1話 空っぽ
ー私ね、帰ってきたらお兄ちゃんに伝えたい事があるんだー
それが、最後に聞いた妹の言葉だった。
妹と父さんと母さん、四人幸せに過ごして、大人になったら結婚して俺も妹もそれぞれの家族が出来て…そんな時が来るんだと思ってた。
でも、もしも…叶うなら、俺はずっと妹と一緒に居たかった。だって俺は妹の事が大好きだったから。
それはきっと俺の歪んだ願いなんだと思う。
だから許されなかった。天罰が下った。俺のせいなんだ
妹はもう帰ってこない
こんな事ならしっかり話をしておけばよかったな。俺の気持ちを伝えておけば良かったかな?受け入れてくれたかな?それとも気持ち悪いって言われたかな?妹が最後に言った伝えたい事ってなんだったんだろう?
そんな事はいくら考えても答えなんて出てこない。だってもう妹はいないんだから…一緒に過ごしてきた家にも、毎日一緒に通っていた学校にも、最後に眠っていた病院のベッドにも…もうどこにも居ないんだ
俺はそんな現実は受け入れられなかった。辛かった。苦しかった。妹だけじゃない、父さんも母さんも居ない一人きりの家。俺の事を励まそうとしてくれる同級生。心配して夕飯に誘ってくる隣の家のおばさん達。面倒を見てくれるといった親戚。
なにも 俺の心には入ってこなかった
自分でも驚きだ。父さんと母さんが居なくなった事もだけど、それ以上に妹に会えなくなった事が辛かったから。
あちこちから俺を呼ぶ声が聞こえる。
妹の為にバイトして買ったネックレス。喜んでくれるかな?クリスマスプレゼントなんだ。本当は指輪にしようかと思ったけど流石にそれは恥ずかしかった。
今日は晴れている。風が気持ちいい。あいつもこんな日は外に出て自転車に乗ったり丘の上に行ったりしてたっけ。
会いたいな。もう一度会ってこれを渡したいな。もしも、生まれ変わりがあるとしたらもう一度兄妹になりたいな。
いや、一度なんかじゃない…何回でも俺は兄になりたい。ずっとずっと一緒に居たい。もう、他に何もいらないんだ。だから、頼むから妹に会わせてくれ。誰でも良いから。
妹の顔が浮かび上がる…笑顔の時、怒ってる時、泣いてる時。小さい時から最後の時まで妹の姿全てが思い出せる。おかしいな…すぐそこに居るのに触れない…
耳元がうるさい…体が揺れる…誰か、知らない人が目の前にいる。どいてくれないかな…妹が見えないから…