表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/17

16話 揺れる足並み

ザザーン…ザザーン…


聞き慣れない音がする…これは…そう、波の音だって教えてもらった…全身を何かが這ってくる…私の体を行ったり来たり…冷たい感触とザラザラしたのが何度も何度も…あれ?私、どこにいるんだろう?たしか、皆と船に乗ったけどいっぱい揺れだして怖くなって…それで、部屋の中で皆と一緒に居たはず…唯が手を握ってくれてたはず…


唯の手…今も握ってる。大きく揺れる船の中でもしっかり握ってくれてた。私が転んだりひっくり返ったりしてもずっとずっーと…私も息が苦しくなって体がグルグルした時も離しちゃ駄目だって思ったんだけ…そうだ、船が転覆するぞって男の人の叫び声が聞こえたんだった…


「あっ!?…ゆ、唯、大丈夫!?」


思いだした。私、海の中に飲み込まれたんだった。いつの間にか気絶して、それでどこかに流れ着いたんだ…ううん、そんなことより今は唯が大丈夫なのか確かめないと…


「ねぇ、起きて、起きてよ!返事してよ、唯!!」


手探りで唯の体を探し、それらしい物に触れて揺すったり叫んでみるけど、返事も無いし動く気配も無い…胸の辺りに手を当ててみる…トクン、トクンって動いてるのがわかる。


「良かった…生きてる…でも、どうしよう…」


ここがどこかもわからない…私じゃ治療をしてあげることも出来ない…


「誰か!誰かいませんか!?ラミさん!セーナさん!誰でも良いんです!唯を助けてください!!」


必死で叫んでみるけど返事は返ってこない…波の音と海鳥の鳴き声が聞こえてくるばかり…もしかしたら、私達以外の人は居ないか…もしかしたら、死んじゃってるのかもしれない…このままじゃ唯まで死んじゃう…誰か、誰かが助けてくれれば…


「あ、そうだ…首飾りを使えば!誰か…誰か助けてくれる人が居る所を教えて…お願い…神様っ…!」


でも、首飾りはピクリとも動かなかった…街へ案内してくれた時は私を引っ張ってくれたのに…どうして?なんでこんな時に限って動いてくれないの?どうして誰も居ないの?私じゃ唯を助けるなんて無理だよ…お願い…誰か…


いくら、そう願っても何も変わらなかった。気が付けば風は少し冷たくなり日差しも弱くなった気がする。今は夕方ぐらいでもうすぐ夜になってしまう。濡れたままじゃ体が冷えてもしかしたら本当に死んじゃうかも知れない…それに、夜になれば魔物が出てきて襲われるかもしれない…せめて、どこか安全な場所に行かないと…でも、そんなの何処にあるの?


「と、とにかく水辺よりはマシなはず…」


そう思い、唯の体をおんぶしてみる。


「確か、こうして手を首もとにやって…それで、足を持って…」


昔、お父さんとお母さんにしてもらった時の事を思い出しながら手探りでやってみる。


私が一人で歩けるようになってもよくおんぶしてくれたっけ。心配だからって、転んだら危ないからって…私もおんぶしてもらうのは好きだった。二人の背中にいる時は凄く安心したし普通に歩いてる様にも思えたから…


でも、いつの間にかしてくれなくなったっけ…私が大きくなったからか…私の事が嫌いになったからか…それはわからないけど、その頃からお父さんもお母さんも喧嘩するようになった…


「ごめん…なさい、ごめんなさい…私のせいだよね…?私が、私が生まれてきたから二人が大変になったんだよね…?昔は二人とも優しかったのに仲良しだったのに…私が駄目な子だから…」


そう、呟きながら…体をフラフラさせながら唯を背負って歩き出す。


「私、頑張るから…唯も死なせない…願いも叶えて目も見えるようになるから…だから、また、お父さんとお母さんが仲良くしてほしいの…」


どこへ向かえば良いかもわからないのに…どうすれば良いかもわからないのに…とにかく私は歩いた…誰かをおんぶするなんて初めてだし、杖も無いうえ砂のせいで普通より歩きにくい…


「あっ…!?」


体が傾いて転んでしまった。


「ごめんね、ごめんね唯…痛かったよね…」


返事は聞こえない…また背負い直して歩き出す。今、捻ったせいか左手が痛い…足を支えてる力が抜けそうになる。それでも、私は我慢して歩き続ける。


いつの間にか海鳥の声も聞こえなくなり、波の音だけが響く…このまま当ても無く歩き続けるだけで良いのかな?進む方向間違えてないかな?何を考えても不安になるばかり。


「そうだ、もしかしたら街に近づいてるかも…そしたら気付いて貰えるかも…誰かー!誰かいませんか!!」


大きな声で叫んでみる…でも、やっぱり返事は返ってこない。耳を澄まして良く聞いてみても…


「もう少し、歩いてみよう…大丈夫だよ、唯は絶対私が助けるからね。もう少しだから待っててね。」


背中に小さな鼓動が伝わる度に、一歩一歩足を進める…

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ