さんとお母さんの所に帰りたい。唯と一緒に居たい…だけど…
「良いんです…私は、私の為の願いだから…でも、唯はお兄さんの為の願いなんです。誰かの為に頑張ってるんです…だから、私は良いんです。」
「クァ…クァカカ……」