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10話 甘い誘いに顔を向けて

落ち着け…これも想定していたんだ…あのやつれた人の怯えよう、悪夢を見せられたんだ。そう、例えば、大切な人が目の前で死ぬとか…


息が荒くなる。心臓も恐ろしく速くなっているのがわかる。胸が、心が抉られたような感触が走る…。わかっていたとはいえ実際に見せつけられるのは思っていたより辛かった。いや、せめて不意打ちで無ければもうちょっとマシだったかもしれないな。


「…すー…はー……よし、もう大丈夫だ。」


目を閉じて深呼吸をする。そうすると呼吸も鼓動も徐々に落ち着いてくる。やっぱり、事前に情報があったのはラッキーだった…あの人には悪いけど…。このまま試練は達成出来るだろうと確信し、ゆっくりと目を開くとそこに唯の死体は無かった。


「あれ~?お兄ちゃん目の前で私が死んだのに平気そうだね?もしかして、私の事なんにも思ってないの?」


「いや、そんな事無いよ…ビックリしたけど、どうせ幻だし。」


後ろから唯の幻が話しかけてくる。目線は動かさない。もしかしたらまた突然死んでしまうかもしれないから。


「そんなことより、試練はこれで終わりだろ?だったら、さっさと消えてくれ。」


「もう、またそうやってツンケンするんだから!お兄ちゃんの願いは私に会うことなんでしょ!幻でもちょっとぐらいは喜んでくれてもいいじゃない?」


「お、幻って認めたな?」


「だって、そうでしょ?私はもう死んでるんだから。」


幻がそう言った瞬間、後ろでドサッと音がする。たぶん、また死んだんだろう。振り返るな、見るだけ無駄だ。


「いた、いよ…お兄ちゃん…た、助け…」


振り返るな…どうせ、これも罠だ。見た分だけ俺が損をするんだ。


「どうして…酷いよ、おに…ち…」


その苦痛に満ちた声にまた鼓動が速くなる。それでも振り返るな。助けたくなる。手を取りたくなる。抱き締めたくなる。


「あーあ、私、また死んじゃった。お兄ちゃんが助けてくれればなー」


「うるさい。お前に用はないんだって。」


今度は目の前に現れる。それを押し退けて前へと歩き視界の外へとやる。速く消えてほしい。そう言えば、いつの間にか真っ白な空間にいるな。ガルグさんとマルドゥさん、狼も消えている。試練を受けるときは毎回こんな空間に来るのか?


「ねぇ、じゃあ聞くけど…どうやって私に会うの?」


「それは…試練をやり遂げれば会えるんじゃないのか?」


「どうやって?私、死んでるんだよ?生き返るとは限らないんだよ?」


その言葉に背筋に寒気が走る。確かにその通りだ。唯は死んだ。火葬して骨になったのも見た。だったら俺が願うべきは唯が生き返る事か?


いや、でもそうすると元の世界で甦って二度と会えないかもしれない。


過去に戻るのは?事故があった日に戻り俺が出掛けるのを止める…いや、5分足止めするだけで大丈夫だろう。それなら、あのまま普通の生活をおくれたのか?


もしかして、俺は最初の願いからして間違えていたのか?


「ふふ…ね、お兄ちゃんの願いは私に会うことなんでしょ?だったら叶ったも同然じゃん!このまま私とずっーとここにいようよ。」


「い、いや…それは…」


違うと言おうと思った。だけど言えなかった。だって振り返ってそこにいたのは唯だから。見間違えるわけ無い。唯なんだよ。


「ほら、来て。お兄ちゃん。ここなら誰の邪魔も無いんだよ?私とお兄ちゃんだけ。素敵な場所でしょ?」


唯が俺の頬を両手で包み、ゆっくりと体を寄せて来る。近づいてくる顔に緊張して体が動かなくなる。


「ふふ、つ・か・ま・え・た♪」


そう言った瞬間、唯の首が落ちた。


「え、あ…あ、あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!唯!唯!!」


絶叫しながら落ちた唯の頭を拾い上げる。その時に体も倒れてしまい、もうどうして良いかわからなくなった。床には血が広がり、抱えた頭を見ると瞳孔が開いた唯と目が合う。一気に気分が悪くなりかかってきてそのまま吐いてしまった。


「あはは、お兄ちゃん大丈夫?ドッキリ大成功!」


首が切れた死体は消えて、新しい唯が現れる。


「ど、どうして…こんな事…」


咳き込みむせ帰りそうになりながら問いかける。


「ふふ、だってこうした方が楽しいでしょ?お兄ちゃんは死んだ私に会いたい、そしてこのままここで一緒に過ごしたい。その代わりとして私はお兄ちゃんにイタズラをするの。目の前で何度でも死んであげる。色んな死に方してあげる。お兄ちゃんが死んだ私でも愛おしく思うぐらい死んであげるからね♪」


唯の顔と声で、とても恐ろしい事を言っている。目の前にいるのは唯じゃない。唯の姿をした化物だ。こいつが俺に試練を与えている。あの人に見せた悪夢を俺にも見せている。


怖くなった俺はその場でうずくまり頭を手で覆い目を閉じた。こうすればもう何も見なくてすむ。そう安心した。


「あれれ?どうしたの~?小さくなっちゃって…そんなに怖かった?ふふ、お兄ちゃん可愛い。」


「うるさい!もう話しかけるな!消えろ!終わりにしてくれ!」


「あはは、そんな情けない格好してるのに終わりに出来るわけないじゃん!それとも、願いは諦めちゃうの?」


「そ、それは…」


「じゃあ、もうちょっと頑張ってよ。私が満足したら試練達成にしてあげる。ね、私を見てよ。」


ゆっくり、恐る恐る顔を上げると…唯が屈託の無い笑顔で俺を見てくる。それを見ると少し安心したのとまた何かしてくるかもって大きな恐怖が襲ってくる。


「うん、いいこいいこ。それじゃ、今度はわたしと一緒に私が死ぬのを見てよっか。」


幻の唯が俺の頭を撫でてくる。そのままお腹の辺りに後頭部を抱えて座り、TVのリモコン操作をするように指をさす。その瞬間俺はしまったと思い慌てて抜け出そうとする。


「ふふ、だーめ。もう逃げられないよ~♪」


唯が俺にイタズラをしたときによく見せていた満足そうな笑顔をしていた。目を閉じれば良い…と思ったがそれすらも許されなかった。何故か瞼が動かせない。また、緊張が走り冷や汗が流れる。どうにかして逃げないと…あの人みたいになってしまう…。


「それじゃ、最初は撲殺される私から~」


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